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コヨタ

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第20話 ボクと私

第20話・4 少女ふたり、融合

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「……ゲホッ……、トワ……」

 血混じりの咳と共に名を呼ばれた少女の顔は、未だ伏せられていてその表情は伺えない。
 だが、クオンの口から発された言葉が、全てを覆す。

「……わがままなトワ。やっつけたら、怒られるって言われてるのに……」

 刹那。

 ──ブワァァアアアッ!!

 クオンの貫かれた部位から、突如として禍々しい瘴気が膨れ上がった。
 貫通したままのトワの爪もろとも、禍々しい黒い瘴気はふたりを包み込んでいく。

「……っ、なにッ……!?」

 レイラが声を上げるもなく、その瘴気はクオンとトワふたりを飲み込むように巻き上がり──。

 空へと、縦に縦に、膨れ上がっていった。

「っ、これ……上に……!」

 リルの声もかき消されるほどの、圧倒的なの奔流。

 瘴気の柱の中から、異形の輪郭がゆっくりと現れる。

 ──そして、瘴気が裂けた。

「……!!」

 ズゥン……と重く響くような空気の音と共に現れたのは──。

「…………ふ、うフフフフ…………♪」

 深い青色の肌の、巨躯の女。

「……な……っ……」

「…………ッ」

 レイラも、リルも、目を見開いたまま硬直する。
 全高は5メートル程だろうか。ふたりともを見上げ、息を呑んでいた。

 目の前の存在は──異様だった。

 その女の手足は黒い鱗と甲殻が覆い、巨大な爪も有し、まさに竜の四肢。地を踏みしめる度、地響きが走る。

 紫から青にグラデーションする長いウェーブヘアが風に揺れ、頭には小さな翼。そして背にも大きく広がった蝙蝠のような竜の翼。

「……リル……っ……」

「…………ッ……」

 鋭い牙が覗く唇、そして赤く爛々と光る双眸。

 腰から伸びる尻尾は、フォークのように先が割れ、まさに──の化身。

「……な、なに……これ……?」

 レイラが声を震わせる。
 ただの女ではなかった。

 これは──“龍”だ。

 ……いや、龍なのか……?

「……悪魔……みてえだな……」

 リルが目を見開いたまま、静かに呟く。

 そしてその巨躯の唇が、艶やかに動いた。

「フフ……やっと、目を覚ませたわ。ここまで遊んでもらえるなんて、久しぶり……」

 その声は、クオンとトワのものではない。
 低く、艶やかで、全てを見下ろすかのような妖艶な女の声。

「私は……クオントワ。覚えやすいでしょう? ウフフ……♪」

 龍調査機関、モニター室では──。

「生体反応、変動……! 新たな龍体を……捉えました!」

「何だ……この数値……!」

「これは……完全な龍!? いや、構造が……異質すぎる……!!」

 職員たちの混乱の声が飛び交っていた。
 しかし、その中でも辛うじて冷静だったのは──。

「……出たな」

 セセラ。

 低い声で呟く。

「ついに、を見せやがった……」

 その存在は、ただの龍ではない。

 人のように過ごし、人のように喋り──しかしその本質は、確かに“龍”。

 レイラとリルの前に立ち塞がる、真なる存在。

 ファンタジー世界の女悪魔のような姿をしたその龍は、悠然と立っていた。

 深い青の肌に黒い鱗。
 妖艶にうねる髪と大きな翼、爛々と輝く目がこちらを見下ろしてくる。

 その紅い唇が、再びゆっくりと開いた。

「……ビックリしてて、可愛いわねぇ……?」

 声は甘く艶やかに響く。
 しかしその奥には、まるで嘲笑うかのような余裕が滲んでいた。

「……あの少女たちも、可愛かったでしょう? クオンも、トワもほんとに、健気で純粋で。でもね、あの子たちはだったのよ」

 レイラとリルは、呆然とその言葉を聞いていた。

「…………っ……」

 ──まるで幻想を聞かされているかのように。

「分かたれた意思と感情。生まれたが、こうしてになった……。それが私、クオントワなのよ」

 ゆっくりと、体を撫でるように腕を動かしながら囁く。

「……いえと言った方が正しいかしらね」

 その言葉と共に、クオントワの瞳がふっと輝きを増した。

「……!?」

 ──バチィッ!!!

 瞬間、視線を落としたその場所に──稲光のような轟音と閃光が炸裂する。

 レイラとリルの真横、一瞬で地面が抉れていた。

「ぅわ……ッ!!」

「……!!」

 思わず身を引いたふたりの耳に、ぞっとするような笑い声が響く。

「ウフフ……またビックリしたかしら? おチビさんたち」

 まるで遊ぶような口調で。

 牙を覗かせた唇には、紅いリップを塗ったような艶めきがあった。

(……なに、コイツ……)

 レイラは声が出ない。
 空気が飲まれていた。

「……ッ」

 リルですら、その威圧に思わず息を詰める。
 頬を一筋、冷たい汗が伝った。

 ──な汗。

 戦闘中の興奮とは全く違う、本能的な──恐怖による反応だった。

 そして、モニター室。

「い、今の攻撃……地点特定不能……!」

「生体反応、上昇が止まりません!」

「出力解析、龍因子構成異常! これは……」

 混乱と驚愕が一気に広がる中、一歩前に出たのは──シエリ。

「落ち着け。……センサーはそのまま稼働続行」

 そしてモニターに映る姿を凝視しながら、眉間に深く皺を寄せる。

「……これは人型を得た龍ではない」

 淡々と、しかし確信を持った声で。

なのだ……。だが、こんなにも異質な存在……自然のものとは思えない……」

 その言葉に、誰も返すことはできない。

 画面の中、あの悪魔のような女がゆったりとレイラたちに一歩、近づいていた。

 ──戦いの次元が、変わろうとしている。

「フフ……」

 妖艶に笑うクオントワの赤い瞳が、ゆったりと弧を描くようにレイラたちをなぞった。

「ねぇ……もう少し、恐怖に慄く姿を見せてくれないかしら……?」

 その声が響くと同時に、背中で巨大な翼が広がる。

 バサッという羽ばたきと共に、空に浮かぶクオントワ。
 そして、空中から見下ろしながら爪先を軽く下ろすと──。

 ──バチィッ!!!

「わッ……!!」

「……!!」

 再び、地面に雷撃が落ちる。
 しかしそれは、もはや警告ではなかった。

 直撃を狙ってきている。

「また来る……ッ!」

 レイラが即座に跳び退く。
 だがその一瞬、リルは視界の端で何かが“覚醒”するのを見た。

「……レイラ……それ」

 レイラの周囲に、淡く揺らぐ蒼白い光が立ち昇っていた。
 まるで霊体のように、静かで清冽な“龍の気”。

「私……まだ、もっと動ける」

 左目から光が炎のように溢れ、瞳は燃えるような蒼白い光で深く輝いている。
 ブレードにも同じオーラが纏われていき、レイラの全身を包み込むように蒼白い気流が流れていく。

「…………」

「……ああ……」

「……了解、レイラ……」

 リルは僅かに口元を吊り上げると──。

「なら……オレも、本気出すしかねぇよな……!」

 リルの背に、龍の力が一気に噴き上がる。

 赤黒いマントが形を変え、まるで裂けるように左右に展開。

 ──バサッ……!!

 龍因子が練り込まれたマントは背中と一体化し翼のような形で硬質化。

 両脚に瘴気が走り、爪先が地面を踏みつける。
 脚部を纏った瘴気は龍の骨格のように変化し、肌は装甲のような甲殻で覆われていく。

 頭部には角。顔に発生した甲殻は上半分を仮面のように覆っていた。

「準完全龍化──!」

 機関のモニター室がまた新たにどよめいた。

「反応値、限界ギリギリまで上昇──! でも安定してる……!」

「紅崎さん、制御成功……! ですよね……!?」

 職員たちの声に、セセラが眉をひとつ動かす。

「俺の言った通りだったろ。制御できるんだ、あいつは」

 そして。

 空からふたりを見下ろしていたクオントワが──。

「おやおや……」

 くすりと微笑んだ。

「なかなかに綺麗ね、ふたりとも。そんなに本気になってくれるなら……私もちゃんと応えてあげなきゃね」

 その巨体の影が、空から地へと大きく迫る。

 クオントワの巨大な龍の手が、降下と共に一気に地面に向かって振り下ろされた。

 ──ドオォン!!!

 準龍リルが跳び、レイラが左右へ駆ける。

 巨大な腕が地を抉り、破片が雨のように弾けた。

「……グル゙ル゙ル゙ルルルッッッ……!!」

「攻撃が重すぎる……!」

 クオントワは再び上空で妖艶に舞いながら、手を掲げる。

「さぁ、次はどっちに落としてあげようかしら……?」

 陽が落ちて暗いはずの空が、青白く光る。

 雷撃が、雷鳴と共に。

 空が、裂けた。

 ──バチィィィン!!!

「うッ……!!」

 稲妻が奔り、爆音が戦場を揺らす。

「ガァア゙ア゙アァアッ……!!!」

 準龍リルは言葉を発せていない──。
 だが、その動きが全てを語っていた。

 ──ガッ!!

 翼を広げた準龍リルが、滑空するようにレイラの元へと接近。
 強靭な脚で地を蹴り、抱きかかえるようにレイラを引き寄せる。

「ッ……リル!」

 雷光が直下に走る、その寸前でリルはその大きなの前足でレイラを抱えて飛翔し、爆風と閃光を後方に置き去りにした。

 上空。
 レイラがリルの腕から降りるように跳び、空中で身を翻した。

 蒼白いオーラが風の流れを纏うようにレイラを導き、龍の気配が空気を震わせていく。

「リル! ありがとう……! ここで仕掛ける!」

 剣を逆手に持ち、翼を広げて旋回していたリルと再び連携の構え。

 クオントワの唇がまた、愉しげに歪む。

「あなたも飛べるなんて、素敵ねぇ……。でも、そんなに浮かれてると──」

 ──ドンッ!!

 クオントワの龍の手が再び振り下ろされる。
 同時に、雷撃が枝分かれするように複数の地点へと降り出した。

(狙いが広範囲に……! なら──!)

 地上で加速するレイラ。寸前で姿勢を落とし身を捻る。地面ギリギリを滑るようにして雷撃を回避した。

 準龍リルは翼を広げたまま急上昇し、クオントワの頭上にポジションを取りながら、龍の爪をかざす。

「……ガル゙ル゙ル゙ル゙ル゙ッッ……!!!」

「……気高い獣ねぇ。でも、獣は……がいないと、すぐに暴れるのよ」

 クオントワの手がリルに向けて振り上げられた、その時──。

「リルは獣じゃない!!」

 レイラの声が疾風の中で響く。

 蒼白い霊体のようなオーラがレイラの全身と剣を包み、身体能力を爆発的に上昇させた。

「ッづァああああっ!!」

 そして、地上から斜め上へ向かって、跳躍──!

「ガァア゙ア゙ァアア゙アアッ!!!」

 咆哮を上げるリルとレイラの挟撃。

 地上と空中──。
 上下からの連携が、ついに炸裂する。

「……ッ……!!」

 レイラの剣が、クオントワの甲殻で覆われていない膝部分を掠め、蒼白いオーラを残して抜ける。

 直後、上空から。

 ──ズバァッ!!

 準龍リルの爪が、真上からクオントワの背へと振り下ろされ、そのまま切り裂いていった。

「……ぎぃいいっ……!!!」

 衝撃。
 クオントワの大きな体が地へと叩きつけられ、地面が波打つように震え、砕かれた瓦礫が舞う。

「やった……!」

 レイラは地面にストンと着地すると、刃先を構えたまま息を整えていた。

 上空のリルは空中で旋回しながら、鋭い眼光をクオントワへと向け続けている。
 獣のように息を荒げながらも、決して動揺は見せない。

 土煙の中、沈黙──。
 しかしそれも一瞬だった。

「……フフ……やるじゃない……」

 艶やかに、地を這うような低い声。

 ガラガラと瓦礫を押しのけるように、クオントワが立ち上がる。

 背から、膝から、そして頭からも蒼い血が滴り落ちていた。
 だがそれを嬉しそうに舐めるように、唇が微笑む。

「ほんとに……素敵だわ、あなたたち。こんなに私を本気にさせたのは……以来かしら?」

 ──ドンッ……!!

 一歩。
 女悪魔の足が踏み出す度に、地が震える。

「さあ、まだ続けてくれるのよね……? もっと、もっと──遊んであげる」

 その声に呼応するかのように背の翼が再び広がると、雷鳴が鳴り始めた。

「来る……!」

 剣を握る手に力をこめるレイラ。
 リルも翼をはためかせながら、再び上空からクオントワを狙って急降下を開始した。

 再び交錯する、龍と人の力──。
 天と地で火花が散る。

 ──バチィィィン!!!

 視界が一瞬、白く弾けた。

 その瞬間、クオントワの掌から放たれた雷撃が──。

「ガッ……ァ゙……!!!」

 宙を滑空していた準龍リルの体を貫く。

「……ッリル!!!」

 レイラの叫びと共に、リルの体が雷光の軌道を描きながら地へと真っ逆さまに墜ちた。

 ──ドガァンッ……!!!

 地面が抉れ、砂煙が吹き上がる。
 黒く変異した翼がもつれるように動き、準龍リルの大きな体が地に伏していた。

「グゥ゙ゥ゙ゥ゙ッ……!!」

 龍の喉から、呻きのような唸りが漏れる。
 その姿は傷にまみれ、身からは焦げた煙が立ち昇っていた。

 しかしそれでも、地を這いながらも牙を剥き続けている。

 レイラは、その姿を見ていた。

「…………っ……!」

 その目が、静かに、怒りに燃える。

「……許せない……!」

 レイラの手足から、ふつふつと蒼白いオーラが漏れ出す──だがそれだけではなかった。

 肩口──両肩の後方から、対になるように湧き上がったそれが、空気を揺らすように広がっている。

 ブワッ……と、まるでのように。
 あるいはのように、うねる蒼白い瘴気がレイラの背を這った。

「フーッ……ッ、フーッ……!!」

 肩で呼吸をする。
 左目からは、燃え盛るようにオーラが吹き出していた。

(違う……私は暴れてるんじゃない……)

(私……力に……呑み込まれそうなのを──)

 ──抑えている。

 握った剣の刃が、共鳴するように唸りを上げた。


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