敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉 香耶

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47.蛇(1)

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 あのあと、もう一度良いかとアルフォンスに強請られて、再び2人は交わった。一度目と同じぐらいで彼が達するのではないかと思っていたが、案外と――と思うのは失礼なのかもしれないがエレインはそういった行為の早い遅いがよくわからない――長く、そして案外と激しくことは行われて、終わった後はすとんと眠りについてしまって、恥ずかしながらよく覚えていない。

 目覚めれば1人で隣のアルフォンスの私室で眠っていたし、朝彼女のところにやってきた侍女はなんだかみなにこにこと微笑んでいた気がする。要するに「ことを行った」ことが公になっている。それはそうだ。寝室の片付けは任せるわけだし、当然だ。あまりよく考えていなかったが、確かに自分たちが「契約結婚ではない」と思わせるには、必要なのだな……と今さらながら腑に落ちる。

 その上、マーシアと来たら「そのう、わたくしたちにご遠慮などされずとも良いのですから!」と侍女にあるまじきことを言い出す始末。エレインはそう言った少し砕けた彼女のことは気に入っていたが、さすがにそれは口をへの字に曲げて「遠慮などしていない」と強く言わずにはいられなかった。

(それにしても……)

 少しばかり腰が痛い。アルフォンスの相手をする女性は大変そうだ……そんな他人事のようなことを考えてから、彼が側室は娶らないと言っていたことを思い出す。

(結局、わたしは言葉で彼に何も返していないが……)

 もう少しだけ時間が欲しい。そのもう少しというのはいつならば良くなるのか。それすらわからないが、エレインの心の中では折り合いがまだつかないのだ。自分が「幸せ」になることを躊躇しているのだろうか、と考える。そうだ。多分そうなのだろう。自分を望んでくれた人を自分も望んでいるなんて、それはどれほどの幸せか。

 エレインは自室のソファに1人で座り、そっと己の手の甲にキスをしてみた。だが、何も感じない。ただ唇で触れた。それだけのことだ。なのに、アルフォンスからキスを与えられると、それだけでじんわりと胸の奥が熱くなる。

(先に、繋がってしまったことは、後悔していない)

 だって、困ったことに彼に触れられることが嫌ではない。彼に愛されることに少しずつ慣れてしまって、あの腕の中にいる時間に陶酔してしまっている自分をエレインは知っている。

 今日から彼は少し離れた場所へ赴き視察やら何やらをして、数日後戻って来るという話だ。国王自らが行かなければいけない場所があるなんて、なかなか大きな仕事がこの国には残っているのだろう。それもこれも、クリスティアンが様々なことを放置していたせいだと彼は言っていたが。

(戻って来たら、また、わたしを抱くのだろうか)

 その時、自分はどうするんだろう。折り合いがつかないまま、抱かれるのだろうか。それとも、言葉にしてしまうのだろうか。それとも。

 エレインはもう一度自分の手の甲にキスをする。何一つ、心が動かない。それを改めて実感して、小さく苦笑いを浮かべた。



 その日の昼過ぎ、庭園のガゼボで一人茶を飲みながら読書をしていると、ランバルトの来訪が知らされた。部屋に戻るかどうかを聞かれて「良い、ここに通して欲しい」とエレインはガゼボに彼を迎えることにした。人払いをしなくとも、庭園に出入りをする入口付近に使用人たちは待つ。それが良いことはアルフォンスにも既に言ってあった。ならば、ガゼボにランバルトを通すことは怒られないだろうと思うエレイン。

(彼に怒られる、か)

 それほど、エレインの中でこの場所は自分とアルフォンスの大切な場所になっているのだ。それに気づいて、彼女は苦笑いをかすかに浮かべる。おこがましいにもほどがある。自分がオレンジの薔薇を植えてもらったからといって……と思うが、それでも心には、遠い過去に彼と会ったあの日のことが鮮明に思い出されて「特別になっても仕方がない」と言い訳になってくれた。

「失礼いたします。いや、すごいですね。良い庭園だ」

「ランバルトは初めて?」

「はい。そもそも王城内にある庭園は、どこも足を運んだことはないですね……特にここは、王太后様が以前は管理なさっていたはずですし、わたしの立場では縁遠い場所でした」

 そう言いながらランバルトは書類をエレインに渡す。本来、そういった行為を行うには、どのような書類で、どのように目を通していただきたい。いかがでしょうか……とおうかがいが必要だ。だが、エレインは一切そういったことを重んじない。少なくともランバルトには。彼のことは既に信頼をしている。そして、彼もまたそれを理解して、尽くそうとしてくれているのだ。

「来月、改めて終戦契約を結ぶことになりました」

「長かったのですね」

「はい。終戦に関する約束事をどうするのか、協議が長引いて。アルフォンス様が出来る限りガリアナ王国とは公平でありたいと思いつつも、それでも我々が事実上の勝利国であることは確かで、その辺りをうまく折り合いをつけるのが」

「なるほど」

 エレインは書類に目を通す。相変わらずわかりやすい。ところどころ、普段使わない難しい言葉が混じっていたが、おおよそは理解をする。

 と、その時、茂みに何か違和感を感じてエレインはちらりと目線を送る。

「うん……?」

「契約は互いの国境からそれぞれ離れた中立地区にて。立ち合い人として隣国のハリューン国の宰相そのほかの方々をお迎えいたします。そこで、マリエン王国、ガリアナ王国両国の宰相が国王の名代として契約を行う手筈になって……」

 エレインはぴくりと顔をあげた。ランバルトは何か不明点があっただろうか、と困惑の表情で「エレイン様?」と声をかける。

「ランバルト。そのまま続けて」

 エレインは目線をランバルトに送って、そう言いながらみぞおちに左手を置いた。それから、すっと右手を動かす。焼き菓子を食べるために用意されたデザートフォーク。それを手にする。ランバルトは彼女のその行動が気になったが、言われたまま説明を続ける。

「ただ、アルフォンス様はエレイン様を一度ガリアナ王国に連れて行きたいと思っていらっしゃるよ……ひっ!?」

 しゅっ、とランバルトの腕をかすめて、何かが飛んだ。それは、彼女が投げたフォークだ。殺意も何もなく、ただ彼女はそれを茂みに向けて放っただけだ。すると、ガサガサと大きな音がする。ランバルトは「なに……?」とそちらに向かう。

「わっ、蛇だ……毒持ちかな? 小さいですね」

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