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コヨタ

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第17話 今度の任務はオバケ退治

第17話・4 根性見せろ

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 レイラたちは再び校舎裏手の空き教室エリアへと踏み込んでいた。

 窓の外は暗く、外灯も届かない。

 まるで、そこだけが時間から取り残されたような──そんな静けさ。

 と、そのとき。

「……あれ……?」

 ラショウが足を止める。

 何かを感じた。

 ──風。
 冷たい、皮膚に張りつくような風。

 次の瞬間、暗闇の中で、“それ”の姿が浮かび上がる。

 ──スゥ……

 白く、布のような、透けた皮膚。
 光を通し、ぬるりとした質感。

 顔には目も口もあるはずなのに、どれも生気が無い。

 まるで人の顔を模した仮面のような──“死んだ人間”のような顔。

 爪ではなく、骨そのものが外に突き出したような前肢。
 二足歩行にも四足歩行にも自在に切り替わりながら、壁を這う。

「……!」

 アシュラが息を呑む。

「っ……あれが、本体か……!」

 だが、レイラが踏み出そうとした瞬間──。

「……ッ!?」

 後方から操られた男子生徒が突如として現れ、ラショウの腕を掴んだ。

「ラショウっ!!」

「えッ──きゃっ!」

 同時にレイラも背後から別の生徒に強く引っ張られ──。

「ぅわ!!」

 体勢を崩し、ふたりの体が遠くへと引きずり込まれる。

 ──ドン!! ガチャッ!!

 重く閉まるどこかの鉄扉。
 ガチャンと内側から鍵がかけられた音。

「レイラ!? ラショウ!!」

 アシュラは近くの扉を叩くが、開かない。

 そのすぐ背後──。

「ぎゃああああああああ!!!」

 リルの悲鳴。
 そして、ガッチリとアシュラの背中にしがみつく。

「うおっ!? な、なに!? お前か!!」

「やばいやばいやばいッ!! あの顔やばいって!! オバケ超えてる!!」

「ちょっ、くっつくな! 動きづらい!! あーもうっ!!」

「ひとりにしないでえ゙!!!」

「こっちも妹と親友が攫われたばっかなんだけどな!!」

 しがみついたまま離れないリルと、ツッコミながらも引き剥がせないアシュラ。

 まさに、男ふたり、校舎のど真ん中で悲しみの密着状態。

 そこにセセラの無線が入った。

『状況確認……! おい、まさか分断されたか!?』

「ッ、レイラとラショウが攫われました! 敵の本体は視認しましたが……!」

『……クソ、夜になってから本格的に動きやがったか……!』

 シエリの冷静な声も重なる。

『あの龍……明らかに“精神操作型”。接触を受けた者は思考を奪われる。今、レイラたちの位置を再追跡するからキミたちも敵の動向に──』

「し、シエリ先生! 助けて!! マジで今、心臓止まりそう!!」

『生きてるから喋れてる。落ち着きなさい』

 震えと涙が止まらないリル。

「っ……今は、とにかく……ふたりを助け出すぞ」

「無理むり無理ムリ……でも行くしかねえ……ぐすっ……」


 ◇


 一方その頃──引きずり込まれた暗室の奥。

「……う」

 レイラが目を開けると、すぐ傍で意識が混濁したラショウが倒れていた。

 そして、その暗い視界の端に。

 ──白布の龍が、立っていた。

「……!!」

 白く、透けた布のような皮膚。
 骨の腕。人間が死んだような顔。

 龍がぬるりと一歩、踏み出す。

「……っ、暗くてよく見えないのに……」


 ◇


 ──校舎2階の分かれ道では、階段下から影がゆっくりと這い上がってくる。

 操られた生徒たちの、呻き声と接近。
 その気配に背を押されるように、アシュラとリルは廊下に立ち尽くしていた。

 リルの指は震え、顔には涙と鼻水。
 その状態で、アシュラの一言を受ける。

「リル。二手ふたてに分かれるぞ」

「……へ?」

 完全に思考が止まっていた。

「このままふたりで動いても効率が悪い。お前は東棟、俺は西棟を捜す。レイラたちは必ずどこかにいる。だから、行け!」

 そう言ってアシュラはリルの両肩を掴み、力強く目を見つめる。

「今こそ、お前の根性を見せろ!」

「こ、根性ぉ……!?」

 そのときだった。

 ──ガチャン!!
 
 ガチャンッ! ガチャンッ!!

 ガチャンガチャンガチャンッ!!!

 校舎中に鳴り響く、全方位からの施錠音。

 扉という扉が、何かに命じられたように自動で閉じていく。

「ヒイッ……!! やだッやだァあ゙!! あしゅッマジで嫌だッ!!!」

「だから動けって! 行くぞ!!」

「む、無理無理!! 無理だって!! 嫌あ゙あ゙あ゙ッ!! ごわ゙い゙!!!」

 ──だが、時間は待ってくれない。

 かどを曲がると、操られた生徒たちが列を成して近づいてくる。

 その無機質な足音と、壁に反響する多数の呻き声が校舎の空気を異質なものに変えていく。

「……ッ」

 アシュラは歯を食いしばるようにして──。

「……頼む、リル。逃げる理由があるなら、戦う理由もあるだろ」

「…………っ……」

 リルの顔が、少しだけ上を向く。
 ……リルとは思えないあまりにも情けない表情。

「……リル、がんばれ……お前、あの死地から帰ってきたんだろ」

「……ぐすっ……」

「……リル……!」

「…………っ……わかった……」

 そう答えながら、涙と鼻水を袖で拭うと──。

 ようやく、リルは自分の足で東棟へと駆け出した。


 ◇


 保健室ではPCモニターが、ちらちらと乱れ始める。

 一部のカメラにはノイズが走り、レイラとラショウの中継は途絶えてしまう。

 シエリはPCを操作しながら、顔をしかめた。

「完全に視界外に連れ込まれたな」

「……むぐぐぐぐ…………」

 ヤニ切れセセラはイラついたように椅子を蹴って立ち上がる。

「あーーーもう!! くそっ、煙草!! なんでこういう時に限ってッ……!!」

 イラつくほど禁断症状が出て騒ぐセセラ。
 その隣でシエリが冷静に宥める。

「落ち着け。キミはもっとスマートでイケメンだろ」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙~~~っっ!!!」

 ノイズがチラつくモニターに映る、操られた生徒たち。
 その動きが徐々に統一されていく。

 今やそれは、ただの個別の干渉ではなくにすら見えていた。

 セセラは必死に自らを落ち着かせながら、言葉を吐く。

「……はあ……ッ……、生徒らに妨害しろって、龍が命令してんな。追いかけさせねえつもりかよ」

「……だったら、追わなければいい」

「……あ?」

「本体の方から来てもらうんだ。逆にね」


 ◇


 ──暗室。
 レイラは、目を凝らしていた。

 倒れたラショウの傍に身を寄せ、そっと耳元で名を呼ぶ。

「……ラショウ」

 返事は無い。だが、確かに呼吸はある。
 急いで助けを呼びたくとも、この空間は外との遮断が濃すぎた。

 目を凝らすたびに、龍が離れては近づいてを繰り返しているのがわかる。

 白い布が揺れるような体。
 “死んだ顔”を被った龍。

 レイラは、まっすぐに見返した。

「……あなたが、やったの?」

 答えは無い。
 しかし、死んだ目の“視線”だけは、確かに交わった。

 まるで──観察されている。

 選ばれた者に向ける、という冷たい熱。

 レイラはラショウを背後に庇いながら、構えを取った。

「近づかないで。……ラショウには触れさせない」

 ──静かに、戦闘の予感が漂い始める。


 ◇


 一方、校舎東棟ではリルが叫びながら走っていた。

「無理! やっぱ無理!! 無゙理゙~~~ッ!!」

 だが、足は止めない。
 叫ぶのは怖いからだけじゃない。
 居場所を知らせるためでもある。

 レイラやラショウのことを考えたとき、震えて止まるより騒いででも進んだ方がマシだった。

 ……たぶん。

 荒い息をつきながら、リルは手当たり次第に部屋の扉に手をかける。

 ──開かない。

 だが、その瞬間だった。

 ──バ ン ッ !!

 内側から突き飛ばすように扉が開き、リルに向かって勢いよく飛び出してきたのは──操られた男子生徒。

 白目。呻き声。無感情の攻撃。

「ひい゙ぃぃぃ!! ちょっと待てってぇ゙え゙え゙ッ!!」

 叫びながら咄嗟に身を躱し、支給された爪型の武具を構えた。

 手が震えている。

 だが、それでも──。

「うッ……マジでッふざけんなよ……!! でも、誰かがやんなきゃ、終わんねえんだろ……!!」

 覚悟が、爪先にまで宿る。
 足元は竦むが、前だけは見る。

「……クソが……ッ……」

 ──保健室ではシエリが椅子から立ち上がり、手元の通信端末を操作していた。

「陽動を仕掛ける。あの龍は誰かを選び、囲い込み、閉じる性質がある」

 セセラは口元をへの字に曲げながら、空のコーヒー缶を握り潰して呟く。

「選びたくなるエサをぶら下げるっつうことね」

 そしてセセラは無線をレイラに繋いだ。

「──レイラ、聞こえるか? 映像はわかんねえが、無線はどうだ?」

 返答は、ノイズ混じりだが確かにあった。

『──ッ、薊野さ……! 聞……える!』

(ノイズがすげえな……)

「龍、いるんだな?」

『……る。私とラショ……が連れ……れて、……前にいる。でも戦闘に……入っ……ない』

「そいつを挑発しろ。視線でも、声でもいい。そいつに、お前を

『……いいの?』

「上等だろ? 今度はお前が引きずり出せ」

 ──レイラがいる暗室。

「…………!」

 白い布のような龍が、未だ静かにレイラを観察していた。

 剣を構え、ラショウを背後に庇うレイラ。
 敵意を剥き出しにするでもなく、恐怖に支配されるでもなく、ただ誰かを守ろうとする意志がそこにはあった。

 ──不思議なことに、龍は動かない。

 まるで、もっと見たいとでも言うように、レイラという存在を分析しているようだった。

 そして、レイラは躊躇い無く龍に向かって、鋭い視線を投げる。

「……私を見て。気になるんでしょ? が」

 その瞬間。

 龍が震えるようにして、スッと首を傾けた。

 ──認識。
 ──確定。
 ──選定。

 まるで標的を登録するような静かな殺気。

 龍は、確かにレイラを選んだ。


 ◇


 ──同じ頃、薄暗い屋上の手すりにもたれかかるようにしているキイの姿があった。

 手には、観察用の端末。

「……選んだね、あの子を」

 ぼそりと呟く声には、どこか、感情が無い。
 まるで実況者のような淡々とした口調。

 しかし──指先が、震えていた。

「…………」

(……優しかった。あの子)

(もっと、ただの戦闘体だと思ってた。任務のために感情を切り捨てた存在だと……)

 だが、そうじゃなかった。

 優しく、笑ってくれた。
 敬語をやめて、名前で呼ぶのを許してくれた。

 知らない、感覚。

 感情……。

 ──それでも。

「……それでも、やらなきゃいけないんだ。ボクは、観察する側なんだから」

 どこか苦しげに──キイは再び、観測を続ける。


 ◇


 リルは駆け抜け、扉という扉を確認していた。

「レイラ! ラショウ! どこだよ!!」

 声が響く廊下。

 そのとき、背後から、ゾッとするような気配が迫る。

 振り返ると、床を這いずるような龍の一部──“骨の指先”のようなものが、リルの足元に迫っていた。

「わ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!?」

 全力で飛び退き、近くにあった廊下のロッカーにガン!!と頭をぶつける。

「いッて……!! クソ……ッ! マジでオバケじゃねえかよ! 手だけで動きやがって!!」

 それでも、逃げない。

 泣いても喚いても、その足は確かに前へ進んでいた。

「……クソがぁあ゙……!!」

 ──その頃、暗室では白い布の龍が、レイラへ向けて一歩一歩、音も無く近づいてくる。

 息を殺し、剣を握り締めるレイラ。
 その背後で、ラショウの呼吸が浅くなる。

 何かが──触れてはいないのに、精神に入ってくる。

「……意思は、無いの?」

 問いかけたレイラの声に、返事は無い。
 だが、確かに存在が揺れた。

 ただ、じりじりと、距離だけが詰まっていく。

 まるで──呼吸を計っているかのように。

(……探ってる……)

 レイラは悟った。
 この龍は、攻撃する前に対象を理解しようとしている。

 それもただの敵としてではなく、観察対象という存在そのものを──。

(……私を狙わせる……)

 視線が刺さる。皮膚を這うような思念。
 言葉にならない意味のない意思が、流れ込んでくる。

 その瞬間。

 部屋の外から、微かにリルの叫び声が聞こえた。

「……!!」

(……リル……!? こっちの方、来る……!?)

「──よしッ、こっちだ!」

 おもむろに、扉に向かって駆けるレイラ。

 ──ガチャッ! ガラッ!!

 解錠し、廊下へ。

「来い!」

 龍がレイラを追う。
 ──しかし、それでも現れては消えを繰り返していた。

 そして入れ違うように、リルが廊下を走る足音。
 それは怖さというより、焦りの音だった。

「レイラ! ラショウ! いたら返事しろ!!」

 リルは扉を1枚1枚、叩きながら確認していく。

「!!」

 突き当たりで、開けられたままの扉を見つけた。
 中を確認すると──ぐったりと倒れた制服姿の少女が暗がりの中に見える。

 ラショウだった。

「ラショウっ……!!」

 駆け寄り、肩を揺さぶるリル。

「おい、しっかりしろ……! レイラは……!?」

 泣きそうになりながらも、呼吸を確かめ、手を握る。

 レイラの姿は見えないが、指先がほんのり返してきた反応にリルは安堵した。

「……よかった、死んでねえ……。もうマジで、オレの心臓が何個あっても足んねえよ……」

 その背後──。

 視線を感じた。

「…………ッッッ!!」

 リルは振り向いて叫ぶ。

「来んなよマジで!! 許さねえぞ!!」

 たどたどしく爪武具を構えるその姿は、震えてはいるが、守る姿勢だった。

 そして西棟──。

 アシュラは無言で廊下を駆け抜けている。

 呼吸は乱れていない。だが、心が静かではなかった。

(ラショウ、レイラ……無事でいてくれ)

 扉を叩いて回っても、反応は無い。
 しかし、ある廊下の突き当たり──“それ”がいた。

「!!」

 一瞬だけ。
 龍はアシュラに気づき、静かに首を傾け「違う」とでも言うように、その場から消えた。

「……俺には興味ない、ってわけか」

 その背に汗が滲む。

(狙いはレイラ……かラショウ……)

 緊張が走る。

 だが──それと同時に、背後の階段から聞こえる足音。

 操られた生徒たちが、無言で階段を上がってきていた。

 数は……4人。

 アシュラは腰の刀に手をかけ、呟く。

「……加減が難しいな。“殺さずに止める”っていうのは……」

 階段を上がってきた4人の生徒たち。
 その瞳は濁り、まっすぐにアシュラを排除対象として見ていた。

「来るなら……来い」

 瞬間、生徒たちが駆ける。
 動きは鋭く、躊躇いのない踏み込み。

 アシュラは刀を鞘に収めたまま──空気を裂いた。

 ──シュバッ……!

 ひとりの腕を絡め、壁に押し当てる。

「すまない」

 肘関節を軽く決めて昏倒させた。

 その隙を突くように、もうひとりが背後から飛びかかる──が。

「……甘いんだよ……」

 アシュラの足払いがその体勢を崩させ、鞘のまま背に一打を食らわせて昏倒。

 非殺傷。迅速。正確。

 ただし──その数は更に増えていく。

「……!」

 一度に対応できる限界が、迫っていた。

 ──東棟ではラショウを背負い、ゆっくりと廊下を進むリル。

 涙目になりながらも、一歩一歩進んでいくがそのとき──視線が再び、リルに落ちた。

 突如現れた白い龍の閉じられているはずの目が、再度リルを捉える。

 ただの通りすがりではない。
 存在としての価値を認識されかけていた。

「ッ……なんだよ、今度は……!」

 しかし、既に龍の意識はレイラに向けた興味とはまた違う、“警戒”の色に切り替わっている。

 今はただ、恐怖によって抑えられているリルの闘志。

 それが自身にとって危険かもしれないと言うような龍の認識が、じりじりとリルに寄っていく。

「……んだよ……やんのか……?」

 しかし突然、龍はフッと消え去った。

「……!?」

 そしてまた──龍はレイラの元へ。



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