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4:母の恋愛
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屋敷へ戻ったアリーナは、仕事の報告のために母のいる執務室へ向かった。
ドアの前に立ちノックをしようとした瞬間、中から話し声が聞こえた。
どうやら母1人ではないようだ。
来客が来ているとは聞いていないため、執事か侍女だろう。
いつもなら気にせずノックをして入るのだが、この時は何故か出来心が働いた。
なんとなく、耳をドアに"そーっ"と近づけたのだ。
「またあの人、この屋敷の主人面して威張り散らした後、お金だけ持って出て行ったわ。…本当に恥ずかしくないのかしら? 一切仕事をせずに、全部妻に押し付けて…妻の作ったお金を愛人へ使うだなんて……。あの人も女も、プライドはないのかしら?」
話の内容に、先程の友人達とのお茶会を一気に思い出し、アリーナは気分が悪くなった。
(せっかく良い気分になっていたのに……)
アリーナは普段よりも大きな音で"コンコン"とノックをするとすぐに、話を打ち切るように、返事を聞かずにドアを思いっきり開けた。
すると、目の前に驚く光景が広がっていた……
母と執事が抱き合っていたのだ。
一瞬空気が止まった。
執事が何かを言って慌ただしく退室して行くも、アリーナの時は止まったままだった。
「アリーナ、お帰りなさい」
何事もなかったかのようにそう言う母。
「……お母様、今のは一体……」
「見ての通りよ」
「……なんで……」
アリーナの瞳には涙が浮かんでいた。
アリーナと母が嫌悪している相手、母がずっと苦労させられて来た相手……その、父と同じことを何故母がしているのか?
アリーナは予想もしていなかったことに、頭の中が真っ白だ。
「……弱音を吐ける相手が彼だけだったのよ……」
真っ直ぐにアリーナを見て、全く悪びれることなく母は言い、続ける。
「私はあなたと暮らすために、あなたに不自由させないために、精一杯頑張って来たわ」
「……それはわかっているわ。心から感謝してる……」
咄嗟にアリーナは感謝を述べる。
平民出身の母は、父の猛アタックで結婚したと聞いている。
結婚してから受けた貴族教育が大変だったことを、侍女長から聞かされたことがある。
母が貴族社会に慣れるために、祖父母に認めてもらうために、男爵婦人としてどれだけの努力をして来たのか……。
"だから母の子であるアリーナも頑張るように"
という意図で、侍女長はアリーナに話して来たのだろうが、それは成功だった。
本当にアリーナは母に感謝をしてもしきれないし、尊敬もしていた。
そんな母も離縁すれば平民にもどることとなる。
アリーナとも壁が出来る。
母はアリーナと一緒にいるために、あんな父親のためにアリーナに苦労をさせないために、ずっと頑張ってくれたのだ。
「私にも辛いことはたくさんあったわ。そんな時に、支えてくれたのが彼だったの」
母とアリーナは、"ジッ"とお互いの目を見ている。
「彼のおかげで、私はやってこられた」
その言葉は、アリーナにとって衝撃的だった。
「……そう。わかったわ」
アリーナは目を逸らすと、踵を返して部屋を後にした。
"彼のおかげ"その言葉が、何故だかショックだった。
"アリーナのおかげ"と、そう言われたかったのかもしれない。
アリーナは”母の心の支えは自分なのだ”と、何故だか勝手に思っていたのだ。
母にとって大切な存在は自分だけなのだと……
しかし、違った。
ドアの前に立ちノックをしようとした瞬間、中から話し声が聞こえた。
どうやら母1人ではないようだ。
来客が来ているとは聞いていないため、執事か侍女だろう。
いつもなら気にせずノックをして入るのだが、この時は何故か出来心が働いた。
なんとなく、耳をドアに"そーっ"と近づけたのだ。
「またあの人、この屋敷の主人面して威張り散らした後、お金だけ持って出て行ったわ。…本当に恥ずかしくないのかしら? 一切仕事をせずに、全部妻に押し付けて…妻の作ったお金を愛人へ使うだなんて……。あの人も女も、プライドはないのかしら?」
話の内容に、先程の友人達とのお茶会を一気に思い出し、アリーナは気分が悪くなった。
(せっかく良い気分になっていたのに……)
アリーナは普段よりも大きな音で"コンコン"とノックをするとすぐに、話を打ち切るように、返事を聞かずにドアを思いっきり開けた。
すると、目の前に驚く光景が広がっていた……
母と執事が抱き合っていたのだ。
一瞬空気が止まった。
執事が何かを言って慌ただしく退室して行くも、アリーナの時は止まったままだった。
「アリーナ、お帰りなさい」
何事もなかったかのようにそう言う母。
「……お母様、今のは一体……」
「見ての通りよ」
「……なんで……」
アリーナの瞳には涙が浮かんでいた。
アリーナと母が嫌悪している相手、母がずっと苦労させられて来た相手……その、父と同じことを何故母がしているのか?
アリーナは予想もしていなかったことに、頭の中が真っ白だ。
「……弱音を吐ける相手が彼だけだったのよ……」
真っ直ぐにアリーナを見て、全く悪びれることなく母は言い、続ける。
「私はあなたと暮らすために、あなたに不自由させないために、精一杯頑張って来たわ」
「……それはわかっているわ。心から感謝してる……」
咄嗟にアリーナは感謝を述べる。
平民出身の母は、父の猛アタックで結婚したと聞いている。
結婚してから受けた貴族教育が大変だったことを、侍女長から聞かされたことがある。
母が貴族社会に慣れるために、祖父母に認めてもらうために、男爵婦人としてどれだけの努力をして来たのか……。
"だから母の子であるアリーナも頑張るように"
という意図で、侍女長はアリーナに話して来たのだろうが、それは成功だった。
本当にアリーナは母に感謝をしてもしきれないし、尊敬もしていた。
そんな母も離縁すれば平民にもどることとなる。
アリーナとも壁が出来る。
母はアリーナと一緒にいるために、あんな父親のためにアリーナに苦労をさせないために、ずっと頑張ってくれたのだ。
「私にも辛いことはたくさんあったわ。そんな時に、支えてくれたのが彼だったの」
母とアリーナは、"ジッ"とお互いの目を見ている。
「彼のおかげで、私はやってこられた」
その言葉は、アリーナにとって衝撃的だった。
「……そう。わかったわ」
アリーナは目を逸らすと、踵を返して部屋を後にした。
"彼のおかげ"その言葉が、何故だかショックだった。
"アリーナのおかげ"と、そう言われたかったのかもしれない。
アリーナは”母の心の支えは自分なのだ”と、何故だか勝手に思っていたのだ。
母にとって大切な存在は自分だけなのだと……
しかし、違った。
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