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大学生 編
ウサギ獣人はお人好しが多い
しおりを挟む数日後。
自分の取っている授業が早く終わったので、久しぶりに大学の図書館に行く事にした。
この図書館は、手当たり次第に本を集めたとしか思えない蔵書の種類で、オレが本屋で買えなかったマンガやアニメーションを描く時に重宝するような、資料集が一部ある。
将来は、普通にサラリーマンをすると思うのだが、アニメーションやマンガが好きなのは変わらないと思う。
今の時代、ネットで自分の作品を発表して、そこから書籍化、なんてルートも存在するし、勉強していて損はないだろう。
まだ午前中だから、部長も狼谷も、他の先輩たちもいないだろうから、暇つぶしにもちょうどいい。……部屋に帰ってもやる事もないし。
と、いうわけで、割と広い構内の、さらに端に立っている図書館が入っている建物に入る。
中は、普通の市営の図書館のようだ。
さすがに午前中から利用する人の姿は少なく、オレは目星を付けていた棚に向かった。
……と、ふと、誰かのうめき声が聞こえた。
オレは、ウサギだから他のひとより耳が良い。
苦しそうなうめき声。
図書館に他に人はいない。
司書さんも、事務所に引っ込んでしまっている。
一瞬迷ったが、オレしかいないなら、仕方ない。何かあれば、司書さんを呼べば良い。
そう、決意して、うめき声の方に近づく。
さすがに、獣耳を出した方が聞きやすいので長耳を出して、音を探る。
すると、すぐにどの方向かわかった。
ここからすごく近い。多分トイレの方だ。
一旦本棚から離れ、トイレがある廊下に出る。
なるべく足音を立てながら歩く。いつもは癖で消してしまうので、怪しまれないようにだ。
……あれ? この音。
ふと、知ってる音だと思ったと気づいた次の瞬間、思った通りのひとがいた。
「部長っ」
トイレの前の椅子で、苦しそうに蹲っているチェック柄シャツのひとが居た。
間違いない、この構内であんなチェック柄のシャツを着ていても体形の綺麗さがわかるのは、有馬部長しかいない。
オレの声掛けに気づいたその人が、蹲っている姿勢から少しだけ顔を上げた。サラサラの短い黒髪が、顔にかかる。
苦しそうな体勢だと思っていたが、顔面蒼白だった。
眼鏡がずれても気にしていない。伊達だから別に気にならないんだろう。
「部長、またお腹痛いんですか」
慌てて駆け寄ると、部長は冷や汗をかきながらもオレの姿を認めて、小さく頷いた。
「う、宇佐木氏」
「はい、そうですよ。ちょっと、お腹の音聞きますね。……部長、薬は飲みました? どれの?」
蹲っている部長の前に膝をつき、獣耳を部長のお腹の辺りに近づける。
オレは、本当に耳が良い。
どの臓器で異音がしているのかわかるぐらいには。
もちろん、臓器の場所や名称がわからないと仕方ないのだが、オレは解剖学の本もアニメーションに必要だって見たから、一通り学んでいた。
もちろん、素人だから理解できているとは言えないのだが、おおまかなあたりはつける事ができる、と思う。
「い、胃の方……」
「あ~、違いますね、これ、たぶん便秘の方ですよ」
「……おはず、かしい」
音が鳴っているのは上半身というより、下半身側だった。
獣耳を引っ込めて、部長を見る。
冷や汗をかきながらも、やや恥ずかしそうに眉を寄せている。うん、イケメン。
「はい、部長。下剤、これでしょ」
「なにも、かも、申し訳、ない……」
部長がいつも腰に下げているウエストポーチを勝手に開け、用途が書かれている小さな袋をいくつか取り出し、そのうちの一つ、便秘用とかかれた袋から小さな薬を取り出し、渡した。
部長は上半身をやや起こし、オレから薬を受け取り、横に置いてあったペットボトルから水を飲んだ。
胃の薬なら、下剤と飲んでも大丈夫と判断したのだろう。
よろよろと立ち上がり、部長は顔面蒼白のまますぐ目の前のトイレに入っていった。
オレは、少し離れた椅子に座り、スマホを取り出した。
今週のアニメと、来季のアニメを調べていると、ガチャリとトイレの扉が開いた。
げっそりしてはいるが、先ほどよりは顔色の良い部長が、出てきた。
「……宇佐木くん、本当に、君には申し訳ない」
あのオタク風の喋り方をしないという事は、本当に心にきているのだろう。
オレは、苦笑しながら椅子から立ち上がった。
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