【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ

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34 秘密の妖精(ルストバーン家執事

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 この旦那様が開催された夜会の一角に神秘的な空間が出来上がっていた。

「ルージュ、久しぶりね」
「ナタリアは相変わらず……いえ、今日は顔色が良いわね? ふふ」

 奥様と談笑なされているのはフェンルース家の奥方様。

「そう言えばブランシェ公にはたくさんの薬草を送って頂いたとか、ありがとうございます」
「いえいえ、寒い地域でしか栽培出来ない物らしくてね。北方の我が家が役に立ちました」

 旦那様とお話し中なのはフェンルース候。

「エヴァン、よく来た」
「お邪魔致します。ノワール様」

 ノワール様はエヴァン様としばし歓談なされている……それよりなによりこの夜会一目を引くのはアリシア様のお美しさだ。

「ブランシェ様、私も来てしまいました」
「いらっしゃい、アリシア。今日は一家でお揃いなのね、素敵だわ」
「ありがとうございます」

 アリシア・フェンルース。フェンルース家のすべてを受け継いだ儚き妖精のごとき姫君。まだあどけなさが残っているような気もすれば次の瞬間は成熟した大人の女性の色香を感じる。彼女の周りだけふわふわと神秘的な光が舞い踊っているかのごとき至宝であるフェンルースの中の至宝。フェンルースの誰か一人でも来てくれたならばその夜会は大成功だと言われているのに、一家全員でお越しになるとは、執事冥利に尽きる光栄な出来事でございます。

「今宵は良い夜ですね、ルストバーン公」
「おお、シュトルム公。お久しぶりです、フェンルース候、シュトルム公爵ですぞ」
「おおこれは、お久しゅうございますな、シュトルム公」
「去年の生誕祭以来でしたかな? はは」

 旦那様方はフェンルース候と話がしたくてしょうがないらしく、我らの旦那様に取り次ぎを願っているようですね。ご婦人方も同じような感じで奥方様の所に詰めかけていらっしゃいます。しかし以外に少ないのはアリシア様の所に寄ってゆく若いご子息でしょう。あの美しさに気圧されて近寄れないか、はたまたお兄上であられるエヴァン様の圧に耐え切れないのか……両方でしょうね。

「ブランシェ、私も紹介してもらいたいのだが?」
「あらいやだわ、いらしたのねお兄様……しょうがないから紹介して差し上げますわ。アリシア、私の兄のノワールです。あまり気にしなくて大丈夫よ」

 ブランシェお嬢様はあまりアリシア様にお兄様であるノワール様を紹介したくない様子。そうですね、ノワール様にアリシア様を取られてはご自分とお話する時間が減ってしまいますからね。

「わあ……生ノワール様だあ……」
「アリー?」
「あっ! 失礼をいたしました。アリシア・フェンルースと申します、以後お見知りおきを」

 アリシア様はすっと立ち上がりお辞儀をしますが、あまり美しくはありません……しかしそれもお体が丈夫でないからだと、皆様分かっているのです。今でもずっと椅子に腰かけ、時折兄のエヴァン様にもたれ掛かったりしておられます。そんな体調でも押して我が家に来ていただけるとは私も感激です。

「ノワール・ルストバーンです。君の噂は妹から耳にタコができるほど聞いているよ。想像以上の可憐さだ……ああ、座って。楽にして欲しい」
「可憐だなんてそんな……申し訳ないです。体力がなくてすみません」
「フェンルースの血をより濃く受け継いだんだもの、仕方がないさ」
「そう言っていただけると助かりますわ」

 祖先は妖精だというフェンルース家。それも頷ける神秘的な美しさを秘めた人々。人間とは本当は相容れぬ血筋なので、体が極端に弱くなってしまうのだと言われている。どんな眉唾な話かと思っていたけれど、アリシア様を見るとそれはまことの話ではないかと思わせてしまうほどの美しさでありました。
 少しだけ首を傾げて、はかなげに笑えば咲き誇る大輪のバラも見ほれてしまうだろうと思うほどに美しい少女。ああ、今日の夜会の参加者は全員我が旦那様に感謝をしただろう! あのフェンルース一家を、アリシア様を一目でも見ることができたのだから!

「ねえ、ナリシア。一曲お願いできないかしら?」
「あらいいわよ。ルージュの頼みなら喜んで。あなた、アリシア。少し歌いましょう?」

 またもやざわりと会場が揺れた。そして口々に乱れ飛ぶ言葉。

「よ、妖精の歌だと」
「フェンルース家の魔歌を聞けるのか!?」
「聞けば金運が上がるというあれか?」
「幸せが訪れるんだろう!」

 ざわざわ、ざわざわ。会場は大きく揺れる。

「お、お母様、私の歌は下手ですから……」
「良いのよ、下手でも。いつも通り気持ち良く歌ってちょうだい。私はハープね、あなた、笛をお願い。エヴァンはアリシアを支えて」
「おお、たまにはいいな。やろうやろう」

 フェンルース家の皆様もやる気になって下さった。フェンルースの歌を聞けるのは何十年ぶりでしょう! 使用人の身ながら、その幸運に預かれるとは感激の極みでございます!

 
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