59 / 72
57.埋まりゆくピース(1)
しおりを挟む
アルフォンスは月華の棟から離れているものの、安全を確保するために光彩の棟にある寝室に運ばれた。光彩の棟の出入り口に護衛騎士をいつもより多く配置して、そこで更に治療を行った後、彼は数時間眠っていた。王太后の天恵は強制力が強いものらしく、それに抗ったゆえの副作用のようなものらしい。手当を受けたエレインは寝室のソファで横たわり、食事も運んでもらってずっと彼の傍を離れなかった。
夕方頃、エレインはランバルトに事情聴取をされ、様々な答え合わせをすることとなった。
「痛みは大丈夫ですか」
「痛いは痛いですが、まあそう動かなければ」
エレインは脇腹を包帯などで押さえているため、腰で絞らないゆったりとした寝間着に軽く上着を羽織っている。横になるため、髪もいっさい縛らずに下ろしていた。けがをしているのだから、動かないでください!とマーシアに怒られたが、珍しく彼女はがんとしてアルフォンスについている、と我がままを言ったのだ。
ランバルトの報告はこうだった。まず、王太后は天恵持ちであること。そして、どうやら王族の血が薄い男性を操ることが出来るのだということ。そして、それは1人のみで、その1人が「死ぬ」ことで解除されるらしいこと。この辺りは推測だとランバルトは言っていたが、それならば合点がいく、とエレインは思う。
「クリスティアン前国王を殺した公爵も……」
「そうですね……侍女の証言で、王太后と面会をした履歴がありました」
「天恵封じのあのバングルは?」
「アルフォンス様の御父上がおつくりになったようです」
作った者が既に他界していたので、調査に時間がかかったのだとランバルトは言う。どうやら、天恵封じのバングルを王太后につけ、その代わり彼女を生かしていたのではないかという推測が立った。
「いや、本当にこれは先ほど知ったばかりの調査結果なんですが……ある時。どうやらバングルの鍵が壊れて、外れたのではないかと」
「外れた……?」
「はい。実は、クリスティアン前国王が即位をしてすぐ鍵の部分を直したのだと、王城御用達の商人の証言がありまして……それが、天恵封じのものだとは知らなったようですが。既に錬金術の天恵を持つものの死後だったため、鍵の部分だけを発注したようです」
なるほど。その辺りの前後はよくわからないが、多分バングルの鍵が外れたことを、王太后は内緒にしていたのだろう。そして、会いに来たアルフォンスの父親を操った。だが、アルフォンスの父親が死んだことによって、クリスティアンが王になる。クリスティアンは何をどう知ったのか、バングルの鍵の部分を直した。多分、王太后に再びそれをつけるために。
「けれど、アルフォンス様の御父上は、このブレスレットと同じものを……」
「バングルを過信して、外していたこともあったのかもしれませんね。何にせよ、その辺りはすべて推測です。ただ、これは王太后から聞いたのですが……」
王太后が操るようになってからは、わざと魔除けのブレスレットをしていたのだと言う。肌身離さず身に着けて、そして、死後はそれをつけたまま葬儀に出したらしい。それは「魔除けのブレスレットを次の誰かに使われては困る」からだ。そして、わざとそのブレスレットをつけることで、王太后以外の天恵持ちに、王太后の天恵を解除されるようなこともなくなる。彼女からすれば一石二鳥だったのではないかとランバルトは話した。
王太后は現在は王城の牢屋にいる。今はまだ半狂乱であれこれ叫んでいるが、これから先細かな話を聞かなければいけない。おおよそ、アルフォンスを使って自分の身分の確保をしたかったのではないかとランバルトはため息まじりだ。
「ランバルトの天恵は?」
「魔除けのブレスレットよりも弱いんですけどね……天恵を跳ねのける効果があるのですが、いや、申し訳ない……王太后の天恵の方が強かったといいますか……そもそもわたし自身の力を石に籠める時点で力は劣ってしまうので……」
と、エレインは「あっ」と声をあげた。
「もしかして……蛇の時……」
「ああ……はい。そうです。あのぅ、エレイン様に天恵をかけていただいた……のですが、実はあれも弾いていまして……はい……ですから、わたしはいつ攻撃されるかわからない蛇を、攻撃されても大丈夫だ、と渡されたわけで……はい……」
エレインはそれを聞いて、つい声を出して笑ってしまう。勿論、ランバルトは「笑いごとじゃないですよ!」と口を尖らせたが、笑ったエレインが「わ、脇腹が、痛い……」と言い出したので、大いに慌てた。
王太后はアルフォンスにエレインを殺させた後、彼女の血族の女性をアルフォンスに嫁がせたかったのだろう。そんなことをしなくとも、実の子供であるエリーストがあと5年も経てば王に即位をするというのに。エレインはそう思ったが、もしかしたら、それをそうだと知っても、王太后はエリーストを信用していなかったかもしれない、と思う。
(どういうわけなのかはわからないが、クリスティアンは王太后が天恵封じのバングルをつけていると知った。そして、バングルの鍵を直して、王太后に再びはめた。バングルがなかったその間、きっと男性を近寄らせないようにとか、何か処置をしたのだろう)
クリスティアン自身は王族の順当な血族だ。王太后のあの「天恵」は王族の血族には通じない……ようなことを言っていた。だから、クリスティアンは「自分は大丈夫」だと思っていたに違いない。
だが。
エレインがこの王城に来た。天恵を制御する対象がもう一人。クリスティアンは、天秤にかけた結果、エレインを選んだのだろう。王太后からバングルをとりあげて、エレインにはめた。もしかしたらそもそも王太后に天恵がないのでは、と思っていた可能性もある。そのあたりのストーリーはもう誰も知らないことだ。
夕方頃、エレインはランバルトに事情聴取をされ、様々な答え合わせをすることとなった。
「痛みは大丈夫ですか」
「痛いは痛いですが、まあそう動かなければ」
エレインは脇腹を包帯などで押さえているため、腰で絞らないゆったりとした寝間着に軽く上着を羽織っている。横になるため、髪もいっさい縛らずに下ろしていた。けがをしているのだから、動かないでください!とマーシアに怒られたが、珍しく彼女はがんとしてアルフォンスについている、と我がままを言ったのだ。
ランバルトの報告はこうだった。まず、王太后は天恵持ちであること。そして、どうやら王族の血が薄い男性を操ることが出来るのだということ。そして、それは1人のみで、その1人が「死ぬ」ことで解除されるらしいこと。この辺りは推測だとランバルトは言っていたが、それならば合点がいく、とエレインは思う。
「クリスティアン前国王を殺した公爵も……」
「そうですね……侍女の証言で、王太后と面会をした履歴がありました」
「天恵封じのあのバングルは?」
「アルフォンス様の御父上がおつくりになったようです」
作った者が既に他界していたので、調査に時間がかかったのだとランバルトは言う。どうやら、天恵封じのバングルを王太后につけ、その代わり彼女を生かしていたのではないかという推測が立った。
「いや、本当にこれは先ほど知ったばかりの調査結果なんですが……ある時。どうやらバングルの鍵が壊れて、外れたのではないかと」
「外れた……?」
「はい。実は、クリスティアン前国王が即位をしてすぐ鍵の部分を直したのだと、王城御用達の商人の証言がありまして……それが、天恵封じのものだとは知らなったようですが。既に錬金術の天恵を持つものの死後だったため、鍵の部分だけを発注したようです」
なるほど。その辺りの前後はよくわからないが、多分バングルの鍵が外れたことを、王太后は内緒にしていたのだろう。そして、会いに来たアルフォンスの父親を操った。だが、アルフォンスの父親が死んだことによって、クリスティアンが王になる。クリスティアンは何をどう知ったのか、バングルの鍵の部分を直した。多分、王太后に再びそれをつけるために。
「けれど、アルフォンス様の御父上は、このブレスレットと同じものを……」
「バングルを過信して、外していたこともあったのかもしれませんね。何にせよ、その辺りはすべて推測です。ただ、これは王太后から聞いたのですが……」
王太后が操るようになってからは、わざと魔除けのブレスレットをしていたのだと言う。肌身離さず身に着けて、そして、死後はそれをつけたまま葬儀に出したらしい。それは「魔除けのブレスレットを次の誰かに使われては困る」からだ。そして、わざとそのブレスレットをつけることで、王太后以外の天恵持ちに、王太后の天恵を解除されるようなこともなくなる。彼女からすれば一石二鳥だったのではないかとランバルトは話した。
王太后は現在は王城の牢屋にいる。今はまだ半狂乱であれこれ叫んでいるが、これから先細かな話を聞かなければいけない。おおよそ、アルフォンスを使って自分の身分の確保をしたかったのではないかとランバルトはため息まじりだ。
「ランバルトの天恵は?」
「魔除けのブレスレットよりも弱いんですけどね……天恵を跳ねのける効果があるのですが、いや、申し訳ない……王太后の天恵の方が強かったといいますか……そもそもわたし自身の力を石に籠める時点で力は劣ってしまうので……」
と、エレインは「あっ」と声をあげた。
「もしかして……蛇の時……」
「ああ……はい。そうです。あのぅ、エレイン様に天恵をかけていただいた……のですが、実はあれも弾いていまして……はい……ですから、わたしはいつ攻撃されるかわからない蛇を、攻撃されても大丈夫だ、と渡されたわけで……はい……」
エレインはそれを聞いて、つい声を出して笑ってしまう。勿論、ランバルトは「笑いごとじゃないですよ!」と口を尖らせたが、笑ったエレインが「わ、脇腹が、痛い……」と言い出したので、大いに慌てた。
王太后はアルフォンスにエレインを殺させた後、彼女の血族の女性をアルフォンスに嫁がせたかったのだろう。そんなことをしなくとも、実の子供であるエリーストがあと5年も経てば王に即位をするというのに。エレインはそう思ったが、もしかしたら、それをそうだと知っても、王太后はエリーストを信用していなかったかもしれない、と思う。
(どういうわけなのかはわからないが、クリスティアンは王太后が天恵封じのバングルをつけていると知った。そして、バングルの鍵を直して、王太后に再びはめた。バングルがなかったその間、きっと男性を近寄らせないようにとか、何か処置をしたのだろう)
クリスティアン自身は王族の順当な血族だ。王太后のあの「天恵」は王族の血族には通じない……ようなことを言っていた。だから、クリスティアンは「自分は大丈夫」だと思っていたに違いない。
だが。
エレインがこの王城に来た。天恵を制御する対象がもう一人。クリスティアンは、天秤にかけた結果、エレインを選んだのだろう。王太后からバングルをとりあげて、エレインにはめた。もしかしたらそもそも王太后に天恵がないのでは、と思っていた可能性もある。そのあたりのストーリーはもう誰も知らないことだ。
3
あなたにおすすめの小説
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
異世界シンママ ~モブ顔シングルマザーと銀獅子将軍~【完結】
多摩ゆら
恋愛
「神様お星様。モブ顔アラサーバツイチ子持ちにドッキリイベントは望んでません!」
シングルマザーのケイは、娘のココと共にオケアノスという国に異世界転移してしまう。助けてくれたのは、銀獅子将軍と呼ばれるヴォルク侯爵。
異世界での仕事と子育てに奔走するシンママ介護士と、激渋イケオジ将軍との間に恋愛は成立するのか!?
・同じ世界観の新作「未婚のギャル母は堅物眼鏡を翻弄する」連載中!
・表紙イラストは蒼獅郎様、タイトルロゴは猫埜かきあげ様に制作していただきました。画像・文章ともAI学習禁止。
・ファンタジー世界ですが不思議要素はありません。
・※マークの話には性描写を含みます。苦手な方は読み飛ばしていただいても本筋に影響はありません。
・エブリスタにて恋愛ファンタジートレンドランキング1位獲得
【完結】男装令嬢、深い事情により夜だけ王弟殿下の恋人を演じさせられる
千堂みくま
恋愛
ある事情のため男として生きる伯爵令嬢ルルシェ。彼女の望みはただ一つ、父親の跡を継いで領主となること――だが何故か王弟であるイグニス王子に気に入られ、彼の側近として長いあいだ仕えてきた。
女嫌いの王子はなかなか結婚してくれず、彼の結婚を機に領地へ帰りたいルルシェはやきもきしている。しかし、ある日とうとう些細なことが切っ掛けとなり、イグニスに女だとバレてしまった。
王子は性別の秘密を守る代わりに「俺の女嫌いが治るように協力しろ」と持ちかけてきて、夜だけ彼の恋人を演じる事になったのだが……。
○ニブい男装令嬢と不器用な王子が恋をする物語。○Rシーンには※印あり。
[男装令嬢は伯爵家を継ぎたい!]の改稿版です。
ムーンライトでも公開中。
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる