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51.光明(2)
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「ありがとうございました。まだ、鍛錬不足でした」
そう言ってグスタフは頭を下げた。
「いや。違う。あんなことを小さな盾でやっていては、すぐに壊れてしまう。どうも、先に体が動いてしまうため、土台無理なことをしがちでよろしくない。あなたの剣はとても正しい」
「いえ。まさか、わたしの木剣を盾で弾かれるとは思いませんでした。力には自信があったのですが……」
「うん。あの時、あなたは本気でわたしに木剣を振り下ろしただろう」
エレインは目を細めた。
「だから、弾いてしまった。そこに、殺意に似たものがあったからだ。それがなければ、わたしもあんなことはきっとしなかったと思う」
グスタフは静かにエレインを見下ろし、それから「なるほど、眠れる獅子を起こしたようなものですか」と苦々しく笑った。
「そんな大層なものではない。ただ、生きようとしただけだ」
そう言って、エレインは革盾を外して護衛騎士に渡した。と、その時、鍛錬所の出入り口から人が入ってくる姿が見えた。人々は「あっ」と声をあげて、慌てて立ち上がる。
「国王陛下……!」
「座って王妃の手合わせを見ているとは、なかなか気が抜けているな」
アルフォンスのその言葉に、人々はさっと顔を青くした。が、それをエレインが
「わたしは王妃ではなくガリアナの姫騎士ですから、まあ、ちょっとの見世物ぐらいになっても仕方がないことでしょう」
と言って笑ったので、アルフォンスは肩を竦める。
「屁理屈もいいところだ」
「おかえりなさいませ。お疲れでしょう? どうしてここに」
「ああ。あなたのところに行こうと光彩の棟に向かったら、鍛錬所から声が聞こえたのでね」
アルフォンスの後ろにはランバルトがいて、マーシアにぱくぱくと「これはどういうことだ」と声もなく聞いている。それを見たエレインは「ふふ」と笑う。
「何にせよ、アルフォンス以外の方と手合わせを出来るなんて、とても嬉しいことです。グスタフ。ありがとう」
その礼にどう答えれば良いかわからず、グスタフは「い、いえ……」と困惑の声をあげた。
「エレイン。グスタフは、ここでわたしの身辺を守る王城の専属騎士団の副団長だ。剣術の腕前はまあ、5本の指、というほどではないが10本の指には間違いなく入る」
「ええ。わかります。この人はお強い。ただ、わたしが少しだけずるかった。それだけです」
「そうだな。あなたは騎士の剣をもう少し学んだ方が良いかもしれない。騎士ではないと十分わかっているが」
否定をしないアルフォンス。
「しかし、ずるいことは悪いことではない。騎士の相手が騎士だとは限らないからだ」
「おっしゃる通り」
それからアルフォンスはエレインの部屋に行かないかと誘い、その場のみなは解散をした。グスタフは最後に、正しく立場が上の者に対する礼をして
「王妃陛下。まことにありがとうございました」
と告げた。それへ、エレインは「うん」と言ってあっさりとその場を離れる。光彩の棟に向かいながら、アルフォンスはエレインに話しかけた。
「驚いた。あなたとグスタフが手合わせをするなんて、一体どんな風の吹き回しかと」
「申し込まれたのです。ですが、こちらも少しは仲良くしようかと」
「そうだな。あれで、あなたへの風向きは変わっただろう」
「そうでしょうか?」
「そういうものだ。グスタフが、あなたを王妃とはっきり最後に認めたのだから」
エレインは不思議そうな表情を浮かべ
「手合わせに勝ったら王妃、ということですか? マリエン王国はいささか野蛮なのですね?」
と言い出した。勿論、本気でそう言っているわけではないことはアルフォンスもわかっていて、彼も「はは、そうだ。いささか野蛮なんだ」と笑う。
「そうではない。あなたがグスタフに勝ったあの初日、あの広間にはそう多くの騎士団はいなかった。だから、あなたの剣を見たことがない人々には、いくらかグスタフは陰口を叩かれていてな」
「なるほど」
女の剣に負けたのかとか、敵国の女に勝てなかったのかとか、まあそういったことだろう、と思うエレイン。
「だが、あなたは人々の前で、あの日彼に対して礼がなかったことを謝って、更には彼が強いことを認めた。間違いがない方法で。まあ、勿論彼が勝てれば一番良かったんだろうが、そこはそうはいかない。しかし、何にせよ彼からすれば、ほら見ろ、こんなにこの女は強いんだ、っていうアピールも出来たわけだ」
「それはよかったですね」
そう言って肩をすくめるエレイン。「で? 何故わたしを王妃と認めたのですか?」と彼女はぶれない。
「あれは、彼からの礼だ。まあ半分は、彼があなたを王妃と認めることで、彼より下のものもそうせざるを得ないし……それに……」
「それに?」
「誰かに、あなたに挑んで万が一勝たれては困るからな。王妃として崇めている方がいいと踏んだんだろう」
「器が狭い話ですね」
「うん。だが、悪い男ではない。それは本当だ」
それを、エレインは「王妃でも、誰かから手合わせを頼まれたらわたしは受けますけど」と拗ねたように言い、アルフォンスもまた「わたしからだけで我慢をしてくれるとありがたいんだが」と少し拗ねたように返すのだった。
そう言ってグスタフは頭を下げた。
「いや。違う。あんなことを小さな盾でやっていては、すぐに壊れてしまう。どうも、先に体が動いてしまうため、土台無理なことをしがちでよろしくない。あなたの剣はとても正しい」
「いえ。まさか、わたしの木剣を盾で弾かれるとは思いませんでした。力には自信があったのですが……」
「うん。あの時、あなたは本気でわたしに木剣を振り下ろしただろう」
エレインは目を細めた。
「だから、弾いてしまった。そこに、殺意に似たものがあったからだ。それがなければ、わたしもあんなことはきっとしなかったと思う」
グスタフは静かにエレインを見下ろし、それから「なるほど、眠れる獅子を起こしたようなものですか」と苦々しく笑った。
「そんな大層なものではない。ただ、生きようとしただけだ」
そう言って、エレインは革盾を外して護衛騎士に渡した。と、その時、鍛錬所の出入り口から人が入ってくる姿が見えた。人々は「あっ」と声をあげて、慌てて立ち上がる。
「国王陛下……!」
「座って王妃の手合わせを見ているとは、なかなか気が抜けているな」
アルフォンスのその言葉に、人々はさっと顔を青くした。が、それをエレインが
「わたしは王妃ではなくガリアナの姫騎士ですから、まあ、ちょっとの見世物ぐらいになっても仕方がないことでしょう」
と言って笑ったので、アルフォンスは肩を竦める。
「屁理屈もいいところだ」
「おかえりなさいませ。お疲れでしょう? どうしてここに」
「ああ。あなたのところに行こうと光彩の棟に向かったら、鍛錬所から声が聞こえたのでね」
アルフォンスの後ろにはランバルトがいて、マーシアにぱくぱくと「これはどういうことだ」と声もなく聞いている。それを見たエレインは「ふふ」と笑う。
「何にせよ、アルフォンス以外の方と手合わせを出来るなんて、とても嬉しいことです。グスタフ。ありがとう」
その礼にどう答えれば良いかわからず、グスタフは「い、いえ……」と困惑の声をあげた。
「エレイン。グスタフは、ここでわたしの身辺を守る王城の専属騎士団の副団長だ。剣術の腕前はまあ、5本の指、というほどではないが10本の指には間違いなく入る」
「ええ。わかります。この人はお強い。ただ、わたしが少しだけずるかった。それだけです」
「そうだな。あなたは騎士の剣をもう少し学んだ方が良いかもしれない。騎士ではないと十分わかっているが」
否定をしないアルフォンス。
「しかし、ずるいことは悪いことではない。騎士の相手が騎士だとは限らないからだ」
「おっしゃる通り」
それからアルフォンスはエレインの部屋に行かないかと誘い、その場のみなは解散をした。グスタフは最後に、正しく立場が上の者に対する礼をして
「王妃陛下。まことにありがとうございました」
と告げた。それへ、エレインは「うん」と言ってあっさりとその場を離れる。光彩の棟に向かいながら、アルフォンスはエレインに話しかけた。
「驚いた。あなたとグスタフが手合わせをするなんて、一体どんな風の吹き回しかと」
「申し込まれたのです。ですが、こちらも少しは仲良くしようかと」
「そうだな。あれで、あなたへの風向きは変わっただろう」
「そうでしょうか?」
「そういうものだ。グスタフが、あなたを王妃とはっきり最後に認めたのだから」
エレインは不思議そうな表情を浮かべ
「手合わせに勝ったら王妃、ということですか? マリエン王国はいささか野蛮なのですね?」
と言い出した。勿論、本気でそう言っているわけではないことはアルフォンスもわかっていて、彼も「はは、そうだ。いささか野蛮なんだ」と笑う。
「そうではない。あなたがグスタフに勝ったあの初日、あの広間にはそう多くの騎士団はいなかった。だから、あなたの剣を見たことがない人々には、いくらかグスタフは陰口を叩かれていてな」
「なるほど」
女の剣に負けたのかとか、敵国の女に勝てなかったのかとか、まあそういったことだろう、と思うエレイン。
「だが、あなたは人々の前で、あの日彼に対して礼がなかったことを謝って、更には彼が強いことを認めた。間違いがない方法で。まあ、勿論彼が勝てれば一番良かったんだろうが、そこはそうはいかない。しかし、何にせよ彼からすれば、ほら見ろ、こんなにこの女は強いんだ、っていうアピールも出来たわけだ」
「それはよかったですね」
そう言って肩をすくめるエレイン。「で? 何故わたしを王妃と認めたのですか?」と彼女はぶれない。
「あれは、彼からの礼だ。まあ半分は、彼があなたを王妃と認めることで、彼より下のものもそうせざるを得ないし……それに……」
「それに?」
「誰かに、あなたに挑んで万が一勝たれては困るからな。王妃として崇めている方がいいと踏んだんだろう」
「器が狭い話ですね」
「うん。だが、悪い男ではない。それは本当だ」
それを、エレインは「王妃でも、誰かから手合わせを頼まれたらわたしは受けますけど」と拗ねたように言い、アルフォンスもまた「わたしからだけで我慢をしてくれるとありがたいんだが」と少し拗ねたように返すのだった。
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