【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

文字の大きさ
18 / 117

18 ディライト家の悪夢

しおりを挟む
 大変不味いことになった。

 ジュディウス・ディライトは頭を抱えた。机の上には指輪がある。しかも血のついた指輪だ。
 切り取った、とんでもない事を言っていた傭兵は取り敢えず監禁してある。

「なんという事だ」


 なんの対策もできぬまま、次の日に王子は飛んで来た。運悪く、子供達に会わせろと鬼の形相で食ってかかるアマリリーとエイムド王子は顔を合わせた。

「リリー。何故ここに?」

「ルシリア伯爵の元へ行く前に挨拶だけでもと思い寄りましたら、子供達と引き離され、10日ほど軟禁されております!お助け下さい!」

「ではそなたも来るのだ。事態はかなり不味い方向に進んでおる……。リンを手放してはならんぞ」

 メイドや執事の案内もなしに王子は、私の執務室に真っ直ぐやって来た。ノックもなしに扉を開かれ

「分かっておるな?」

 そう尋ねられた。もう出すしかない。
血塗れの指輪を机の上に置いた。

「ゆ、指輪……?血?!」

 アマリリーの顔から血の気が引いて行く。王子はそっと指輪を摘み上げ

「説明を」

 それだけ言った。恐ろしい。

「リトと、カレン、ザザ、シュルが迷子になって……」

「違うな、逃げ出したんだろう」

「……探させると……指輪だけ見つかったと」

「本当にそうなのだな?」

「……はい」

 そう言うしかない。事実が知られれば大変な不況を買う事になる。

「ネリス」

 冷たい、冷たい声。王子は側近を呼んだ。

「地下に監禁されておりました。こちらです」

「なっ?!」

 私は立ち上がった。何故!地下にはまだ生かしてあるあの傭兵がいるのに!

「気付かぬとでも思ったのか?これは私が念じれば辺りの音を拾って私に聞かせてくれるのだぞ?」

 がたかと震えるアマリリーを伴って地下に降りると、ぼろぼろだがまだ生きている傭兵が鎖に繋がれていた。

「お前、この指輪の持ち主をどうした?」

「は……何度も教えたじゃねぇか……斬って捨てたよぅ……」

 ヒヒヒ!汚く笑った。

「その指輪さえあれば良いんだろう?あのガキは山の中でチョロチョロ逃げ回って鬱陶しいからな、動けなくしてから、切り落としたぜ?」

「……その後は?」

「可愛い顔してたから、少し遊ぼうかと思ったけど、もう暗くなりかけてた。血の匂いに誘われて魔獣が来たら堪らんからな!崖から川に捨てたさ!」

「……リト……っ」

 終わった。王子に聞かれてしまった。我が家にどんな沙汰が降りるのかかんがえただけで身震いする。
 大体、今更アマリリーなど、受け入れなければ良かったのだ。
 6人もいるアマリリーの子供達はみな、輝くように美しい。会って驚いた程だった。これなら、貴族に引く手数多だろう。
 平民として育っても、正しく我が家の血を引いているのなら、厳しく教育すればなんとか使い物になる筈だ。
 父上はそう言ったし、私も同意した。しかも長男は王子に婚約の指輪まで贈られたと言う。是非我が家に迎え入れなければと思ったのに。
 どうせ平民だ。少し豪華な生活をさせてやればずっと居たいと願うはずなのに……子供達は逃げ出した。
 そしてこのざまだ。

「何と言う事だ……」

「ディライト翁はアマリリーに謝りたいと言っていたが……それは我が父上の前だけの詭弁であったようだな」

 この王子の目は鋭すぎる。目端が効くという良い噂とやる事が極端すぎるという悪い噂が混じり合う御仁だ。

「リリー、多分リトはカレン達を逃したはずだ。あの子はそうする。ルシリア伯の元へ行こう。カレン達を保護しなければならない。リトが無事なら、必ずルシリア領に戻って来る筈だ」

「わ、分かりました……そう、そうですね、子供達を探さないと……」

 倒れる寸前のリリーを支えるのは子供への想いか。15年も経つと人は強くなるのだな。

「済まなかった、リリー。私がディライトの言葉を信じ、話したのが間違いであった」

「……私も心の何処かで、信じたかったのです。あの時は仕方がなかったのだと。愚かな自分が憎いです。また裏切られた、今度は息子を奪われた」

 それでも泣かぬのは、腕に未子を抱いているから。

「王子、お手数ですが、我々をルシリア伯の元まで護衛していただけませんか?そして逃げ出した子供達を探すのを手伝っていただけませんか?」

「当然だ。今すぐ出よう。もう既に探索隊は出発しておる。私の乗って来た馬車でそのまま向かうぞ」

 ペコリと、王子に頭を下げてたアマリリーは最後にこちらを1度だけ見た。

「人殺し」
 
 静かにそう言い捨てて、私たちはもう2度と会う事は無かった。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

処理中です...