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IFエンド:聞きたかった言葉 1
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※注意!※
この物語は、エウロペアとゼベクが結ばれる『IFエンド』となっております。
リオーシュ死後の時間軸ですので、リオーシュとエウロペアのハッピーエンドに満足して下さった方は、ここで回れ右をお願い致します。
・本編から十五年後でエウロペアとゼベクが年を取っている。
・二人のイチャイチャ、Rシーンがある。
この二つが大丈夫、問題無いという方のみ、前話の『小話:役得の実験台』を先に読まれた後、下へお進み下さいませ。
お付き合い下さる方は、少しでもお楽しみの時間となりますように。
######
ファローダ王国国王、リオーシュ・ガラン・ファローダの夢の中に、この国の守護神であるへーラットが現れたのは、彼が三十五歳の時だった。
彼女曰く、リオーシュの寿命は後二年程だと言う。
『七色の月光花』を摘みに崖に登り、そこから落ちた際、リオーシュは即死の状態だったという。だがへーラットは、彼の生命力を無理矢理高まらせて、瀕死手前の状態にまで回復させたそうだ。
そして月光花の葉を使って彼は完全に回復したのだが、生命力を無理矢理使った代償で、寿命が縮まってしまったとの事だった。
その寿命は残念ながら取り戻す事が出来ないそうだ。
最後に『残りの人生、悔いなきよう』と告げて、へーラットは光の中に溶けて消えていった。
夢から目覚めて、彼はすぐにその事実を受け入れた。
神がどうする事も出来ないというのなら、喚いても怒っても悲嘆に暮れても、人間はどうする事も出来ないからだ。
それに、崖に登った事に関しては、後悔は全く無い。
そのお蔭で、愛する妻を助ける事が出来たのだから。
へーラットが夢に現れた翌日から、彼は王の公務を制限し、その分の業務を重鎮達に任せ、彼の愛する家族との時間を優先した。
リオーシュには、妻であるエウロペアとの間に、二人の子供を授かっていた。
第一子は娘で、リオーシュと同じ水色の、少しウェーブ掛かった髪と、エウロペアと同じ紫色の瞳を持つ、顔つきは母によく似た勝気な十歳の女の子。
第二子は息子で、エウロペアと同じ薄紫色の真っ直ぐな髪と、リオーシュと同じ月のように輝く黄金色の瞳を持つ、顔つきは父似の、心優しい七歳の男の子。
彼は、二人をとても愛していた。そして、勿論昔と変わらず――いや、それ以上に妻の事も。
死期が近いと分かった今、リオーシュは仕事より家族と共にいる時間を大事にした。
彼から事情を聞いたエウロペアも、公務以外の時は常にリオーシュの傍にいて、寄り添った。
二人は沢山笑い合った。子供達も二人の輪に入り、更に笑顔が増えた。
ファローダ家族に自然とゼベクも加わり、色んな場所に出掛け、笑顔溢れる温かく幸せな日々を毎日過ごし――
エウロペアの好きな花が満開になる季節、リオーシュは微笑みを浮かべながら瞼を閉じ、穏やかに息を引き取った。
愛する家族と大切な親友に見守られながら。
「とても幸せな人生だったよ。皆、本当にありがとう。愛しているよ」
優しい声音で紡がれた、その言葉を遺して。
リオーシュ・ガラン・ファローダ――享年三十七歳だった。
子供達は泣きじゃくったが、エウロペアは涙を見せず、夫と同じ優しい微笑みを見せ、彼の頬をそっと撫でた。
そしてすぐに重鎮達を呼び、リオーシュに黙祷を捧げた後、彼の葬儀の打ち合わせに入った。
一週間後、国王の葬儀が厳かに、しめやかに行われた。
葬儀の参列者は、偉大で崇高な国王の崩御を一様に嘆き悲しんだ。
そんな中、王妃は最後まで涙を見せずに気丈に振る舞い、打ち合わせ通りに淀みなく葬儀を完遂させた。
そんなエウロペアの姿に、国民達は敬服や感服の意を抱いたが、中には彼女の態度が、夫を亡くしたのに涙一つ見せない冷然な女だと感じた者もいただろう。
――だけど、彼女の子供達は知っている。
夜、主がいなくなった国王の部屋で、度々母が忍び泣いている事を。
そんな母に、ゼベクが静かに寄り添い、自分の胸を貸し優しく頭を撫でていた事を。
リオーシュの跡継ぎは、彼の息子で第一王子であるアムリウスとなるが、まだ九歳と幼く、王教育もまだなので、エウロペアとゼベクを中心に王不在の穴を埋める事になった。
そして刻は少し流れ、リオーシュの崩御から一年が過ぎた、ある日。
「ゼベク」
ゼベクが書類を持って廊下を歩いていると、前から聞き慣れた声がして呼び止められた。
「これはメレディア王女殿下、アムリウス王子殿下。御機嫌は如何ですか?」
ゼベクはフッと微笑い、恭しく頭を下げた。
四十一歳になる彼だったが、無造作に軽く跳ねた漆黒の黒髪は変わらない艷やかさを持ち、顔つきも精悍さに益々磨きが掛かり、美形も若々しさも失われず三十代に見える。
彼の前には、水色の少しウェーブ掛かった肩下位の髪に、神秘的な紫色の瞳を持つ、エウロペアに似た少女が、少し怒った感じで腰に手を当て立っていた。
彼女はメレディア。リオーシュとエウロペアの第一子であり、この国の第一王女だ。
十三歳になる彼女は、年々母に似てきて、将来は美人になるであろう事が予想された。
そして、彼女の後ろに隠れるようにして眉尻を下げゼベクを見上げているのは、薄紫色のサラサラとした短い髪に、輝く黄金色の瞳をした少年だ。
彼はアムリウス。メレディアの弟で、この国の第一王子だ。
十歳になる彼だったが、まだまだ甘えたがりの男の子だ。
「ゼベクっ」
アムリウスはゼベクの名を呼ぶと、彼のもとに駆け寄り脚にギュッと抱きついた。
「――おっと。相変わらず甘えん坊ですね、アムリウス様は」
ゼベクは目を細めて微笑うと、脚にしがみつくアムリウスの頭を優しく撫でる。
「ねぇ、ゼベク。いつお母様に告白するの?」
メレディアからのいきなりの直球の言葉に、ゼベクの両目が軽く見開かれた。
「お父様を喪に服す期間は終わったわ。もうお母様に告白しても誰も何も文句は言わないわよ」
「……俺の気持ちを御存知で? 隠しているつもりでしたが」
「はぁ? 嘘ばっかり! いつもあんなにお母様にベッタリくっついてて何言ってるのかしら? きっとお城の皆には全員バレバレよっ!」
「ははっ。それは参りましたね」
全然参ってなさそうな顔でゼベクが笑う。
メレディアがそれにプクリと頬を膨らませた。
「何よ、それも計算の内なの? 外堀から埋めるってヤツ? あなたホント、性格がアレね! あなたの気持ちに気付いてないのはお母様くらいだわ!」
「……メレディア様は、俺がエウロペア様に想いを告げても構わないのですか?」
ゼベクが静かに訊くと、メレディアは頬を膨らませたまま言葉を続ける。
「お父様に言われていたのよ。『お父さんがいなくなって、ゼベクとお母さんが付き合う事になっても、温かく見守ってあげて欲しい。お父さんはそれを許しているから。お父さんの代わりにゼベクがお母さんを護ってくれるから。だから大丈夫だ』って」
ゼベクはそれに漆黒の目を大きく瞠ると、顔を伏せ「くはっ」と笑いを零した。そして、口の中で小さく呟く。
「……ったく……。アイツはホントに――」
「私も、ゼベクにならお母様を任せてもいいわ。お母様、何だかんだであなたを頼りにしてるし。それに、お父様言ってたわ。『だが、それはお母さんがここにいる間だけだ。お母さんがお父さんのもとにきたら、ちゃんと返して貰うから。それは絶対に譲れないぞ』って」
「ふはっ!」
ゼベクはメレディアの言葉を聞いて、思わず吹き出してしまった。
「ね、ゼベク。ぼくもゼベクにならお母さまを半分あげてもいいよ……? もう半分はぼくのだからね……? ぼく、お母さまもゼベクも大好きだから……」
「ありがとうございます、アムリウス様。とても嬉しいお言葉ですよ。俺も貴方が大好きです」
ゼベクは目を細めて笑うと、くりくりとした黄金色の瞳で見上げてくるアムリウスの頭を撫でた。
アムリウスは、気持ち良さそうに口元を緩めながら目を細める。
「お二人の許可も貰えた事ですし、本格的に動き出すとしますか」
「とか言って、私達の許可が無くても、そろそろお母様を手に入れる為に動いてたでしょ? 何となくそんな気がするわ」
「ははっ、そんなまさか。貴女達に黙ってそんな事は致しませんよ」
「どうだか、全く……。もしお母様にフラれたら、私があなたを貰ってあげるから安心していいわよ?」
「それは大変有難きお言葉。億が一の時はよろしくお願い致します」
フフンと胸を張るメレディアに、ゼベクは口の端を持ち上げ、優雅に礼をしてみせる。
「はぁっ!? 何よ『億が一』って!? あなた、フラれる気全くないでしょ! どこからそんな自信がやってくるのよ!? ホントあなたって性格がアレね!?」
またもやプクッと頬を膨らませるメレディアに、ゼベクはニッと、昔と変わらない少年のような笑みを見せたのだった。
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