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レティシア・ゲイル
1話 処刑されてしまいました
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「レティシア、お前との婚約は今、ここで破棄する!」
学園の学期末のパーティーで賑わうホールにヴェルナー殿下の声が響いた。
予期せぬ発言に驚いたが、それを顔に出さないように気をつけながら殿下の前に出た。
「理由をお聞かせ頂けますでしょうか?」
私の言葉に殿下は苦々しい顔をする。
「自分の胸に手を当ててみろ。お前が私の真実の愛の相手、ミランダに嫉妬し、行った悪行の数々、忘れたとは言わせない」
いやいや、嫉妬なんてあり得ない。忘れるとか、そもそも何もやってないし……。
それに、このミランダって女誰よ。真実の愛? 訳がわからないわ。
「私は何もしておりませんし、ミランダ嬢とも面識がございませんが、証拠はあるのですか?」
「ある! ミランダがそう言っている」
ミランダという女の嘘を信じているのね。騙されているのに気が付かないなんて情けないわ。
ヴェルナー殿下はまるで舞台俳優にでもなったかのように大きな声を上げ続ける。
「お前は毎日毎日、ミランダに嫌がらせを繰り返し、ミランダの心を傷つけただけでなく、破落戸を雇い襲わせたり、階段から突き落とし亡き者にしようとした。無事だから良かったものの、ミランダがどれほど怖い思いをしたか。死をもって償え!」
「ヴェルナー、私怖かったわ」
腕に胸を押し付けぶら下がっているミランダという女は、涙を浮かべ上目遣いで殿下を見ている。
「私は何もしておりませんし、その方とお会いするのも今日が初めてです。本当にお調べになられたのですか?」
「義姉上、往生際が悪いですよ。ミランダを虐げた罪を認めなさい!」
義弟のコンラートも私をなじる。
「レティシア嬢、会ったこともないなんて嘘も大概にしたまえ! ミランダは辛く怖い思いをしたんだ。罪を認めて償え」
今度は公爵令息のフィリップか。側近達は誰も殿下を諌めないようだ。それどころか皆、男爵令嬢に傾倒しているのだな。
「何度も申し上げますが、私は何もしておりませんし、お会いしたこともございません」
殿下は私を睨みつけた。
「ええぃ、こざかしい! 黙れ! ブルーノ、こいつを城の地下牢に連れて行け!」
側近のブルーノが私のそばに来て憎々しそうに腕を捻り上げた。ギシッと骨が軋むような音がした。
ブルーノは騎士団長の子息で自分も騎士科にいて、卒業後は騎士団に所属する予定だ。それにしても、女性に手を挙げるなんて騎士の風上にも置けない男だ。あの清廉潔白な騎士団長の息子だとは思えない。
「罪を認めろ」
「何もしていないわ」
「嘘をつくな!」
ブルーノは私を縛り上げ、さるぐつわまでした。そして乱暴に担ぎ上げ、地下牢に運び、私は牢の中に入れられた。
今日は陛下も王妃殿下も宰相をしている私の父も隣国の王太子の婚姻式に参列するために隣国に訪れていて城にはいない。きっとそれを狙ったのだろう。
殿下は本当に私を処刑するつもりか?
しばらくすると足音が聞こえてきた。殿下達だ。
「レティシア、少しは反省したか? 反省してももう遅いがな。あの世で懺悔するんだな。出せ!」
殿下はブルーノに命じ、牢に入ってきたブルーノは私の腕を掴んだ。
「死んで償え」
牢から引っ張りだし、また担ぎ上げた。
私は城の裏手にある処刑場に連れて行かれた。パーティーにいた生徒達が移動したのか、ギャラリーもいる。
さるぐつわをされたままなので喋ることができない。ジタバタしたが、ブルーノに押さえつけられ、そのまま断首台に固定された。
殿下がギャラリーに向かって宣言する。
「今から、悪女、レティシアの処刑を行う。こんな極悪非道な女を生かしておくことはできない。今は陛下が国を留守にしている為、王太子である私が代理で処刑を認めた」
ギャラリーは息を飲んでいる。まさかこんなに早く処刑されるとはだれも思っていなかったのだろう。
殿下の隣には男爵令嬢のミランダが口角を上げ、ニヤリとしている。黒幕はこいつだろうか。
殿下や側近はこいつに踊らされているのか。情けない。こんなやつが王太子だなんて。8歳で婚約してから、10年も全てを犠牲にして尽くしてきたのに。許さない。絶対に許さない。
「最後に何か言うことはあるか? ブルーノ、外してやれ」
殿下の命令でブルーノがさるぐつわを外した。
「私は無実です。こんなことをしてタダで済むとお思いですか? あなた方全員許しません」
「黙れ! まだ罪を認めないか! 地獄に堕ちろ!」
殿下の言葉とともにギロチンの刃が降りて来る音がして、目の前が真っ暗になった。
私の魂は身体をするりと抜けたようだ。気がつくと目の前には薄い紫色のパーティードレスを着たままの身体と頭が離れ、血まみれになっている私が転がっている。
殿下や側近達は私が死んだことでご満悦なようだ。みんなで大笑いをしている。
悔しい。こんなの死んでも死にきれない。せめて、罪状どおり、男爵令嬢に嫌がらせをしたり、危害を加えたり、殺害未遂したい。殿下や側近達も貶め、精神的に追い詰めてやりたい。
絶対に許さない。
「レティシア嬢、お迎えにあがりました」
白い服を着て背中に羽根をつけた若い男が私の手をとる。
「あなたは誰? どこに行くの?」
「私は神の使いです。天に行くのですよ。あなたは本当ならまだ寿命があるのですが、亡くなってしまったので天に行くしかありません。私がお連れしますので着いてきてください」
天?
「行かないわ。まだ行けないのよ。あいつらに復讐し終わるまでは行かないわ」
そうだ。このまま天に行くなんてとんでもない。復讐してやる。絶対許さない。
神の使いは困ったような顔をしている。
「亡くなってから35日以内に天に行かなければならないのですよ。それを過ぎるともう天には行けず幽霊としてずっとここにいることになってしまいます。それでもよろしいのですか?」
「構わないわ。復讐しないで天国に行っても悔いが残る。きっちり復讐を済ますことができるなら、このまま幽霊でいいわ」
「わかりました。それでは、一旦天国に戻り、神と相談してきます。私が戻るまでに、いや、できるだけ早く復讐を終えて下さいね」
神の使いは姿を消した。
私は、私の断罪と処刑に関係しているすべての人達に復讐する決意をした。
無実の人間を有無も言わせず、きちんとした取り調べも裁判もせずに処刑した。これは処刑なんかではない、殺人だ。
きっと陛下や父に連絡がいっていると思うが、すぐには戻れないだろう。陛下はきっと正しい判断をし、何かしらの裁きをされると思うが、息子可愛さに目が濁るかもしれない。まずは私が自分で自分の無念を晴らす。
ギャラリーの中には私を無実を信じ抗議している人達もいるが、殿下達が正しいと私を罵倒している者達もいる。その顔忘れないからな。
さて、だれから始めようか。
幽霊になっているので誰にも姿を見られず、何処にでも行ける。魔法使いより幽霊の方が有能だと初めて知った。
学園の学期末のパーティーで賑わうホールにヴェルナー殿下の声が響いた。
予期せぬ発言に驚いたが、それを顔に出さないように気をつけながら殿下の前に出た。
「理由をお聞かせ頂けますでしょうか?」
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「自分の胸に手を当ててみろ。お前が私の真実の愛の相手、ミランダに嫉妬し、行った悪行の数々、忘れたとは言わせない」
いやいや、嫉妬なんてあり得ない。忘れるとか、そもそも何もやってないし……。
それに、このミランダって女誰よ。真実の愛? 訳がわからないわ。
「私は何もしておりませんし、ミランダ嬢とも面識がございませんが、証拠はあるのですか?」
「ある! ミランダがそう言っている」
ミランダという女の嘘を信じているのね。騙されているのに気が付かないなんて情けないわ。
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「ヴェルナー、私怖かったわ」
腕に胸を押し付けぶら下がっているミランダという女は、涙を浮かべ上目遣いで殿下を見ている。
「私は何もしておりませんし、その方とお会いするのも今日が初めてです。本当にお調べになられたのですか?」
「義姉上、往生際が悪いですよ。ミランダを虐げた罪を認めなさい!」
義弟のコンラートも私をなじる。
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今度は公爵令息のフィリップか。側近達は誰も殿下を諌めないようだ。それどころか皆、男爵令嬢に傾倒しているのだな。
「何度も申し上げますが、私は何もしておりませんし、お会いしたこともございません」
殿下は私を睨みつけた。
「ええぃ、こざかしい! 黙れ! ブルーノ、こいつを城の地下牢に連れて行け!」
側近のブルーノが私のそばに来て憎々しそうに腕を捻り上げた。ギシッと骨が軋むような音がした。
ブルーノは騎士団長の子息で自分も騎士科にいて、卒業後は騎士団に所属する予定だ。それにしても、女性に手を挙げるなんて騎士の風上にも置けない男だ。あの清廉潔白な騎士団長の息子だとは思えない。
「罪を認めろ」
「何もしていないわ」
「嘘をつくな!」
ブルーノは私を縛り上げ、さるぐつわまでした。そして乱暴に担ぎ上げ、地下牢に運び、私は牢の中に入れられた。
今日は陛下も王妃殿下も宰相をしている私の父も隣国の王太子の婚姻式に参列するために隣国に訪れていて城にはいない。きっとそれを狙ったのだろう。
殿下は本当に私を処刑するつもりか?
しばらくすると足音が聞こえてきた。殿下達だ。
「レティシア、少しは反省したか? 反省してももう遅いがな。あの世で懺悔するんだな。出せ!」
殿下はブルーノに命じ、牢に入ってきたブルーノは私の腕を掴んだ。
「死んで償え」
牢から引っ張りだし、また担ぎ上げた。
私は城の裏手にある処刑場に連れて行かれた。パーティーにいた生徒達が移動したのか、ギャラリーもいる。
さるぐつわをされたままなので喋ることができない。ジタバタしたが、ブルーノに押さえつけられ、そのまま断首台に固定された。
殿下がギャラリーに向かって宣言する。
「今から、悪女、レティシアの処刑を行う。こんな極悪非道な女を生かしておくことはできない。今は陛下が国を留守にしている為、王太子である私が代理で処刑を認めた」
ギャラリーは息を飲んでいる。まさかこんなに早く処刑されるとはだれも思っていなかったのだろう。
殿下の隣には男爵令嬢のミランダが口角を上げ、ニヤリとしている。黒幕はこいつだろうか。
殿下や側近はこいつに踊らされているのか。情けない。こんなやつが王太子だなんて。8歳で婚約してから、10年も全てを犠牲にして尽くしてきたのに。許さない。絶対に許さない。
「最後に何か言うことはあるか? ブルーノ、外してやれ」
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殿下の言葉とともにギロチンの刃が降りて来る音がして、目の前が真っ暗になった。
私の魂は身体をするりと抜けたようだ。気がつくと目の前には薄い紫色のパーティードレスを着たままの身体と頭が離れ、血まみれになっている私が転がっている。
殿下や側近達は私が死んだことでご満悦なようだ。みんなで大笑いをしている。
悔しい。こんなの死んでも死にきれない。せめて、罪状どおり、男爵令嬢に嫌がらせをしたり、危害を加えたり、殺害未遂したい。殿下や側近達も貶め、精神的に追い詰めてやりたい。
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神の使いは姿を消した。
私は、私の断罪と処刑に関係しているすべての人達に復讐する決意をした。
無実の人間を有無も言わせず、きちんとした取り調べも裁判もせずに処刑した。これは処刑なんかではない、殺人だ。
きっと陛下や父に連絡がいっていると思うが、すぐには戻れないだろう。陛下はきっと正しい判断をし、何かしらの裁きをされると思うが、息子可愛さに目が濁るかもしれない。まずは私が自分で自分の無念を晴らす。
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