婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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8-1:王宮からの招待状

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 春の終わりを告げる柔らかな風が、図書館の窓から吹き込んできた。

 書庫の整理を終え、私は読書室の隅で古い記録帳の修復をしていた。指先に集中しながらも、どこか落ち着かない気持ちが胸の奥をざわつかせている。

「クラリスさん」

 聞き慣れた優しい声に顔を上げると、そこには、どこか決意を秘めた表情のリュカが立っていた。

「少し、お話があります。……よろしいですか?」

「はい、もちろん」

 私は書物をそっと閉じて席を立ち、彼の案内で図書館の庭へ向かった。

 静かな午後。アッシュ川のせせらぎが、遠くから心地よく響いてくる。

 リュカは、ゆっくりと深呼吸を一つ。

「クラリスさん。……私には、あなたにお伝えしなければならない大切なことがあります」

 その言葉に、私は自然と姿勢を正した。

「私は、リュカ・アーデンと名乗ってきましたが――本当の名は、リュカ・エルミナス。エルミントン王国、第二王子です」

 静かに告げられた真実。

 けれど、不思議と心は乱れなかった。

 ただ、風の音が一瞬遠のいたように感じただけで。

「……そうでしたか」

 私の声も、思ったより穏やかだった。

「驚かれませんか?」

「少しだけ。でも……なんとなく、そうかもしれないとは、思っていました」

 リュカの目が、わずかに見開かれる。

「言葉の選び方、所作、そして知識と品格……普通の人ではないと。けれど、それが何であっても、私は――」

 一度、言葉を区切る。

「あなたが、リュカさんであることに変わりはありません」

 彼はふっと息を吐き、わずかに目を伏せた。

「ありがとうございます。……救われる思いです」

 その後、リュカは懐から一通の封書を差し出した。

「これは、王宮からの正式な招待状です。来月、王都ルミナスで祝宴が開かれます。できれば、あなたにご同行いただきたいのです」

 私は、手紙をそっと受け取った。

 王宮。あの煌びやかな世界。私はそこから離れ、ようやく自分らしさを見つけた。

 けれど――。

「……行きます。怖くないわけじゃありません。でも、あなたのそばにいたいと思います」

 リュカの瞳がわずかに潤み、すぐに穏やかな笑みに変わった。

「ありがとう、クラリスさん。私は、あなたと共に歩いていきたいと願っています」

 この春風のように――優しく、まっすぐに。

 私たちの物語は、次の舞台へと進もうとしていた。
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