最愛の番に殺された獣王妃

望月 或

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18.一件落着……?

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 その後、衛兵達がやってきて、メイド長と料理長を連行して行った。
 “毒”の存在をウラン様から伝えられた衛兵が、料理長の部屋をくまなく探すと、鍵が掛かった机の引き出しの中から発見された。
 それはユーディアさん殺害の動かぬ証拠となったのだった。


 二人が連行された後、私は事の顛末をウラン様に聞いたメイド達から一斉に謝られた。


「本当にごめんなさい、リシィ! ずっと無視していて……」
「皆、メイド長――いえ、ノーラから脅されていたの。言う事を聞かないとお給金を下げるって……」
「わたし……ノーラに弱みを握られていたの。皆にバラしてもいいのかって。だから従うしかなくて……」


 ……聞けば聞くほど、ノーラがとんでもない陰険で醜悪女である事が分かった。


「皆、事情があったのだし赦すわ。改めてだけど、これからは私と仲良くしてくれるかしら?」


 私の言葉に皆はホッとしたように笑顔になり、一様に大きく頷いたのだった。



*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。



「はぁ、これで一件落着ね」


 急遽、以前この屋敷で働いていた料理長を呼び戻し、夜は今までよりも遥かに美味しい晩ご飯を戴いた。
 彼はノーラにあらぬ濡れ衣を着させられ、あの女に騙されたウラン様によって解雇させられていたのだ。
 ウラン様は、この屋敷に長く務め自分に懸命に仕えるあの女の事を信頼していたから……。

 そして彼の代わりに、ノーラの強い推薦で元料理長の男を雇った。あの女の腰巾着だったその男を。


 ウラン様は彼に会いに行った時、ノーラを信じ解雇してしまった事を深く詫び、謝罪金を渡すと共に再雇用の話をした。
 彼は謝罪を受け入れ、再雇用に快く承諾してくれたのだった。


 料理長に「お腹が空いているから沢山食べたい」と伝えて、晩ご飯を多めに作ってもらい、ユークにお裾分けする。


「んー……。まぁまぁだな」
「美味しいって事かしら? 本当格別よね。無我夢中であっという間に平らげちゃったわ」
「けど、アンタの飯をずっと食べてた所為か、舌がアンタの料理を欲しがってるわ。だから今まで通り、夜はアンタが作ってくれ」
「えっ、何よそれ!? 私の所為なの!? ワガママねぇ、全く……」


 私の文句を右から左へと受け流すユークをジト目で見ると、シャワーを浴びる為に部屋を出た。
 いつも通り頭と身体を丹念に洗い、ついでに歯磨きをする。
 後は寝るだけになった私は、部屋に戻るとベッドの上にゴロリと寝転んだ。


「ユーク、あの時守ってくれてありがとう」
「勘違いすんな。アンタの為じゃねぇよ。あのクサレ女がオレに刃を向けたからだ」
「分かってるわ。お礼が言いたかっただけよ」


 案の定なユークの返しに、私はクスリと笑う。
 そして、気になった事を訊いてみた。


「ねぇユーク。これでリシィの環境は改善したでしょう? 元凶のノーラもいなくなったし、ウラン様とも更に親しくなったし、皆と仲良く暮らせるはずだわ。そうするとリシィの死にたい欲求も消えると思うの。そういう場合って、私はこの身体から出ていかなきゃならないの?」
「さぁな、それは元の【魂】次第だ。まだ身体の隅に留まっていたいと思えば何もしないだろうし、元に戻りたいと願えば、夢の中とかで訴えてくるだろ。残るか出るかを決めるのはアンタだ。一度身体を譲り渡したなら、優先権はアンタにあるからな」
「そうなのね……。もしこの身体を出たら、『憑依の術』でまた別の身体に入れるの?」
「それは多分無理だ。いい加減ここで決着をつけてぇし。アンタは天国に逝く事になるな」
「? 何の決着?」


 ユークはハッと丸い瞳を見開くと、顔をふいっと背けた。


「いや、何でもねぇ。気にすんな」
「全く……秘密主義ねぇ、もう……。夢にリシィが出てきたら、何とかこの身体に残れないか交渉してみようかしら」
「そうしてみな。半々で身体を使うのもいいんじゃねーか。嫌いな食いモンが出たら代わりに食べてもらうとかさ」
「え、何その便利な方法――ってしないわよっ! 子供じゃないんだから、もうっ」
「ガッツリ揺らいでたじゃねぇか。まぁ好きにしな。オレは寝る。久し振りに結構魔力使って疲れた」


 ユークは小さな口で欠伸をすると、寝そべる私のお腹の傍まで来て、モフンと丸くなった。
 そして、目を瞑ると私のお腹に頭をすり寄せる。
 『抱きしめて』の合図だ。


(くうぅっ、可愛過ぎる……っ! モフモフしまくりたい……っ)


 でもそれを実行するとユークに嫌な顔をされて離れていく事確実なので、唇をギュッと引き結びながら、彼の体をそっと抱きしめる。

 初めて一緒に眠った日の翌日の夜、ユークが自ら私の傍に来てモフリと横になったのだ。
 自分から来てくれた事が嬉しくて、(触ったらきっと離れてくわよね……)と、その夜は手を出さず添い寝のように眠ったのだけど。


 次の日の夜、再び私の傍にやって来たユークは、モフッと寝そべると、私の腰に頭を押し付けてきた。

「…………?」

 最初はその仕草の意味が分からなかったけれど、


(あっ。もしかして抱きしめて欲しいの……?)


 と気付き、優しく腕の中に包み込むと、ユークは静かに目を閉じ眠り始めた。
 まるで、野生のウサギが最初は懐かず威嚇して逃げていたけれど、徐々に心を許して近付いてくれているようで、私は内心ニヤニヤが止まらなかった。


 今も、ユークは安心したように体の力を抜いている。
 そして、程なくしてプゥプゥと寝息が聞こえてきた。


「もう寝ちゃったの? 本当に疲れていたのね。おやすみなさい、ユーク。良い夢を――」


 ユークの体を優しく撫でながら、私も重たくなった瞼を閉じ、眠りの世界へと誘われていったのだった。



 ――その数週間後に衝撃的な出来事が待ち受けているなんて、この時の私には見当もつかなかった――



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