【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ

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ー番外篇ー

祖国からのお客様

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「ツェーレン様は本当に大丈夫なのか……」


 イェルレヒト王宮の一角に次代を担う若者が勢揃いしていた。騎士団長子息、宰相子息、神官長子息に外務大臣子息。公爵、侯爵令息は既に領地経営に携わっている。爵位を受け継いだ若き伯爵もいた。
 前の世界でそれぞれがツェーレンを娶っていた。その甘い幸福感がどこかに残っているかのように、かれを忘れられないでいる。


「───夫となった男は伯爵家三男。つまりは無爵の平民ではないか」
「だがグレイシアだぞ」
「かなりの変人で冷たい性格と聞く」
「お労しい……ツェーレン様をお助けできぬものか」
「ああ、是非うちにお迎えしたい」
「何を言うか。公爵家後継の私こそが」
「グレイシアに対抗するなら神殿の力が一番だと思われます」
「既に伯爵である僕に理があるだろう」


 実際はグレイシアに爵位は余っている。アレスターは面倒がっていらないの一点張りだ。社交など全くする気もなければ、ツェーレンを人目に晒すなど論外と考えている。
 妊娠はまだ家族、つまり王家にしか伝わっていない。偉大な系譜を継ぐ者として大騒ぎされるのが明らかだ。
 大事な妊娠初期に雑音は不要と徹底した情報遮断態勢を敷いている。


「とにかく、実際この目で確かめよう」
 そして悪い魔術師から姫を救う、という空気。あわよくば求婚しちゃえとノリノリの若者たち。
 ツェーレンはまだ十九。全然やり直せると無駄にポジティブな連中だ。



 ツェーレンの国から友好の証として、次代の中心人物たちがやって来る事となった。
 王家からの通達でもてなしはグレイシアに一任された。国や王家に興味がないのが見え見えだったらしい。


「あれ、国で俺の夫だった奴らばかりだな?」
 イェルレヒトから訪問するメンバー一覧を見てついツェーレンは言ってしまった。
 アレスターが無表情になり部屋の温度が下がり始める。


「いや今回は何もないぞ。求婚はされてたがそれだけだ。釣書は毎回の事だし」
 火に油を注いでいるのに当人は気づかない。小さなものから凍り始めてやっとツェーレンが慌て始めた。
「ちょっと文句言ってくる」
「え? アレス?」
 苦情窓口はイェルレヒト王太子だ。



「なんだよギリム! 嫌がらせか!?」
 執務室に転移してくるなり文句が始まった。この義弟は毎度毎度、いきなり現れる。礼儀を説いても今更だ。
 すわ不審者と色めき立つ護衛を手で制し「グレイシアだ。慣れてくれ」と言い含める。


「王族か義兄への敬意、どちらかがあれば部屋に突然転移はしないと思うが」
「無理。あんたは未だライバルだ」
 既に諦めたのにこれ以上なにをしろと。
「ツェリはあんたを兄として慕ってるから距離が近い」
「結婚してから会わせてもらってないが?」
「子どもが産まれたら……会わせ……る、かも知れないかも?」
「いやそれは会わせろよ」


 アレスターに詰められ溜息を漏らしつつギリムが語った。
「ツェーレンを諦めきれない連中が、本当に幸せなのか直に確かめたいと」
「……最果ての地に転移させていい?」
「ツェーレンにどう思われてもいいのなら」
 なら最終手段にしよう。帰国の途についたタイミングならと算段する魔王。
 ヤバい匂いを嗅ぎ取ってギリムは釘を刺す。



「ウチの大事な有望な奴らには手を出すんじゃない! そもそもきみに回ってきたのは彼らが失敗したからだぞ。呪いをなんとかしていたらアレスターの出番はなかった」
「僕がむざむざツェリを逃すと思う?」
「……ツェーレンが相手を愛していたら?」
 部屋がミシミシと嫌な音を立てている。ここらで引かないと大ごとになりそうだ。
 適当に宥めお引き取りを願う事にした。



 帰宅したアレスターが兄弟に召集をかけた。今回の準備は長男ノエルが受け持つので嫌でも巻き込まれてしまう。
「誰に注意すべきかな、ツェリに執着してて何かやらかしそうな諦めの悪いヤバい奴」
 全員が全員「お前しかいねえよ」と喉まで出かかりかろうじて抑えた。マリアが「鏡」と呟いたのはせめてもだ。


「という訳でツェリと僕がラブラブだと示す必要がある」
「えー……」
 嫌な予感しかない。だが考えるのも疲れる。色々と放棄して粛々と出迎える準備を始めるノエルたちだった。



 そして当日。アレスターはやらかした。グレイシア本邸での歓迎会、アレスターは扉をバァン! と蹴り飛ばして現れた。
 手が塞がっていたから仕方ないと割り切るのは当人のみ。



 ハリウッド映画。何故か言葉が浮かんだ理由を、一拍遅れてカズサは理解した。脳がその光景を拒否ったのだ。
 美女を姫抱きしたヒーローそのままにアレスターとツェーレンが現れ一同は絶句した。


 小国とはいえ親善大使団。たとえ内情はツェーレンに未練たらたら隊でも名目上はれっきとした一行なのだ。


「グレイシアへようこそ。僕がツェリの比翼にして唯一、未来永劫の伴侶アレスター・グレイシア。ツェリの事はおはようからおやすみ、睡眠中までずっと見守って片時も目を離すことはないしかれの望みは全て叶う。僕らは愛という言葉が陳腐になるほど強く結びついている。安心して欲しい」


 仲良くしようという気が欠片もない挨拶にノエルは頭痛を覚えた。
 まず正式名のフォックスを抜いているし役職名も無し。無職ヒモかよ。遠路遥々の一行に労りの言葉もなく、ツェリ大好き自分アピールに徹する様はいっそ清々しくさえある。あまつさえ堂々たる妻のストーカー宣言。
 要約すると大丈夫だからとっとと帰れという内容。全然大丈夫に思えない。


「な、なんと無礼な……」
「ツェーレン殿下を束縛して監視するとは。とてもじゃないが幸せとは───」
「あ、アレス! 全部見てるのか!?」
 さすがのツェーレンでも弟のストーカーぶりに文句はあるだろう。ノエルは引きまくりだ。


「せめて手洗いはやめてくれよ……恥ずかしい」
 は?
「プライバシーは守ってる! 変態じゃないから、心配なだけだから!!」
 え? そこ? 周囲の心がひとつになる。


 いやいや全部見られてるって言ってるんだけど? 気味悪いとか今すぐ止めろとかないの。え、気にならないの?


「ならいい。見守られてるんだな、こんなに大事にしてくれてありがとう」
 頬を染めるツェーレンは大層愛らしい。
 破れ鍋に綴じ蓋、という言葉がノエルの頭を過ぎる。
「あー、仲のいいのは良いことだが気が散って話が進まない。ツェーレン、アレスの腕を降りてくれないか」
 ノエルがなんとか修正を図ろうとする。
「ノエル! ツェリが転んでお腹の子に障ったらどうするんだよ、僕は死んでも離さないし身を挺して守るから」
「身を挺したらダメだろ、父親がいなくてどうするんだよ。俺だってアレスがいないと……」
「ツェリ、、」
 ふたりの世界から完全に置き去りのその他。地位やらなんやら錚々たるメンバー、なんなら王様(仮)夫妻までいるのに。


 いやおまえ高位魔術師だよね? 身を挺する必要ないよね?? 
 ここまで全員の心の声。


 妻は大聖女だし即死じゃなきゃ助かるよね!? だいたい結魂してるしそうそう死なないよね!!
 これはグレイシア家の脳内。


 え、待って父親!? お腹の……子、だと……? えぇえええ!!!
 やや遅れて気づいたツェーレン救助隊が絶望していた。



 出鼻をくじかれ呆けてしまった一団の接待を試みる兄弟の努力は涙ぐましかった。
 恋心に止めを刺され消沈する彼らに、カズサやマリアの美貌と優しい言葉が突き刺さった。マリアは人妻なのでまたまたどよーんとする数名。
 結局は顔か。ガーシュに言い寄った者はいいように転がされて終わった。



 グレイシアから見ればツェーレンは文句の付けようがない素晴らしい嫁だ。ただ変わっているのは否めない。そうでもなければアレスターの妻などやっていられないだろう。
 それを改めて思い知る兄弟たちだった。




 ぐだぐだで終わった親善だが、この後カズサが数名から猛アタックをかけられるのはまた別の話。
 一番真剣で熱心だったのは、ツェーレン人形を製作した伯爵だったという。
 後になってそれを知ったカズサは慌てて日本へ逃げしばらく帰らなかった。



 アレスターはご機嫌である。妻に懸想する虫どもを退治できたから。マリアやカズサに迷惑をかけているのは全然気にならない。もちろんそのゴタゴタがツェーレンの耳にも入らないようにしている。
 なにせ大事な時期なのだ。マリアたちもツェーレンを気遣いかれには愚痴も言わないでいた。
 マリアは密かにアレスターを呪っていたが魔王に効く筈もなく。



「いい天気だなあ……」
 妊娠中はとても眠くなる。温室で微睡むツェーレンをアレスターがガン見している。
 侍女マルタと護衛のシェルダンはもはやその程度では動じない。ツェーレンの傍らの百葉は横目でウザそうに主人を見ている。


 今日も今日とて、フォックス邸は平和である。


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