【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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21 紫の小瓶

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 痛みを感じる事が少なくなって来たある日の夜、ギアナ様に少し良いか?と呼ばれた。
 あとは寝るだけだったので、ついて行く。仕事部屋だった。

「リトには全く関係ない話しなんだが、きいて欲しくて」

「俺で良ければ、聞きます」

 きっと、知っている人には言いにくい話なのかもしれない。何も知らない新入りの俺だから、心の中にある何かを話せるのかもしれない。
 ギアナ様に頼られたと思うと嬉しくて、少し頬が緩んだかもしれない。
 ソファを勧められたのでストンとすわった。

「リトは獣人の運命の番って聞いた事があるか?」

「はい、お屋敷の人に」

 獣人には運命の番という物があるらしい。見つかるものは稀であるし、運命の番と結ばれる者は少ないらしいが、出会った瞬間、魂が震えるほどの歓喜に包まれるんだそうだ。
 運命の番と結ばれた者は生涯幸せに暮らせるらしい。

「俺も運命の番に出会った。3年前だった」

 あっ、ギアナ様にもいたんだ、運命の番。つきん、痛みが走った。まだ怪我が癒えていないんだろうな。でも、どうしてギアナ様は1人なんだ?こないだのパーティにどうして俺を連れて行ったんだ?

「彼女はウサギの獣人だった。虎の獣人との相性は悪い。でも俺は嬉しかった。運命の番と出会えたことが、嬉しくて舞い上がった。……しかし彼女にはもう心に決めた人がいる、そう言われた。震える手と声で。やはり本能が虎を恐れたんだろう。運命より本能が強かったという訳だ」

 そして机の引き出しから、小さな瓶を取り出す。中には紫色の液体が入っている。

「なのでこれを飲んだ。なんだか分かるだろうか?」

 ふるふる、俺は首を横に振る。見当も付かない。

「これは「運命破棄薬」運命の番に恋焦がれ、出会えぬ事に絶望し、結ばれぬと知って自ら死を選ぶ獣人の為に作られた薬。運命の番の糸を断ち切る薬だ」

 俺はごくりと息を飲んだ。なんて悲しくて、優しい薬なんだろうか。

「彼女は迷わずこれを飲み、心に決めた男の元に行き……俺の前から消えた。3年前だった」

 ギアナ様の表情は暗い。運命の番に捨てられたんだ。しかも何か複雑な事があったようだ。俺は何があったか知らない。

「……彼女から俺に向かっている運命は断ち切れた。だが、俺が彼女に向ける運命は……切る事が出来なかった。それほど出会えた時の喜びは大きかったんだ」

 小瓶を片手に持ち、遠い昔……多分3年前を思い出しているんだろう。ギアナ様は月を見ていた。
 窓の向こうには大きな月がある。ここの月にはウサギの模様はないが、俺はあの月を思い出していた。

「女々しいだろう?」

「そんな事は、ないと思います。俺には運命の番は居ないから、よくわかりませんが……ギアナ様に選ばれたら、凄く大切にしてもらえただろうに、って思います」

 俺の知らないウサギの人は何が怖かったんだろう。ギアナ様はすごく優しい人なのに。

「そう言って貰えて嬉しいよ、リト。俺はやっとこの薬を飲む事が出来そうだ」

 きゅっと小さな音がして、小瓶の蓋を開ける。止める事じゃない。一方通行しかない想い、絶対に実らぬ想いなら、切ってしまうのを止めても何にもならない。

 ごくり、嚥下の音が大きく聞こえた。なんのためらいもなく、薬を飲み干してしまうギアナ様。

 俺の横に来て同じくソファに腰を下ろす。

「気分が悪くなるとかないんですか?」

「……ないな。逆に爽快だ」

「えっ!そうなんですか??」

「うむ。常に頭の何処かに彼女の影があった。起きている時も寝ている時も。常に彼女の姿を追った。……今思えば呪いのようだった」

 運命の番って怖いもの?!俺はビックリした。

「ずっと頭の中にいたあの白いウサギが出て来なかったのは3年間で、リトがうちに来て、隣で寝ていた時だけだった」

 山でだいぶウサギを獲ったからなぁ……嫌われてるかもね!

「ウサギがいた場所にもリトが住み着いた」

「え?」

「リト、俺の妻にならないか?」

「え?!」

「返事はいつでも良い。ずっと俺のそばにいて欲しい」
 
「あ、え?へ……?」

 俺はギアナ様に送って貰って、自分用の部屋に着いたが、どうやって歩いて来たか分からないし、その後一睡も出来なかった。

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