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プロローグ(ブランシュ)
しおりを挟む「結婚してもお前を愛することなどない」
オスカー様はそう言った。
「お前さえいなければ私は愛するキャサリンと幸せになれたんだ。お前は私たちの仲を引き裂こうとする悪女だ。お前のせいだ!」
馬鹿じゃないの? 私にだって好きな人はいたのよ。
私の好きな人、クロヴィス様は伯爵家の子息だったから侯爵家にたてつくことはできなかった。
私に『一緒に逃げよう』と言ってくれたけど、愛する人の未来を潰したくなかった。
貴族の娘に産まれたばっかりに、好きでもない男と結婚して、嫌な目に合わされながら生きていかなきゃならない。それでも貴族の娘に産まれてしまったのだから諦めるしかない。
キャサリン嬢と結婚したけりゃ私と婚約を解消すれば良かったんだわ。
私は伯爵の娘、オスカー様は侯爵の子息、伯爵家が侯爵家に断れる訳がない。結婚を申し込んできたのは侯爵家。侯爵閣下が頭を下げて頼んできたので父は断れなかった。
共同事業をしていたし、私は人質みたいなものだ。
私たちの仲を引き裂いたのはオスカー様の方よ。愛するクロヴィス様と泣く泣く別れ、私はアカデミーを卒業してすぐにオスカー様と結婚した。
結婚してからは、跡取りを作らなきゃいけないからと初夜はとりあえず済ませたけど、終わってすぐにオスカー様は恋人の元に行ったの。
酷いの閨事だった。まるで陵辱されているようだったわ。
私は出会ってからずっと、オスカー様に人としての尊厳を踏みにじられているような気がする。
義理の両親は良い人だった。私を無理矢理、息子の嫁にしたこともあり、後ろめたもあったのだろうが、私の事をとても大事にしてくれた。
なぜこんな良い人たちの子供なのにオスカー様はあんな人なのだろうと疑問に思ったが、きっとキャサリン嬢には良い人なのだろう。
家や領地のことなど全く感知せず「仕事が忙しい」と帰ってこないオスカー様に代わって、侯爵家の仕事を手伝う私に、義父母は手取り足取り教えてくれた。
私が産んだ最初の子供が娘だったと聞き、屋敷に顔を出したオスカー様は『わざと女を産んだのか? そんなに私と閨事がしたいのか?』と言った。
私は吐いた。神経が高ぶり、衝動的に自死しようとした私に、義母は何度も何度も謝ってくれた。
「あんな息子で恥ずかしい。産むんじゃなかった」と言った。
医者に子供ができやすい日を割り出してもらい、オスカー様に陵辱された。愛など何もない、人間の尊厳も踏みにじられただけだった。
ふたり目の子供は男の子だった。
子供たちはまともな人間になるように育てた。
私は子供たちに好きな人と結婚しろと言った。家の為の結婚ならしなくていい。私のようになってはいけないと言った。
私は義両親と一緒に領地の産業を盛り立てて、利益を出した。
我が領地は潤うようになっていった。
娘のクラウディアを嫁がせ、息子のミッシェルにも幼馴染のサンドラちゃんがお嫁さんが来てくれた。サンドラちゃんの両親もうちの事情はよく知っている。
ミッシェルは小さい頃から義父母や私と一緒に侯爵家の仕事をしていた。私たちはミッシェルに仕事を教え込んだ。義父は全く家に寄りつかず侯爵の仕事もしないオスカー様ではなく、孫のミッシェルに爵位を譲った。
オスカー様は義両親が亡くなったら侯爵を継ぎ、私を追い出し、キャサリン嬢と結婚するつもりだったらしい。
あの日、オスカー様は屋敷にやってきた。
「お前のせいだ! お前が父上をたらし込んで私が爵位を継げないようにしたのだ! やっぱりお前は悪女だ! 死んで私に詫びろ!」
私に向かって走ってきた。きらりと光モノが見えた。
どんと身体に衝撃を受けた。痛みが襲ってきた。
身体の中から赤い液体が湧き出てきた。
「母上!」
「お義母様!」
ミッシェルとサンドラちゃんが駆け寄ってきた。
あぁ、私はオスカー様に刺されたのか。死ぬんだな。私の人生ってなんだったのだろう?
侯爵家の血は繋いだ。ミッシェルは跡取りとしてちゃんと育てた。これでお役ごめんだな。
ふとオスカー様の方を見ると義父や私設騎士に取り押さえられている。
真実の愛の為に私を殺したかったのだろうか?
ふたりで幸せに暮らしていたじゃない。私はあの時、クロヴィス様と引き離され、その後は会うこともなかったのよ。
オスカー様が自分勝手なことをしている間、私は侯爵家の為に生きてきた。
何もしなかったあなたに渡すモノなんて何もないわ。
だんだん目が霞んできた。もうおしまいかしら?
神様、今度生まれ変わることがあるのなら、私はクロヴィス様と結婚したい。
クラウディアもミッシェルもクロヴィス様の子供として産まれてきてほしい。
次の人生は愛し愛されて幸せになりたい。
そして、あの人もキャサリン嬢と結婚すればいい。
クロヴィス様と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。
またこんな人生なら生きる意味がないものね。
「母上! 母上!」
「お義母様!」
「ブランシュ!」
「ブランシュ!」
「若奥様!」
みんなが私の名前を呼んでくれているのね。
頑張った甲斐があったわね。
みんなありがとう。もう行くわね。
私は目を閉じた。
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