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第5話 メイン4人、始動!
第5話・1 メイン4人、出撃!
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翌日。
龍調査機関・正面ゲート前。
午前6時47分。
朝の空気はひんやりとしていて、まだ地面には朝露の名残がある。
出撃用の無骨な黒い輸送車がすでに待機していた。
リルは手をポケットに突っ込んだまま先に到着しており、数分遅れてレイラが駆け足で合流する。
「ごめんっ、待たせた……!」
「時間通りだ。ほら、乗るぞ」
「……ん」
車体のドアが開き、穏やかに手を振るのはラショウ。
「レイラちゃん、リルくん。おはよう」
「ラショウ……おはよう」
「……おう。……重そうな箱、なに?」
「お薬とか応急処置セットとか……いろいろ。兄様の分も少し」
すると、助手席側からアシュラが降りてきた。
「皆、揃ったな。早めに出よう。道が崩れているらしいから、時間には余裕を」
朝日を背に受けたその姿は、相変わらず白銀に輝いて見えた。
(アシュ……今日も完璧すぎる)
レイラは思わず、隣のリルを見やる。
(幼なじみ……か)
リルは静かに車へと向かいながら、レイラに向けて小声で呟いた。
「……もっかい言っとく。アイツの行動、ビックリすんなよ」
「え……ああ、うん……」
(アシュの場慣れしてる感でもう既に驚いてるけど……まだ何かあるのかな)
◇
──車内・移動中。
後部座席にはラショウとレイラ、前部にはアシュラとリル。
「このあたり、樹海っぽい地形が続くみたいで。気をつけて歩かないと足場が不安定らしいよ」
ラショウが地図を膝に置きながらレイラに説明している。
レイラは頷きつつ、少し前のアシュラの背中を見つめた。
「…………」
(落ち着いてるな……)
戦いに行く、という空気が無い。
むしろ、まっすぐ過ぎて不安になる程の平静さ。
──それが、妙に気になった。
ふと、言葉が口を突いて出る。
「……アシュ」
「ん?」
アシュラは振り返らず、ルームミラー越しに目線だけを向けた。
「……怖くない? 今回の任務。4人って……、私……正直、ちょっと不安で」
「…………」
──沈黙。
けれどすぐ、穏やかな声が返ってくる。
「ありがとう。……大丈夫だ、怖くないよ」
一切の迷いも、揺らぎも無かった。
それが逆に──どこか、空虚にも感じられた。
レイラはそっと目を伏せる。
(……怖くない、んだ)
何が起きても──。
◇
車は森の奥へと静かに進んでいく。
そして、レイラたちが向かうカシノ岸壁では──いまだ眠らぬ“何か”が、微かな胎動と共に、その目を覚まし始めていた。
カシノ岸壁・外周警戒線跡地、午前8時32分。
霧が、濃かった。
日が高くなるはずの時間帯にも関わらず、太陽の輪郭がまるで見えない。
「……あれが警戒線だった場所か」
アシュラが車から降りながら、霧の向こうを見つめる。
古びた杭。赤く褪せた警告看板。
一歩踏み込めば、地面の苔がやけに濃く、柔らかく沈む。
「空気……重くない?」
ぼそりと呟いたレイラ。
リルは無言で、首元まで立てたマントの襟に手をかける。
「いるな……。ここにいる」
「リルくん、何か感じるの?」
「……龍っつうか……。もっとこう、嫌な感じだ」
ラショウはすぐにポーチから測定端末を手にし、画面を確認した。
「反応が……変動してる。中心が移動してる……?」
「中心……?」
「異常波形が、固定されてないの。まるで、歩いてるみたいな挙動……」
その時だった。
──ガサ……
遠く、木々の奥から。木の幹に擦れる、何か硬質な音。
そして──。
「……え」
ラショウが、思わず声を漏らした。
それは形をしていた。
人のような、獣のような、けれど“何かの皮”を被っただけの抜け殻のような──異形。
霧を裂き、確実にこちらを向いている。
「──ッ!!」
レイラが解析用ブレードの起動装置に手をかける。
アシュラの背が、音も無く前に出た。
リルの手が、素の状態でも黒い爪を覗かせる。
「来る……!」
──ガクンッ……!
レイラが声を出した突如、地面が沈む。
それは罠ではない。
地そのものが沈み込み、揺れた。
地下に“何か”がいる。
そして、それは──すぐそこまで。
4人の初任務が、嵐のように幕を開けた。
「来るぞ……!」
リルの声が響いた直後、霧の中から襲いかかってきた異形の龍。
樹のような四肢。腐った獣のような外皮。
全身から瘴気を噴き上げる異常存在。
──それが、何体も。
「ラショウ、右前。反応まだ2体……!」
「確認! 回避斜め後ろ、左に2メートル!」
「助かる……!」
手を龍化させたリルが滑るように横跳び、鋭い爪で異形の脚を切断。動きが鈍った個体を、レイラが剣で貫く。
しかし──次の瞬間。
「……あと5体来るぞ」
それはレイラの横をスッと走り抜けるアシュラの声だった。
「……!!」
驚くほど静かに、しかし確実に殺気だけを先に放ちながら、彼は刀を抜いていた。
「お前たち、下がって」
風が、止まったように感じた。
そして──。
「──ッ!」
地を踏んだアシュラ。
振り抜かれる、静かすぎる一撃。
空気が置き去りにされたような間のあと、前方の異形たちが、一拍遅れて裂けた。
脚を断たれた個体。
頭部を斜めに落とされた個体。
背中を貫かれた個体──。
どれも、一瞬のうちに沈黙した。
「……!!」
(は、速すぎる……!)
レイラは目を見張る。
だが、それよりも──。
(……笑って……る……?)
アシュラは口元に僅かに笑みを浮かべていた。
それはいつもの優しい笑みではない。
むしろ──。
(アシュ……楽しんでるの……!?)
一瞬、背筋にゾクリとした感覚が走る。
その笑顔は──狂喜のもの。
アシュラは振り返らず、刀についた血を軽く払った。
「次は……右奥。連携して、仕留めるぞ」
その声音に、緊張も躊躇いも無かった。
「……だから言ったろ」
レイラの隣に立つリルがぼそりと呟く。
「ビックリすんなよ、って」
「……あれ……本当に、アシュ……?」
「アイツはアイツで、ちょっとズレてんだよ。……いろいろとな」
◇
カシノ岸壁・さらに奥──。
ラショウが端末を手に走りながら、異常波形の変化を読み上げる。
「こっちに近づいてる! レイラちゃん、リルくん、兄様、気をつけて!! たぶん……これ、操られてる!」
「操られて……?」
「この波形、一定周期で他の個体を“操作”してるように……」
その時──。
「ようこそ。──龍調査機関の皆さん」
霧の奥、木の陰から人の声が響いた。
「!!」
瞬間、全員の動きが止まる。
ゆっくりと現れたのは、漆黒のコートを羽織った、背の高い人影。
顔は深くフードで隠れているが、口元は確かに笑っていた。
「……誰?」
レイラが問うと、男はゆっくりと手を広げる。
「名乗るほどの者ではありませんよ。ただの観察者です。あなたたちのような……美しい異常を見るのが好きでして」
「……気持ち悪ぃな」
低く唸るリル。睨みながら、警戒している。
「ふむ。では、あなた方に少しだけ関心を持っていただきましょうか」
男が指を鳴らした瞬間──。
空間が、歪んだ。
「!?」
まるで絵の中に引きずり込まれるように、霧の密度が一気に増し、音が消える。
「来るぞッ!」
アシュラの声。
霧が4人の体に纏わりついた。
「さて……楽しい実験の始まりです」
──霧が捻れ、色を変えていく。
「さあ、“あなたたちの脳の奥”を、ほんの少し覗かせてもらいますよ」
男の声が、まるで耳の内側に直接囁くように響き渡った。
その瞬間、霧が赤く染まっていく。
「──ッ!!」
同時に、4人の視界が──揺れた。
──
まず、レイラ。
「……ッ、え……?」
周囲が、変わった。
見えるのは、機関の廊下。冷たい床。小さな自室。
“誰も迎えに来なかった日”の風景。
「……やめて……これ、あの日の……」
手が震える。目の奥が痛い。
(これ……記憶……!?)
思わず後ずさるレイラ。
しかし、膝が床についたとき──。
「レイラちゃん!!」
──ラショウの声が、レイラを現実に引き戻した。
──
次に、リル。
「…………っ」
目の前に、血まみれの廊下。
呻く自分。それを見下ろす、顔の見えない“誰か”。
「……さて、リルは……うまく龍と仲良くなってくれるかな」
──その誰かの声が、鼓膜にこびり付く。
(クソ……こいつも精神系かよ……ふざけやがって……!!)
手が、勝手に震えていた。
だが、そこに──。
「リルくん! 呼吸して! ここに戻って!!」
ラショウの手が、肩に触れた。
その温かさが、幻を突き破る。
「っ……厄介だぜ、マジで」
そう言いながら、リルは目を覚ますように唸った。
──
そして、アシュラ。
「……ふうん」
視界が揺れた瞬間──彼は、瞬きひとつせず刀を構えていた。
「心理干渉。恐怖と罪悪感の呼び起こし……ははッ……、典型的な精神侵蝕系だな」
「……っ……効かないのか?」
「俺には、恐怖という感情が無いらしくてね」
淡々とした声。強靭な精神力。
そして、“霧の中の幻”を一閃する刀。
アシュラは一歩も引かず、前進していた。
──
最後に、ラショウ。
「レイラちゃん……大丈夫、ここにいて。あなたはここにいる」
ラショウの手のひらがレイラの背をそっと支える。
ラショウ自身も、守られてばかりの“過去の記憶”が目の前に漂っている。
しかし──。
「私は過去の後悔ではなく、今の命を守るんだ……」
そう口に出すことで、霧はスッと晴れた。
「兄様、リルくん、レイラちゃん……。ここに、戻ってこれる?」
──
「……ほう、これはこれは……」
男のフードの下から、笑い声が洩れる。
「面白い。まだ耐性が無いかと思えば……意外ですね」
彼の手から、今度は糸のような瘴気が伸びた。
「では次は、意志を試しましょう。あなたたちの中の龍──どこまで理性が保てるか」
その手が、リルとレイラの“存在”に触れようとした、瞬間──。
「させないよ」
ラショウが飛び込む。
短剣を逆手に持ち、その糸を斬り払った。
「誰かの心を弄ぶなんて、許せない」
「……ほう、ただのお嬢様がよく喋る」
「ただじゃないですから」
静かな怒気が籠った声。
その横、アシュラが冷ややかに告げる。
「お前の能力、一度見たらもう通じない。そういうことだ」
次なる戦いの前に──。
男の体が、一部崩れ始める。
「…………」
(……この黒幕、龍を使ってるんじゃない……)
(……取り込んでる……?)
それを察したのは、レイラだった。
「……これ、まだ本気じゃない……っ! ……来る!」
レイラの叫びと共に、霧が裂けた。
男の周囲に、龍の残骸と異形のパーツが融合し、その肉体が“龍の形態を持った異質”へと変貌を始める──。
龍調査機関・正面ゲート前。
午前6時47分。
朝の空気はひんやりとしていて、まだ地面には朝露の名残がある。
出撃用の無骨な黒い輸送車がすでに待機していた。
リルは手をポケットに突っ込んだまま先に到着しており、数分遅れてレイラが駆け足で合流する。
「ごめんっ、待たせた……!」
「時間通りだ。ほら、乗るぞ」
「……ん」
車体のドアが開き、穏やかに手を振るのはラショウ。
「レイラちゃん、リルくん。おはよう」
「ラショウ……おはよう」
「……おう。……重そうな箱、なに?」
「お薬とか応急処置セットとか……いろいろ。兄様の分も少し」
すると、助手席側からアシュラが降りてきた。
「皆、揃ったな。早めに出よう。道が崩れているらしいから、時間には余裕を」
朝日を背に受けたその姿は、相変わらず白銀に輝いて見えた。
(アシュ……今日も完璧すぎる)
レイラは思わず、隣のリルを見やる。
(幼なじみ……か)
リルは静かに車へと向かいながら、レイラに向けて小声で呟いた。
「……もっかい言っとく。アイツの行動、ビックリすんなよ」
「え……ああ、うん……」
(アシュの場慣れしてる感でもう既に驚いてるけど……まだ何かあるのかな)
◇
──車内・移動中。
後部座席にはラショウとレイラ、前部にはアシュラとリル。
「このあたり、樹海っぽい地形が続くみたいで。気をつけて歩かないと足場が不安定らしいよ」
ラショウが地図を膝に置きながらレイラに説明している。
レイラは頷きつつ、少し前のアシュラの背中を見つめた。
「…………」
(落ち着いてるな……)
戦いに行く、という空気が無い。
むしろ、まっすぐ過ぎて不安になる程の平静さ。
──それが、妙に気になった。
ふと、言葉が口を突いて出る。
「……アシュ」
「ん?」
アシュラは振り返らず、ルームミラー越しに目線だけを向けた。
「……怖くない? 今回の任務。4人って……、私……正直、ちょっと不安で」
「…………」
──沈黙。
けれどすぐ、穏やかな声が返ってくる。
「ありがとう。……大丈夫だ、怖くないよ」
一切の迷いも、揺らぎも無かった。
それが逆に──どこか、空虚にも感じられた。
レイラはそっと目を伏せる。
(……怖くない、んだ)
何が起きても──。
◇
車は森の奥へと静かに進んでいく。
そして、レイラたちが向かうカシノ岸壁では──いまだ眠らぬ“何か”が、微かな胎動と共に、その目を覚まし始めていた。
カシノ岸壁・外周警戒線跡地、午前8時32分。
霧が、濃かった。
日が高くなるはずの時間帯にも関わらず、太陽の輪郭がまるで見えない。
「……あれが警戒線だった場所か」
アシュラが車から降りながら、霧の向こうを見つめる。
古びた杭。赤く褪せた警告看板。
一歩踏み込めば、地面の苔がやけに濃く、柔らかく沈む。
「空気……重くない?」
ぼそりと呟いたレイラ。
リルは無言で、首元まで立てたマントの襟に手をかける。
「いるな……。ここにいる」
「リルくん、何か感じるの?」
「……龍っつうか……。もっとこう、嫌な感じだ」
ラショウはすぐにポーチから測定端末を手にし、画面を確認した。
「反応が……変動してる。中心が移動してる……?」
「中心……?」
「異常波形が、固定されてないの。まるで、歩いてるみたいな挙動……」
その時だった。
──ガサ……
遠く、木々の奥から。木の幹に擦れる、何か硬質な音。
そして──。
「……え」
ラショウが、思わず声を漏らした。
それは形をしていた。
人のような、獣のような、けれど“何かの皮”を被っただけの抜け殻のような──異形。
霧を裂き、確実にこちらを向いている。
「──ッ!!」
レイラが解析用ブレードの起動装置に手をかける。
アシュラの背が、音も無く前に出た。
リルの手が、素の状態でも黒い爪を覗かせる。
「来る……!」
──ガクンッ……!
レイラが声を出した突如、地面が沈む。
それは罠ではない。
地そのものが沈み込み、揺れた。
地下に“何か”がいる。
そして、それは──すぐそこまで。
4人の初任務が、嵐のように幕を開けた。
「来るぞ……!」
リルの声が響いた直後、霧の中から襲いかかってきた異形の龍。
樹のような四肢。腐った獣のような外皮。
全身から瘴気を噴き上げる異常存在。
──それが、何体も。
「ラショウ、右前。反応まだ2体……!」
「確認! 回避斜め後ろ、左に2メートル!」
「助かる……!」
手を龍化させたリルが滑るように横跳び、鋭い爪で異形の脚を切断。動きが鈍った個体を、レイラが剣で貫く。
しかし──次の瞬間。
「……あと5体来るぞ」
それはレイラの横をスッと走り抜けるアシュラの声だった。
「……!!」
驚くほど静かに、しかし確実に殺気だけを先に放ちながら、彼は刀を抜いていた。
「お前たち、下がって」
風が、止まったように感じた。
そして──。
「──ッ!」
地を踏んだアシュラ。
振り抜かれる、静かすぎる一撃。
空気が置き去りにされたような間のあと、前方の異形たちが、一拍遅れて裂けた。
脚を断たれた個体。
頭部を斜めに落とされた個体。
背中を貫かれた個体──。
どれも、一瞬のうちに沈黙した。
「……!!」
(は、速すぎる……!)
レイラは目を見張る。
だが、それよりも──。
(……笑って……る……?)
アシュラは口元に僅かに笑みを浮かべていた。
それはいつもの優しい笑みではない。
むしろ──。
(アシュ……楽しんでるの……!?)
一瞬、背筋にゾクリとした感覚が走る。
その笑顔は──狂喜のもの。
アシュラは振り返らず、刀についた血を軽く払った。
「次は……右奥。連携して、仕留めるぞ」
その声音に、緊張も躊躇いも無かった。
「……だから言ったろ」
レイラの隣に立つリルがぼそりと呟く。
「ビックリすんなよ、って」
「……あれ……本当に、アシュ……?」
「アイツはアイツで、ちょっとズレてんだよ。……いろいろとな」
◇
カシノ岸壁・さらに奥──。
ラショウが端末を手に走りながら、異常波形の変化を読み上げる。
「こっちに近づいてる! レイラちゃん、リルくん、兄様、気をつけて!! たぶん……これ、操られてる!」
「操られて……?」
「この波形、一定周期で他の個体を“操作”してるように……」
その時──。
「ようこそ。──龍調査機関の皆さん」
霧の奥、木の陰から人の声が響いた。
「!!」
瞬間、全員の動きが止まる。
ゆっくりと現れたのは、漆黒のコートを羽織った、背の高い人影。
顔は深くフードで隠れているが、口元は確かに笑っていた。
「……誰?」
レイラが問うと、男はゆっくりと手を広げる。
「名乗るほどの者ではありませんよ。ただの観察者です。あなたたちのような……美しい異常を見るのが好きでして」
「……気持ち悪ぃな」
低く唸るリル。睨みながら、警戒している。
「ふむ。では、あなた方に少しだけ関心を持っていただきましょうか」
男が指を鳴らした瞬間──。
空間が、歪んだ。
「!?」
まるで絵の中に引きずり込まれるように、霧の密度が一気に増し、音が消える。
「来るぞッ!」
アシュラの声。
霧が4人の体に纏わりついた。
「さて……楽しい実験の始まりです」
──霧が捻れ、色を変えていく。
「さあ、“あなたたちの脳の奥”を、ほんの少し覗かせてもらいますよ」
男の声が、まるで耳の内側に直接囁くように響き渡った。
その瞬間、霧が赤く染まっていく。
「──ッ!!」
同時に、4人の視界が──揺れた。
──
まず、レイラ。
「……ッ、え……?」
周囲が、変わった。
見えるのは、機関の廊下。冷たい床。小さな自室。
“誰も迎えに来なかった日”の風景。
「……やめて……これ、あの日の……」
手が震える。目の奥が痛い。
(これ……記憶……!?)
思わず後ずさるレイラ。
しかし、膝が床についたとき──。
「レイラちゃん!!」
──ラショウの声が、レイラを現実に引き戻した。
──
次に、リル。
「…………っ」
目の前に、血まみれの廊下。
呻く自分。それを見下ろす、顔の見えない“誰か”。
「……さて、リルは……うまく龍と仲良くなってくれるかな」
──その誰かの声が、鼓膜にこびり付く。
(クソ……こいつも精神系かよ……ふざけやがって……!!)
手が、勝手に震えていた。
だが、そこに──。
「リルくん! 呼吸して! ここに戻って!!」
ラショウの手が、肩に触れた。
その温かさが、幻を突き破る。
「っ……厄介だぜ、マジで」
そう言いながら、リルは目を覚ますように唸った。
──
そして、アシュラ。
「……ふうん」
視界が揺れた瞬間──彼は、瞬きひとつせず刀を構えていた。
「心理干渉。恐怖と罪悪感の呼び起こし……ははッ……、典型的な精神侵蝕系だな」
「……っ……効かないのか?」
「俺には、恐怖という感情が無いらしくてね」
淡々とした声。強靭な精神力。
そして、“霧の中の幻”を一閃する刀。
アシュラは一歩も引かず、前進していた。
──
最後に、ラショウ。
「レイラちゃん……大丈夫、ここにいて。あなたはここにいる」
ラショウの手のひらがレイラの背をそっと支える。
ラショウ自身も、守られてばかりの“過去の記憶”が目の前に漂っている。
しかし──。
「私は過去の後悔ではなく、今の命を守るんだ……」
そう口に出すことで、霧はスッと晴れた。
「兄様、リルくん、レイラちゃん……。ここに、戻ってこれる?」
──
「……ほう、これはこれは……」
男のフードの下から、笑い声が洩れる。
「面白い。まだ耐性が無いかと思えば……意外ですね」
彼の手から、今度は糸のような瘴気が伸びた。
「では次は、意志を試しましょう。あなたたちの中の龍──どこまで理性が保てるか」
その手が、リルとレイラの“存在”に触れようとした、瞬間──。
「させないよ」
ラショウが飛び込む。
短剣を逆手に持ち、その糸を斬り払った。
「誰かの心を弄ぶなんて、許せない」
「……ほう、ただのお嬢様がよく喋る」
「ただじゃないですから」
静かな怒気が籠った声。
その横、アシュラが冷ややかに告げる。
「お前の能力、一度見たらもう通じない。そういうことだ」
次なる戦いの前に──。
男の体が、一部崩れ始める。
「…………」
(……この黒幕、龍を使ってるんじゃない……)
(……取り込んでる……?)
それを察したのは、レイラだった。
「……これ、まだ本気じゃない……っ! ……来る!」
レイラの叫びと共に、霧が裂けた。
男の周囲に、龍の残骸と異形のパーツが融合し、その肉体が“龍の形態を持った異質”へと変貌を始める──。
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