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コヨタ

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第5話 メイン4人、始動!

第5話・2 メイン4人、帰還!

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 異形の男の体が膨れ上がり、黒い外皮と赤く脈打つ組織が表面を覆っていく。
 背には竜の骨を思わせる突起、四肢は肉がひしゃげるように広がり、顔は笑みのままに崩れた。

「さあ、龍の殻と人の意志の融合を──ご覧ください」

 その声は低く、なおも“人”だった。

「レイラちゃん、ブレードの出力、下げないで!」

 ラショウが叫ぶ。レイラは頷き、精神干渉の残滓を振り払うように踏み込んだ。

「リル、合わせるよ!」

「……了解、行くぞッ……!!」

 リルの足元を霧が巻き、赤黒いマントがなびく。元々縦に細いその瞳孔が一瞬、更に細く縦に裂ける。

 ──刹那。

 巨大な腕が地を薙ぎ払い、4人は四方に散開した。

「分離して包囲!」

  アシュラの指示と同時に、彼自身が最も近くへ踏み込む。

(動きが読める──来る)

 飛び出す刃。それを躱して、アシュラの刀が肋骨の間を正確に穿つ。

「……浅いか」

 も無く、背後から触手のような尾が伸びた。

「っ、兄様──!」

「!」

 ラショウの声と同時に、アシュラが低く跳ぶ。そこへラショウの短剣が横から滑り込むように尾を裂いた。

「ありがとう、ラショウ。正確だった」

「うん、大丈夫……でも、あれ、してる……?」

 ラショウの言葉通り、裂けた尾がずるりと再生し始めていた。

「再生が早すぎるよ……!」

「つまり“中”を斬れってことか」

 リルが駆ける。龍の力がその足に、腕に宿る。

「レイラ、足止め頼む! オレが真下に潜る!」

「わかった……ッ!」

 レイラがブレードを逆手に構え、男の正面へ飛び込んでいった。

「そのまま斬れッ!!」

 リルの叫びと同時に異形の男の掌が開かれ、精神干渉の光が放たれる──が。

「それはもう通じないって言っただろ?」

 端正な顔を狂気に歪めて笑うアシュラがその腕を横から一刀。

 血を撒き散らしながら男が短く呻く。

 ──その隙に、リルが真下から跳ね上がった。

「喰らえ……ッ!!」

 龍化した爪が、再生し続ける胸部のへと突き刺さる。

 ──炸裂。

 光と衝撃が霧の中に弾けた。

「…………!」

 ──静寂。
 再生が、止まった。

 男の体がゆっくりと膝をつき、崩れ始める。

「終わった……?」

 ラショウが恐る恐る呟く。

 だが──。

「ふふ……なかなか、興味深い反応でした……」

 男の“顔”だけが、まだ笑っていた。

「今後も、観察を続けます……龍を持つ者たち……」

 そして、瘴気に包まれながら──。
 姿が、霧の中に消えた。

 ──決着。

 だが、それはほんの“観測の一端”にすぎなかった。


  ◇


 ──帰還中の輸送車内。

 夕方に差し掛かる空を映す窓の外、木々が流れていく。4人は静かにそれぞれの席に腰掛け、少しだけ口を開いた。

「……あの男、ただの人間じゃない」

 レイラがぽつりと呟いた。

「あれだけの異形を操って、あんなにも精神干渉ができて、自分も変体してた……」

「普通の人間じゃないとしたら……龍?」

 疑問の声を漏らすラショウ。

「……あの人間が、もしなんだとしたら、私と……リルと同じように龍に憑かれたってわけなんだろうけど……」

 レイラは少し考えるようにを置き、続けた。

「……普通、人間は龍に憑かれても体が耐えられないって聞いた」

 その言葉にリルが神妙な面持ちで応える。

「……それは確かにそうだ。大抵、どちらもくたばる。……だが世の中に絶対はねえ。体が耐えられなかったのは人間の方で、……って考えられねえかな」

 アシュラも静かに、リルの返答に頷いた。

「……俺も、それ……思った。……おそらく、人間としての自我は無い。龍が体を借りて動き回っている。そこに善と悪は無い……のかもしれないな」

「…………」

 レイラは言葉を継がず、窓の外に目を向ける。
 そして、ふと考えてしまった。

(……私とリルはまだ、自我があるだけで……)

(根本的には、同じなのかもしれない……)


 ◇


 帰還。
 龍調査機関・施設前──。

 車が静かにゲートをくぐり、機関のロータリーへ入ると、 白衣の職員たちが出迎えるように整列していた。

 その中央──。
 ふたつのお下げ髪にピンク色の瞳を持つ、小柄な少女。

「おかえり。……お疲れだね、みんな」

 所長、シエリだった。

「シエリ先生!」

 レイラが駆け寄る。

「あのっ報告が……! えっと、現地で──」

「わかったわかった、後で順番に聞くから。焦らないで、ね」

 苦笑いを浮かべるシエリ。

「ひとりずつな。情報がごちゃまぜだと、私の小ぶりでキュートな頭がショートする」

「……ご、ごめん」

 アシュラとラショウも頭を下げると──。

「おかえり。リルとレイラは先に検査室へ」

 静かだがはっきりとしたセセラの声が背後から聞こえた。

「俺が引き受ける。西城のふたりは、検査室の外で待っててくれ」

「承知しました」 

 アシュラが一礼し、ラショウも軽く会釈する。


 ◇


 リルとレイラが奥の検査室へ向かうのを見送った後──。

 廊下の端で待機する西城兄妹の周囲に、「アシュラ様、お帰りなさい……!」 「ラショウ様、今回も差し入れ……」と、もはやただのファンと化した職員たちがぞろぞろと集まり始めていた。

「……ええと、皆さん、あ、はは……」

 ラショウは少し戸惑いながら笑う。
 アシュラも困ったように笑っているが、その姿勢は崩れない。

「……静かにしてやってください。今、ふたりが検査中なので」

 と、綺麗すぎる顔で唇に人差し指を当てる。

 職員たちは「あっ、はいっ……」とやや名残惜しげに散っていった。

「…………」

 ──廊下に静けさが戻る。

 アシュラは手すりにもたれながら、ふっと息をついた。

「……今回の任務。思ったよりも、得られるものが多かったな」

「……うん、そうだね」

 ラショウも隣に立つ。

「レイラちゃん、すごく頑張ってたよ。……リルくんも。あのふたり、本当に……」

「……強いよな」

 少しだけ柔らかくなるアシュラの声。

「でも……無理してるようにも見えた」

 ラショウはそれに小さく頷いた。

「うん。私も……そう思った」 

「…………」

 しばし沈黙──。
 そして、アシュラがぽつりと呟く。

「……ラショウ。俺たちに、何ができるかな」

「……え……?」

 その問いに、ラショウはそっと目を細めた。

「……一緒に、いてあげる。傍にいて、必要なときに、手を差し伸べてあげる。……そういうことでしか、支えられないかもしれないけど」

「…………」

 アシュラはその答えを聞くと──。

「……十分だよ」

 小さく笑った。

 ふたりは並んで、静かに検査室の扉を見つめ続けている。

 その検査室内──。
 レイラとリル、そしてセセラ。

 無機質な白の空間。蛍光灯の静かな明かりが、壁際のモニターと計測器を照らしている。

 レイラは診察椅子に座り、リルはその後ろで腕を露出させた状態で椅子にもたれていた。

 セセラは端末を片手に、ふたりのデータを確認していく。

「外傷は軽度、内部の龍反応も安定。ただ……」

「……ただ?」

 ちらりとセセラの横顔を見るレイラ。

「“精神波形”がぶれてる。レイラ、お前……ずいぶん中で引っ張られただろ」

「う、……うん。……あの人の、あの目が……まだ離れない。この前の任務もすごく精神的にきたばかりで……」

 レイラの指先が膝の上で少し震えている。

 リルは無言だったが、ゆっくりと片目を開けてセセラを見やった。

 セセラは静かにデバイスを切ると──。

「……よし」

 と、椅子を回してレイラの正面に座った。

「じゃあ少し、時間もらうぜ。カウンセリングだ」

「……カウンセリング?」

「そ。俺のもうひとつの仕事」

 意外そうに目を見開くレイラに、セセラはほんの少しだけ微笑みを見せる。

「喋りたいことを喋れ。言いたくなきゃ黙ってていい。けど、正直にな」

「……うん」

 レイラは小さく息をついて、自分の中に残った“引っかかり”を探すように言葉を選んだ。

「えっと……怖かった、というより……って、思っちゃって」

「似てる?」

「うん。……私も、リルも、龍を宿してる。でも、私たちはまだ人間でいようとしてる。 ……でも、あの人……龍に体を乗っ取られてるんじゃないかって……」

 言葉が詰まった。

「……それで、どこかで……私たちもいつか、になるのかもしれないって、思っちゃって……」

「…………」

 ──沈黙。

 セセラはしばらく視線を落としていたが、やがて静かに語った。

「……その感覚は、正しいと思う」

「……っ……!」

 伏せていた顔を上げるレイラ。

「俺たちも、常にそれを恐れてる。“龍の力”は人間を変える。お前も、リルも、例外じゃねえ」

「…………」

「けどな、それを怖がることは悪くない。自分を保とうとする限り、お前は“人間”だ」

「……!」

 レイラは、少しだけ息をついた。

「……薊野さん、優しいね」

「やめろ、鳥肌立つ」

「フッ……」

 リルはその様子を見て、小さく笑ったような顔に。

「……なんだよリル」

「いや。薊野さんってやっぱり……大人だなって」

「は? 俺のこと笑ってたの? お前がガキすぎんだよ」

「うるせえ」

 淡々としたやり取りが、少しずつ空気を元に戻していく。

 セセラは再び端末を開いた。

「……とりあえず、異常は無し。だが念のため、経過観察。特に精神面の推移は逐次ログに記録されるからな」

「うん……」

 ふたりが席を立つと、セセラはふと真顔で告げた。

「……次も任務が来る。間違いなく。だが、今はちゃんと休め。戦う前に、“戻る場所”を忘れんな」

 その言葉に、レイラとリルは共に──小さく、頷いた。


 ◇


 夕暮れが濃くなり始めた頃、検査室の扉が開く。

 廊下で待っていたアシュラとラショウが、リルとレイラの姿を見て、自然に歩み寄った。

「おかえり、ふたりとも」

 ラショウの声が柔らかい。

「……異常無し。けど、経過観察」

 リルが面倒くさそうに言いながら腕を組む。

「そうか。無事でよかった」

 アシュラが短く頷いた──その時だった。

「……そうだ」

 唐突に、アシュラが口を開く。

 その横顔は冗談ひとつ無さそうなほど真剣で、 整いすぎた顔立ちがさらに引き締まり、思わず皆の視線が集まった。

「……何?」

「どうかしたの?」

 ラショウとレイラが同時に尋ねる。
 アシュラはその真剣な顔のまま、しばしを置いてから告げた。

「……、しないか?」

「……え?」

 全員の動きが一瞬止まる。

「初めて4人で任務に行った。レイラとももっと親睦を深めたい。そして単純に腹が減った」

「……つまり、皆でご飯食べに行こうってこと?」

「そういうことだ」

 その答えに、ラショウは小さく吹き出すように笑った。

「……いいかも。賛成!」

「レイラが食べたいものでいい。皆でメシ食いに行こう」

 そう言ってレイラを見つめるアシュラの顔は、どこまでも真面目で──。

「えっ?」

 レイラはその綺麗すぎる目から思わず視線を逸らしながら、戸惑ったように手を振る。

「え……、いや、そんな……いいよ、気使わなくても……! 皆が食べたいもので──」

「……肉」

 割って入ったのはリル。

「肉だ肉、焼肉。アシュラお前の奢りで」

「ちょ、ちょっと……! 奢りなんてそんな……! 4人もいるのに……!」

 わたわたとレイラが慌てる中──。

「いいよ」

 あっさりと答えるアシュラ。
 その即答ぶりに、レイラは再び沈黙。

(この人……金銭力もある……)

 どこまでもハイスペックなアシュラに、完敗するような気持ちになっていた。

 そして4人は並んで歩き出す。
 日常の中へと、一歩戻っていくように。



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