【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

文字の大きさ
74 / 117
打倒!元実家!

72 切られる

しおりを挟む
 貴族の御用聞きとして、財を築いて来たランド商会のデートーン・ランドは岐路に立たされていた。
 少し前から、商売仲間の態度がよそよそしくなって行ったのである。おかしいと首を傾げても、何一つ心当たりはない。デートーンは悩んでいた。

 そして先日あったと言う商人達を招いた小さなパーティの招待状はランド商会には届かなかった。

「うちより規模の小さい商会にも届いているのに、何故?」

 商人は横の繋がりも大事にする。商人仲間の間で浮いてしまう事は、商人としては避けたい。悩んでも悩んでも一向に訳が分からないデートーンは古くからの友人に必死に願い出て、尋ねてみた。
 このままでは、ランド商会は立ち行かなくなってしまう。

「あー……君とは古い付き合いだ……。違うかもしれんが、俺の考えを教えよう」

 火の粉はかぶりたくないが、ランド商会が沈みゆくのを黙って見ているのも忍びない。何せ直接にデートーン・ランドは悪い事などしていないのだから。

「お前さん、公爵家のディライト家の御用聞きやってるよな、そのせいだ」

「え?!確かにあまり良い噂を聞かぬ家だが、金払いは悪くないぞ!」

 訝しむデートーンに友人は語り始める。

「最近出来た勢いのある商会を知っているか?リリー商会と言う……そこの代表、名前をリリーと言うのだが……彼女は元貴族だ。いや、今も貴族なのかもしれないがな」

 デートーンは鈍い男では無い。

「まさか、リリーってアマリリー・ディライト様の事か?!現王の兄に断罪されて市井に落とされたアマリリーお嬢様か?!」

「そうだ。そのアマリリー様がリリーとしてあの商会の代表になっていて……ご実家を相当恨んでいらっしゃる」

「まさか……!だってあの事件はもう10年以上前の事じゃないか!」

 それでもデートーンは覚えていた。アマリリーは良い顧客だったから。いつでも進めるままに高い買い物をしてくれたお嬢さまであった。

「それがまた最近やらかしたらしくてな?アマリリー様が挨拶だけと寄ったらそのまま軟禁されて、子供達全員取り上げられてかけ……1番上の息子は殺されかけたそうだ」

 貴族は怖いねぇ……商人達は身を震わせる。

「でな?相当ディライト家を恨んでいて……多分ありゃ、乗っ取るか潰すか狙ってると思う。リリー商会の実質トップの男がまた気持ち悪いくらいな切れ物でな……バチュールの白虎、知ってるか?」
 
「噂では」

 この国よりかなり南の国で、強引な手段すら用いて駆け上がった大商人の呼び名だったはずだ。白虎が嘲笑わらえば国が落ちるという実しやかに流れていた。

「リリー商会を仕切ってるのが白い虎の獣人なんだわ……あいつが多分、バチュールの白虎だ」

「なんでそんな大物がウィシュバーグに?!」

 2人の会話は熱くなって来た。一息入れる為にお茶を飲む。

「そこに、リリーさんの死にかけた息子が絡んでくるのよ。名前はリトと言って今、学園に通っている学生らしいんだが……まあ、男がどうかわからんくらい容姿が整っていてな、俺でもすごく可愛いと思ったよ」

「で?その美人な息子がどうしたんだよ」

「バチュールの白虎が、そのリト君に惚れに惚れ抜いているらしい。いやぁ、人目も憚らずベタベタくっ付いて凄かったぜ」

 男同士だよな?と確認するが、なんというかそういうレベルじゃなかった、と言われデートーンはその辺の追求はやめた。色々な愛があるからな……。

「でな?その目の中に入れても痛くないリト君に大怪我を追わせて、危なく殺される所だったのは、どうもディライト家のせいらしいんだ。それを聞いた白虎は何をすると思う?」

「まさか……本気か!」

「……だから、お前の商会はこんな目に遭ってるんだ」

 物を売るのが仕事なのに、売り物が入ってこない。今は在庫を細々と売っているが、もうすぐ底をつく。傾きかけても誰も金を貸してくれないだろう。

「うちがディライト家と取引をしているから……?」

 友人は肯定も否定もしなかった。これ以上踏み込みたくないのだ、白虎に睨まれ、沈みゆく定めの泥舟に乗りたくなどない。

「考えろ、デートーン。そして迅速に動け。虎は人間より素早く動くぞ。しかも怒っているんだ、気がついたら喉笛を食いちぎられていた、なんてことにならないように」

「分かった……ありがとう」
 
 デートーンは頭を下げて、友人に感謝する。

「しかしな、実は俺もディライト家、嫌いなんだ」

「何故だ?商人なら噂で好き嫌いしてはいかんだろう?」

 いやな?友人は懐から愛用のペンを取り出した。美しい細工のガラスのペン。先日、あのパーティで貰った物だ。

「みろ、この素晴らしい技術。美しく、使い心地も良く、最高の品だ」

 デートーンは手に取るとほう!と感嘆の息を漏らした。これは売れる!あればあるだけ売れる素晴らしい品だ。

「デートーン。これは件のリト君の作品だ。彼は富を生み出す魔術師なんだ……」

「なんと……!あのアマリリー様の御子息が!」

 友人はデートーンからガラスペンを返却してもらい、大切にしまった。ガラスなので衝撃には弱いから。

「そのリト君なんだけど、殺されかけた時に……左手をざっくりやられたらしく、ここら辺がない」

 左手の薬指から小指の辺りを指さす。

「わかるか?巨万の富を産み出す魔術師の、職人の手を切ったんだ。この失われた物の大きさ!商人なら分かるだろう?精度、技巧、ああ!考えただけで、腹が立つ!もし、怪我がなければリト君の産み出す作品はどんな物が出来たのか!」

 デートーンも震えていた。あのガラスペンは素晴らしかった。だがあの上を行く物が出来たかも知れないのに!それはそのリト君と言う子息の怪我によって失われたと言う。そしてその原因はディライト家だと言う。

「ありがとう、今日は本当に良い話が聴けたよ。近々、そのパーティに私も出られると良いな」

「……決めたか」

 デートーンは頷いた。先祖からの付き合いがなんだ!クソ喰らえ!素晴らしい職人に怪我を負わせて、作品を台無しにする奴は人間じゃねーよ!

「私の代でランド商会を潰すわけにはいかんからね、従業員を路頭に迷わせる訳には行かないよ」

 いかにも正しい経営者の顔で笑うが、腹の中身は素晴らしい作品に出会えなくなったことの怒りで満杯だ。

「くくっ!違いない」

 友人は笑いながらランド商会を出た。



「さあ!もう少しの辛抱だよ!ここを乗り切ったら皆んなにボーナス出すから、頑張ろうな!」

「はい!旦那様!」

 デートーン・ランドのランド商会は程なく持ち直し、ホッと胸を撫で下ろすのであった。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

処理中です...