私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ

文字の大きさ
30 / 56

29.新たな婚約

しおりを挟む

 マルグリートがシュティーフェル邸にルイーゼを見舞ってから、数日が経ち、ルイーゼの身体は徐々に、回復の傾向が見られるようになってきた。

 結婚前のルイーゼが、いつまでもシュティーフェル邸にいるのも世間体が悪い。体調が回復してきた頃を見計らい、ルイーゼはメーベルト伯長男ジェヒュー・メーベルトが暮らす別邸へと移されることになった。

 すぐそばで体調を確認できないこと、そしてソフィアがいるメーベルト邸の敷地内にある屋敷ということで、エルウィンはかなりの不安を覚えたが、逆にルイーゼに説得されてしまった。
 ジェヒューに、毎日見舞いに訪れることについての許可をもらい、エルウィンはようやく納得した。もちろん、ソフィアには内密に。



 ジェヒューの屋敷に移り数日、マルグリートが置いていった品のせいか、ルイーゼの体調は万全ではないけれども、落ち着いてくるようになった。
 走り回ることはできないが、日中歩いても問題ないくらいには回復していた。
 ジェヒューは、呪術の対処ができるような特殊技能を習得しているわけではない。別邸にいればソフィアの意識がルイーゼから外れるからだろうかと、彼は推察している。

 そして、エルウィンはマルグリートと共に毎日、ルイーゼの下を訪れた。
 マルグリートが同行を了承したのは、彼女も個人的にルイーゼの体調を心配していたせいもあるが、今回の番い関係の帰結を見届けたいというのが一番の理由だった。自分がどのような結末を望んでいるのか、マルグリート自身もまだ分かってはいないのだが。



 そんな日々の中、とうとうメーベルト伯夫人の我慢が限度を超えた。

「あの子を、これ以上卑しい者達のために損なうのは耐えられないわ!」
 と、勝手にルイーゼに新しい婚約者をあてがおうとしているのだ。
 ソフィアがそれを知ると、ルイーゼの体調は更に快方へと向かった。

「娘との婚約を、正式なものにしましょう。そうすれば、あの子ソフィアの気も済むでしょう。シュティーフェルの息子も、ルイーゼが大事ならば受け入れるでしょう」
「しかし……」
 躊躇を見せるメーベルト伯のことなど、夫人は意に介さずに続ける。
「あの二人ならば無理に社交界に顔を出す必要も無いでしょう。メーベルトの名も、シュティーフェルの名も、名乗らせなければよいではありませんか。一生、教会の奥深くにでもいてもらいましょう」
「お前はなんということを!」
 あんまりと言えばあんまりな物言いに、ルイーゼもソフィアも平等に愛しているのメーベルト伯は声を荒らげるが、彼女ももう限界だったのだ。

「あなたは娘が可愛くないのですか?! あんな卑しい血を引く小娘のために、わたくしの高貴な娘が! なんたること!」

 メーベルト伯夫人はもう、完全に拒絶していた。
 あの小娘も小僧も排除したかったのだ。高貴なる己の血を引く娘のために。
 メーベルト伯はそんな夫人を説得することはできない。
 ルイーゼを救うのに、それ以上の妙案など浮かばなかったのだから。

 シュティーフェル伯とメーベルト伯は、先日のソフィアの立ち居振る舞いに、彼女は貴族社会で表立って過ごすのは無理だろうと結論づけていた。
 だから、ルイーゼを正妻に、ソフィアを愛人にと話は進められそうだったのだ。


 メーベルト伯夫人をどうにか説得できれば、という前提ではあったのだが。




 ◇◆◇ ◇◆◇


 その日、ルイーゼは朝から体調が安定していた。良好とさえ言えた。
 ソフィアが、メーベルト伯が何のために別邸へ向かったのかを、知っていたからだ。
 ルイーゼが別邸へ移されてから、メーベルト伯も毎日見舞いに訪れていたのだ。に忙しい夫人の分も。夫人は別邸へエルウィンが通っていることを知っていた。彼に対して、申し訳ない気持ちが全くないと言えば嘘になる。
 けれど、夫人は生粋の貴族でしかなかったのだ。


「お前の新しい婚約について、話が進んでいる」
「はあっ?!」
 無駄に体力が戻ってきたルイーゼは、全力で否を返そうとしたが、そこまで体力は戻ってなかったらしく、膝から崩れ落ちた。
 そんな娘を心配し、メーベルト伯が駆け寄る。

「お母様ですね、そんな話を進めているのは!」
 ルイーゼは体力はなくとも、己の意志を貫く気力を失ってはいなかった。

 彼女の予想は当たっていた。
 先陣を切って話を進めているのはメーベルト伯夫人だ。相手は夫人の母方の親戚である、隣国・公爵家の次男坊――表向きは。その実、彼は王と公爵夫人との間に出来た不義の証しだ。
 継承権の関係で、自国内では良い縁談を見つけることができずにいた彼に、メーベルト伯夫人が目を付けた。
 隣国の醜聞など、情報過多とはいえないこの国ではマイナス要因にはならない。
 しかも隣国の王族とコネクションができるのであれば、それに超したことはないと、メーベルト伯夫人は考えたのだ。

 というようなことを、メーベルト伯はルイーゼに告げた。

「近いうちに、顔合わせのために相手が来ることになっている。お前も心を決めておけ」
 そうメーベルト伯は締めくくったが、「はい分かりました」と納得できるほど、ルイーゼは物わかりのいい娘ではないし、そう演じる気もない。
 ルイーゼが大人しく言うことを聞くとは、メーベルト伯も考えていない。
 だから、ルイーゼから了承の返事を聞く前に、別邸を後にしたのだ。

 二階の窓から、本邸へ戻る父親を見下ろしながら、ルイーゼは決意を固める。

 ――他国の王族とか出てきたら、手遅れになってしまう。こうなったら、駆け落ちするしかないわ! 

 固くそう決意したルイーゼだったが、帰宅したメーベルト伯の様子を見て、夫人はそのことに勘付いた。それはある意味、母としての勘ともいえる。

 そのため、エルウィンが帰宅した後、今後の身の振り方を言って聞かせようと、夫人はルイーゼの下を訪れた。
 彼女の中で、それは既に決定事項だった。ルイーゼが反発することは分かりきっていたが、それが娘のためになると、彼女は彼女なりに最善の方法を選んだのだ。
 ルイーゼが望み幸せになれるのであればと、最善ではないけれどエルウィンとの婚約も認めた。けれど、今回の番い騒動で全ては水泡に帰した。

「お断りします! 今更どこの誰とも分からない人と婚姻を結ぶくらいなら、修道院に行ったほうがマシよ!」
「お前は貴族に生まれた娘としての……」
 声を荒らげるルイーゼに対し、夫人はあくまで冷静に言葉を返そうと努める。
「私がどこかの貴族と結婚したからといって、領民に寄与されるものなんか何一つないでしょう! そういう台詞は、返せるものを提示できるようになってから言うものです!」
「なんてこと――!」

 かっとなった夫人が、ルイーゼの頬を打つ。

「図星だから叩くのでしょう? お母様の思い通りにならないから。しんに領民のことを思うのなら、いかんともしがたい貧富の差を少しは埋めてはいかがです? する気がないなら、貴族階級にしがみつく道具にしたいだけだと言い切られた方がだわ!」

 ルイーゼも夫人も、お互い一歩も譲らないまま話は平行線で終わる結果となった。

 夫人は本邸へ戻る直前、ジェヒューの嫁にルイーゼを部屋から出さないようにと、強く言って聞かせる始末だ。別邸を実質仕切っているのは長男ジェヒューの嫁であり、彼女はメーベルト伯夫人の忠実な下僕だった。



しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

処理中です...