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15. 《アデル視点》 『君が欲しい。でも、君の心はもう、誰のものにもならないと知っている』
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──王都・氷月公邸。
千年以上の血統を誇る魔導一族、その嫡男に生まれた僕の世界は、
常に“完璧”を求められるものだった。
礼儀作法。
魔導の構築。
政治の読み。
家系の維持。
それらを5歳にして完璧にこなしてきた僕は、
誰からも“美しい氷”と呼ばれていた。
心を乱すこともなく、感情を動かすこともない。
──それが、「君」と出会うまでは。
◇
はじめてその映像を見たときのことは、今でも忘れられない。
王都魔法通信網で流れた「ルカ様、園デビューの日」
幼児たちが整列するなか、ただひとり、異様にちいさな存在。
透き通った声。
まっすぐすぎる瞳。
なにも知らないようで、すべてを見透かすような、ふしぎな笑み。
(……この子を、見ていたい)
そう思った。
ただ、それだけ。
でも、それが──
“僕の心を、永久凍土から溶かした”瞬間だった。
◇
王都の魔法局に“教育支援”として申し出た。
身分を隠して園に赴任するため、身分証と推薦状はすべて自前で用意した。
(僕の想いが、誰にも知られないように)
彼の前では、ただの「アデルくん」でいたい。
氷の貴公子ではなく──
ただ、彼のそばにいられる“園児のひとり”として。
◇
そして、今日。
園の門をくぐった瞬間、僕の視界に飛び込んできた。
まるで人形のような、愛らしさ。
けれど、心はとても強い。
彼──ルカが、ミミルをぎゅっと抱きながらこちらに気づく。
「……こんにちは?」
──ああ、この声だ。
画面越しよりもずっと、やわらかくて、優しくて。
「アデルって言います。これから、よろしくね」
ほんとうは、もっと近くに行きたい。
触れてみたい。抱きしめてしまいたい。
でも、僕の恋は、静かでなければいけない。
この想いは、彼を縛るものではなく、そっと咲く花でなければ。
だから。
(誰よりも冷静に、誰よりも長く──見つめていたい)
彼の言葉。仕草。笑い声。
そのすべてを、魔導日記に刻みつけていく。
恋の記録として──いや、もはやこれは、ひとつの宗教に近い。
◇
今夜。
園の屋根裏から星を眺めながら、僕はそっと言葉を魔導に記した。
『君が笑うたび、僕の心が音を立てて崩れていく。
けれど、それがとても、心地いい』
そして、心のなかで誓った。
(誰のものにもなれないなら──せめて、君の光を守る“影”でいさせて)
──僕の愛は、決して声高には叫ばない。
でも誰よりも深く、誰よりも長く、君を想っている。
◇
翌朝。
アデルは静かに教室の席に座り、ルカの隣を譲らなかった。
その冷たい視線の奥に、誰も知らない“熱”を秘めながら。
──新たな“第4の刺客”、本格始動。
千年以上の血統を誇る魔導一族、その嫡男に生まれた僕の世界は、
常に“完璧”を求められるものだった。
礼儀作法。
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政治の読み。
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それらを5歳にして完璧にこなしてきた僕は、
誰からも“美しい氷”と呼ばれていた。
心を乱すこともなく、感情を動かすこともない。
──それが、「君」と出会うまでは。
◇
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ただ、それだけ。
でも、それが──
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◇
王都の魔法局に“教育支援”として申し出た。
身分を隠して園に赴任するため、身分証と推薦状はすべて自前で用意した。
(僕の想いが、誰にも知られないように)
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氷の貴公子ではなく──
ただ、彼のそばにいられる“園児のひとり”として。
◇
そして、今日。
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けれど、心はとても強い。
彼──ルカが、ミミルをぎゅっと抱きながらこちらに気づく。
「……こんにちは?」
──ああ、この声だ。
画面越しよりもずっと、やわらかくて、優しくて。
「アデルって言います。これから、よろしくね」
ほんとうは、もっと近くに行きたい。
触れてみたい。抱きしめてしまいたい。
でも、僕の恋は、静かでなければいけない。
この想いは、彼を縛るものではなく、そっと咲く花でなければ。
だから。
(誰よりも冷静に、誰よりも長く──見つめていたい)
彼の言葉。仕草。笑い声。
そのすべてを、魔導日記に刻みつけていく。
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◇
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『君が笑うたび、僕の心が音を立てて崩れていく。
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そして、心のなかで誓った。
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でも誰よりも深く、誰よりも長く、君を想っている。
◇
翌朝。
アデルは静かに教室の席に座り、ルカの隣を譲らなかった。
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──新たな“第4の刺客”、本格始動。
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