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コヨタ

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第5話 メイン4人、始動!

第5話・3 メイン4人、食う!

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 木造の温かみのある外観、ガラス窓から漏れる明かり。郊外にある落ち着いた雰囲気の高級そうな焼肉屋。

 店に入ると、炭の香ばしい匂いとタレの香りがレイラたち4人を迎えてくれた。

「いらっしゃいませ~! 4名様ですね!」

 元気な店員に案内され、一行は個室の掘りごたつ席に着く。

「さて……注文、どうしようかな」

 ラショウがメニューを開くと同時に、その向かいのリルが無言でタッチパネルを操作し始めた。

 見境なく画面へ指をつつく仕草を見て、「ちょ、ちょっと!?」と隣に座るレイラが意外なリルの行動に驚く。

「全部、肉。上カルビ、ハラミ、ホルモン、タン、ロース、あとライス大盛×2」

「……多くない!?」

 また驚く。

「オレが食いまくってたらお前らも遠慮無く食えるだろ」

 そう言いながらリルはタッチパネルを最後までスクロールして、『ドリンクバー×4』にまで無言でチェックを入れた。

「じゃ、飲み物取ってくる」

 すっと立ち上がるリルに、アシュラも微笑みながら同行する。

「俺も行く。……リルお前、相変わらずすごいな、行動が早い」

 レイラはふたりを見ながら苦笑いを浮かべていた。

 ドリンクバーの機械の前で、リルはグラスにメロンソーダを注ぎながら小さく呟く。

「……龍化っつーのはエネルギーを使うんだよ」

 軽く首を回しながら、隣で烏龍茶を注いでいたアシュラに聞こえるように。

「そうか。だから、あれだけ食べるんだな」

「別にガツガツしてるわけじゃねえ。けど、体が勝手に動く。止まんねえんだよ、腹が減ると」

「……りょーかい。けど、食いすぎて倒れるなよ」

「フッ、うるせ……誰がせっかく人の金で食える焼肉でブッ倒れるんだよ」

 テーブルに戻ると、既に何皿もの肉が運ばれていた。

 ラショウがトングを持って、丁寧に肉を網に並べていく。

「いい焼き加減にするから、少し待っててね」

「おいしそう……」

 レイラが小さく呟いたとき、リルがもうひと皿のロースに手を伸ばして焼き始める。

「……リルも焼いたりするんだ」

「……? 普通だろ」

 少し離れた網で自分のゾーンを確保した普段は料理っ気の無いリル。彼の箸は、早くも白飯に向かっていた。

「こいつ……」

 アシュラが笑いを堪えながら肉を裏返す。

 ジュウ……という音と、香ばしい匂い。
 やがて焼き上がった肉を、ラショウがそれぞれの皿に配りながら──。

「はい、レイラちゃん。タレ付き。リルくんは塩が好きだったよね?」

「気が利くな」

「えへへ……」

 レイラは肉を一切れ口に運ぶと、感激したように目を細めた。

「……おいしい……!!」

「良かった。もっと食べていいからな」

 その後も、話しながら、笑いながら──テーブルの上の肉はみるみるうちに減っていく。

 リルの箸は、始終止まらない。

 何も早食いをしてるわけではない。
 その箸のスピードが止まる様子を見せないだけ。

(どれだけ入るの、この人……)

 レイラは隣で黙々と肉を食べ続けるリルの横顔をちらりと見て、内心でそう呟いた。


 ◇


 ──やがて、ラショウとレイラの箸が自然と止まり始める。

「……ちょっとお腹いっぱいかも……」

「私も……」

 テーブルにはまだ何皿か肉が残っていたが、リルは何事もなかったかのように肉を焼き続けている。 

 飲み物を口に含み、咀嚼し、また焼く。

 動作はゆっくりだが止まることはない。

「……いくら何でも食べすぎじゃ……」

 レイラが呟くと、ラショウは笑って軽く首を振った。

「もう皆慣れてるよ。リルくん、こういうとき本当に食べるの」

「オレは元々よく食う方なんだよ、こう見えてな」

 手で口を覆いながらもごもごと呟くリル。

「ただ、任務がある日とかはあんまり食い過ぎないようにしてるだけだ」

「……そうなんだ」

 一方、アシュラもまた手を止める気配無く、淡々と肉を口に運んでいる。
 リル程のペースではないが、しっかりとした量を食べていた。

 その姿は健康的で、食べ方も綺麗。 
 しかし、整った顔が焼肉の煙越しに揺らいで見えるその光景に──。

(こんなにカッコイイ人がご飯食べてる姿って……何でこう、どこか非現実感があるんだろう……)

 と、レイラはぼんやり考えていた。

 ラショウはその視線に気付いているようで、やはり何も言わずに静かに微笑んでいた。

「俺もまだいける」

「マジか。よく食うなお前」

「お前が言う? よく食べよく寝ろって、父上の教えだしな」

 リルとそう言い合って、アシュラはまた1枚の肉を口に運ぶ。

 レイラは会話を聞きながら(この人、寝るのもいっぱい寝るのかな……)と思うと、という単語に小さく反応した。

(ふたりのお父さん……どんな人なんだろう)

 会ったことのない存在──。
 だが、ふたりの人格を育んだ何かがそこにあると、ふと感じた。


 ◇


 時間が経ち、テーブルには空になった皿と、静かに残る炭の熱。

 リルはまだ箸を持ったまま、ふと呟いた。

「……オレそろそろ甘いもんいくわ」

 その一言に、ラショウがぱっと顔を上げる。

「……あ、私も」

 ふたりはタッチパネルでそれぞれデザートを注文し、ドリンクバーへと向かう。
 空になったグラスを手にしながら、連れ立って席を離れていく。

 ──テーブルには、一時的にレイラとアシュラだけが残された。

「……驚いただろ。リル、すっげえ食うんだぜ、あんなに細いのにな」

 アシュラが問うと、レイラは苦笑しながら答えた。

「……ビックリした。……結構衝撃。不健康そうだなって印象が、強かったから……」

 その返答にアシュラが「そりゃそうだよな~」と笑う。そして続けた。

「健康か不健康かは、もしかしたら普通の人間とは違うのかもしれないけど……」

 アシュラは目を細め、空になった皿を見ながら──。

「いっぱい食ってくれた方が俺は嬉しいよ。……にしても、食い過ぎだよな。奢りがいがあるってもんだ」

「ふふ……確かに」

 そんな会話の最中、ドリンクを手に戻ってくるリルとラショウ。

 その直後、店員が運んできたデザートのプレートがテーブルに並ぶ。

 ラショウの前には、可愛らしいガラス器に盛られたバニラとチョコのアイスがひとつずつ。

 そしてリルの前には──。

「……全部、注文した」

 皿に盛られたパフェ、アイス、ケーキ、ゼリー、プリン──その圧倒的な量。

「……食べるの? ほんとに?」

 思わず呆気にとられるレイラ。

「……食う」

 リルは淡々とスプーンを取り、当たり前のようにパフェをひとすくいした。

(……すごい……本当にどこに入ってるんだろう)

 レイラは再びリルのした胃袋に圧倒されながら、どこか、不思議な温かさに包まれていた。

 ──この夜が、ずっと続けばいいのに。

 そんな風に、思っていた。


 ◇


 デザートを食べ終えた後、4人はどこかまったりとした空気に包まれていた。

 炭火の余熱が心地よく、ドリンクを飲みながら談笑する時間。

「……それにしても、よく食べたね……」

 ラショウは手を合わせて「ごちそうさまでした」と頭を下げる。

「うう……苦しぃ……動けない……」

 レイラもソファにもたれるようにして深呼吸。

「お前、途中で明らかに顔が止まってたもんな」

 リルがストローを咥えたまま言うと、レイラはむくれたように返す。

「……なんでそんなに食べられるのかこっちが聞きたいんだけど……」

「んー……体質」

「雑すぎる……」

「でも、みんなでこうしてご飯食べるの、楽しかったね」

 ラショウの言葉に、誰もが小さく頷いた。

「ああ。……またやりたいな、俺はいつでもいいぞ」

 と、満足気なアシュラ。

「次も奢り?」

 と、すかさず聞くリル。

 それを聞いて慌てたレイラは──。

「つ、次は割り勘でお願いしますっ……! たぶん、このあとの会計になりそうだから……!」

 その素直な様子に、皆が笑い合った。


 ◇


 やがて時間が来て、店を出ることに。

 レジ前。表示された金額を見て、レイラは思わず目を見開いた。

 レイラが危惧した通り、『すんごい金額』だ。

「っ……!? ……すんごい金額……」

「まぁ、あれだけ頼んだらな」

 リルが他人事のように呟き、アシュラはとくに何も確認すらせず、財布から分厚い札束を取り出して──。

「現金で」

 と、店員に微笑んで差し出した。

 店員がアシュラの美形の微笑みに、そして差し出された札束に、一瞬たじろぎ慌てて受け取る。

「ありがとうございましたっ……!」

 その姿に、レイラは(……この人、やっぱりどこまでも完璧すぎる……)と心の中で唸るのだった。

 ──退店すると、夜風が頬を撫で、空は柔らかい藍色に染まっていた。

 4人は肩を並べて歩き出す。
 腹も心も、どこか満たされたまま──。

「アシュ、ほんとに、ほんとに……ありがと……!」

 レイラは何度も何度も頭を下げながら、歩く横で繰り返した。

「ありがとう、ありがとう、ほんとにごちそうさまでしたっ……!」

「いいよいいよ。そんなに頭下げなくても」

 アシュラは困ったように、けれど嬉しそうに笑う。

「楽しかったし、お前たちが喜んでくれたなら、それが一番だから」

 その笑顔は夜道でも眩しくて、レイラはまた「……ありがと……!」と少しだけ照れながら呟く。

 数歩後ろ、少しだけ距離を置いて歩いていたラショウとリル。

 ラショウはそっと笑みを浮かべながら、リルに話しかける。

「レイラちゃん、楽しそうだったね」

 リルは前を見たまま、肩をすくめるようにして答えた。

「……そうかもな。あんな表情、今まで見たことなかった」

「うん。……ちょっと安心したよ」

「何がだよ」

「任務のとき、ずっと張り詰めてる感じだったから。今日みたいに、普通に笑ってくれて……なんか、嬉しくて」

「……お前相変わらず、変に優しいな」

「それ、褒めてる?」

「……たぶん」

 ラショウは小さく笑って、リルの隣を歩き続けた。

 夜道に揺れる街灯の光の下、ふたりの影が少しだけ近づいていた。


 ◇


 昨夜の焼肉のあと、レイラはそのまま西城家に泊まっていた。

 広い客間。柔らかい掛け布団と、清潔なシーツの感触。
 窓のカーテンから射し込むやわらかな朝日。

「……ん、朝……?」

 レイラが瞼を開けると、そこは変わらず穏やかな西城家の空間だった。

 廊下に出ると、ラショウの声が聞こえてくる。

「おはよう、レイラちゃん。もう起きてたんだね」

「うん……すごくよく眠れた」

「良かった。朝ごはん、もう少しでできるから。着替えが必要なら言ってね」

「ありがとう……ラショウ」

 リビングに入ると、アシュラが既に食卓の準備を手伝っていた。

「おはよ、レイラ。朝から元気そうでなによりだ」

「アシュも……おはよう。朝、強いね」

「昔から早起きは日課みたいなもんだよ」

 と、そこへ──。
 バサ……バサ……と布団の擦れる音。

 寝癖全開の髪、瞼が半分しか開いていない状態のリルが現れた。

「…………ん」

「リルくん、おはよう」

 ラショウがにこやかに声をかけるが、返ってきたのは言葉というより低い鼻声。

「……お゙ぉ゙…………」

「寝起き、わる……」

 苦笑するレイラ。

 リルは畳の上にそのまま倒れこみ、顔の半分を近くにあったクッションに埋めながら、再び目を閉じそうになっていた。

「ご飯できたら起こしてやるよ」

 アシュラが笑って声をかけ、ラショウはリルにブランケットをそっとかける。
 ──そんな静かな、穏やかな朝が、西城家に流れていた。

 台所キッチンから漂う、出汁の香りとお米の炊ける匂い。

 ラショウが机に皿を並べ、アシュラが味噌汁を運んできた。

「リルくんもそろそろ起こさないと」

 言いながらラショウはリルへ視線を向けるが──。

「…………」

 リルは畳の上でクッションを枕にしたまま、すっかり寝息を立てていた。

「……あれ、寝た?」

 レイラが目を丸くする。

「完全に寝たな」

 ため息交じりにリルへ近づくアシュラ。
 リルの寝顔は、いつもとはまるで違う安らかさ。

「……なんか、すごい普段とギャップがあって……」

 思わず呟いたレイラに、アシュラは冗談めかして返した。

「死んだように寝るからな。死なないけど」

「……死なない……」

 その言葉に、レイラは小さくはっとする。

 アシュラは構わず、続けた。

「……怪我してもすぐ治っちまうから、なんじゃないかって言われてるくらい」

 そう言いながら、リルの肩を軽く揺さぶる。

「ほら起きろ、ご飯できたから」

「ん゙ん……」

 低く唸りながら、リルはアシュラの手をゆるく払いのける。

 その手の爪──普段のままでも、鋭く尖っていた。

「…………」

 それを、レイラは目を逸らせずに見ていた。

(……やっぱり、“普通の人間”じゃ、ないんだ)

 けれど、その寝顔はあまりにも穏やかで。

(……今は、普通の男の子みたいなのに)

 レイラは胸の奥に生まれたその小さな揺れを、そっと自分の中にしまう。

 ──机には炊きたてのご飯、焼き魚、味噌汁に出汁巻き玉子といった和の献立。

 ラショウが最後の皿を置いて、「できたよ~」と微笑む。

「いただきます」

 3人で食事を始めたが、リルはまだ寝ていた。

「美味しい……」

 レイラは頬を緩めて、ご飯をひとくちずつ丁寧に食べていた。

 アシュラも箸を動かしながら話しかける。

「レイラ、……とリル。……施設の方は今日は休み?」

「うん。私は休み……ん? リル?」

 いつの間にか、リルは半分寝ぼけながらもレイラの隣に座っていた。

「……ん゙……オレも……確か今日は空けていいって言われた」

「お、じゃあ今日は全員休日なんだな……」

 アシュラの目がふっと輝く。

 ──そして、前に“お疲れ様会”を提案した時と全く同じ、どこまでも真剣な顔つきに。

 その真顔のまま数秒沈黙したあと──。

「……皆でショッピングモール、行こう」

「いいかも、賛成!」

 すぐにラショウがパッと笑顔になる。

「はあ?」

 リルは反射的に顔を顰め、「だりい……今日は1日寝かせてくれよ……」と、いつもの調子で不満を言いかけた瞬間──。

「ショッピングモール……行ったことない……!」

 レイラの声が食い気味に響いた。

「…………」

 リルの口は「だりい」の「だ」の形のまま固まり、次の言葉が出てこない。
 その状態で硬直したリルに向かって、ニヤッと笑うアシュラ。

「決まりだな」

 西城家の朝は、今日も微笑ましく始まっていた。


 ◇


 アシュラの運転で現地へ向かう車内は賑やか。

 そして、到着したのは──。

 巨大なショッピングモール。
 複数階にわたる店舗、明るいフロア、フードコートに雑貨店、多数のアパレルショップに映画館まで揃った、まるで街のような空間。

「……すご……っ」

 レイラの声が漏れる。

 店内に足を踏み入れるやいなや、レイラの目が輝き始めた。いつもの冷静な表情からは程遠い。
 目を大きく見開き、きらきらとした視線があちこちを彷徨っている。

「……えっ、なにこれ、どこから見ればいいの……!」

 その無邪気な様子に、ラショウも目を細めた。

「うふふ……レイラちゃん、楽しそう……! ねぇねぇ兄様、まず私、服を見たいな」

「俺も……なんか服買おうかな」

 アシュラもそれに応じる。

 その言葉に、リルがめんどくさそうに鼻を鳴らした。

「……はいはい、服ね……」

 そう言いつつも歩みを止めない。

 ──フロアを歩いていると、周囲の視線が自然とアシュラへと集まってくる。

 その整った顔立ち、姿勢の良さ、どこか品を感じる振る舞い。まるで雑誌から抜け出してきたような存在感。そしてその隣には、透明感抜群の美少女まで。

「……チッ、居心地わり……」

 ぼそりと呟くリル。

 しかし実際には、リルもまた別の意味で視線を集めている。

 スラリとした細身の体型、無造作にハネた髪。そして隠しきれない目の隈と気怠げな表情。
 それらが独特の色気を放っており、気がつけば店員や通行人の視線がリルにも集まっていた。

 本人は全くそれの自覚が無い。全てアシュラへの視線だと信じてやまない。

 まさに光のイケメン・アシュラ。影のイケメン・リル。

 レイラはそんなふたりの姿を見ながら、思わず「どこ行っても注目されてる……」と呟く。

 慣れた様子のラショウは「ふふ、気にしないで。楽しもうね」と、微笑みながらレイラに声をかけるのだった。



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