婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり

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7-4:落日の侯爵令息、そして祝福の声

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 カイル・ラント侯爵令息の失墜は、驚くほどあっけなかった。

 社交界ではすでに噂が広まりつつあった。新たな婚約者――名門A伯爵家の令嬢は、彼の虚栄心と見栄ばかりの中身に早々に失望し、あっさりと婚約を解消したという。

 しかもその理由が「軽率な破談癖」「相手への敬意の欠如」だったことが、皮肉にも公の場で伯爵令嬢自らの口から語られたのだ。

 ――ラント侯爵家の御曹司は、三度も婚約を破棄された。

 ――しかも最後の婚約者は、あのクラリス・ヴァルデン嬢を手放した愚か者と嘲られた。

 噂は王都を駆け巡り、ラント家の社交界での評判は地に堕ちた。

 そして、アシュベリーにもその知らせは届く。

「ねえ、クラリスお姉さん、ラント家の坊ちゃん、すっごく怒られてるんだって!」

 市場に立ち寄った際、パン屋のリリアが耳打ちしてきた。顔には遠慮のない笑み。

「町に来た時は偉そうだったくせに、今じゃ笑い者だって。やっぱり、バチが当たったのよね!」

 私は少し驚いたが、同時に胸の奥がすっと軽くなった。

 正義の鉄槌――というほど劇的ではない。

 けれど、これはきっと“因果応報”という言葉の通りなのだろう。

「クラリスさん」

 図書館へ戻る途中、リュカが私に声をかけた。

「カイルに関する報せが、王宮にも届いています。おそらく、彼は当面、社交界に顔を出すことも難しいでしょう」

「……少し、気の毒かもしれません」

 そう口にした私に、リュカは静かに微笑んだ。

「そう思えるのは、クラリスさんがもう、彼の呪縛から完全に解き放たれた証です」

 私は、彼の横顔を見上げた。

 澄んだ青い瞳が、迷いのないまま私を見ている。

「私は、ようやく自分を取り戻せた気がします」

「いいえ、クラリスさんは……“新しい自分”を作り上げたんです」

 その言葉に、胸が熱くなる。

 その夜、図書館ではちょっとした祝福の集まりが開かれた。

 リリアが焼いたパイ、町の婦人会が持ち寄った焼き菓子、子どもたちが折った花飾り。

「クラリスさん、本当におめでとう」

 エルネスト館長がグラスを掲げる。

「あなたがこの図書館に来てくれて、本当に良かった」

 私は、微笑んで皆を見渡した。

 そして、リュカの方を向き、そっと頷く。

 この町が、私を迎えてくれた。

 そしてこの場所で、私はようやく――自分の人生を歩み始めたのだ。
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