この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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95. 「水脈に眠る祈り」

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「……ここ、なの?」

ルカの靴が、しっとりとした苔むす岩に触れた。

そこは、村のはずれにある“枯れ谷”と呼ばれていた場所だった。
かつては清水が湧いていたという伝承だけが残る、今はもうただの乾いた土地。
けれど、ルカの胸の奥に“何か”がざわめいていた。

「ミミル、ちょっとだけ待っててね」

ぬいぐるみをそっと岩に座らせると、ルカは小さな手を地面へと伸ばした。

ごつごつした土。
でもその奥に、確かに“脈打つもの”を感じる。

──カサ……カサ……

突如、風が舞った。

だれもいないはずの谷間に、音もなく現れたのは、水の精霊たちだった。
澄んだ青白い光。少女のような姿をした精霊たちが、ルカを囲むように漂う。

『……ルカ。』

その声は、頭ではなく、心に直接届いた。

『どうしてここがわかったの?』

「……なんとなく、呼ばれた気がしたの。枯れた場所って、苦しいでしょ? ボク、放っておけないの」

その言葉に、精霊たちの輪がふわりと震えた。
そして次の瞬間、谷の中心が青く光りはじめる。

ルカが手を重ねた場所から、細い水脈が“ぴたり”と目を覚ましたのだ。

ピチュ……ピチュ……

それは最初、小鳥のさえずりのように静かだった。
けれど徐々に、その音は湧き水となり、地中を走り、小さな泉へと変わっていった。

水面に映ったルカの顔は、穏やかで、神聖で、どこか寂しげでもあった。

「生きてるって、すごいね」

ルカはそう言って、泉にそっと手を入れる。
冷たくて、あたたかい水。

──それは、この世界がまだ諦めていない証だった。

***

「……信じられん」

谷に集まった村の大人たちは、声を失っていた。

あれだけ調査しても水が見つからなかった枯れ谷に、突如として水が湧いたのだ。

それだけではない。ルカが立っていた地面から、**“黄金色の草”**が生えていた。

それは、古代文書に記されていた伝説の薬草《ミュリエ草》。
心を落ち着け、病を癒し、土地を浄化する聖なる植物。

「こ、これは神託……神託に違いない……!」

「神子様が……水を呼んだ……!」

どよめきのなかで、ただひとり、ルカは笑っていた。

「……呼んだんじゃないよ。気づいてあげただけ。ボクが何かすごいことしたんじゃなくて、ここが元から“生きてた”んだもん」

その言葉に、誰もが胸を突かれた。

子どもらしい無垢な声なのに、なぜだろう。
そこに、赦しと祈りと、未来が詰まっているように思えた。

***

夜。

その日から“枯れ谷”は“神子の泉”と呼ばれるようになった。

ルカのそばでは、ミミルが静かに座っていた。
精霊たちの姿はもう見えない。

けれど、窓を開ければ――
風の中に、どこか水の匂いが混じっている。

ルカはそっと目を閉じて、祈った。

「……いつか、この世界全部に、水と笑顔が届きますように」

──その祈りは、誰にも聞こえなくても。
でも、ちゃんと“届いている”。

小さな神子の、その手のひらから。
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