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大学生 編
後悔
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「宇佐木氏!」
思ったより近くで声がして、ビクッと振り向いてしまった。
「あ……」
「大丈夫でござるか、宇佐木氏」
有馬部長だった。
すごく心配そうに、オレを見ている。オレ、そんなにひどい顔してるのかな。
と、ふと、ある事に気づいた。
有馬部長から、アルファの匂いが、しない。発情期になったら、嫌でもアルファの匂いに反応してしまうはずなのに。
サーっと顔からさらに血の気が引くのがわかった。
「宇佐木氏……宇佐木くん? もしかして、何かあった? 狼谷くんと」
優しく聞いてくる部長に、今まで我慢してた涙が、流れて落ちた。優しくされると、どうしていいのかわからない。
とりあえず、ベンチに座らされられる。涙腺が壊れて戻らない。
「……ある程度、想像はつくけど。宇佐木くん、私のフェロモンわからないよね?」
コクリと頷く。
部長が、はぁー、と長い溜息を吐いた。
「今から、狼谷を連れ戻して、正座させて、謝罪させる事もできるけど、どうする?」
声が凄く真剣なので、部長が怒っている事がわかる。多分、オレの為に。
だけど、それには明確に首を横に振った。
「お、オレが、悪い、から……」
「宇佐木くんが悪いわけないだろ! 不可抗力なんだからっ。それに……私だったら、同じ草食だから、こんな荒っぽいやり方、しなくてよかったのに」
珍しく声を荒げる有馬部長。そして、力なく項垂れた。
良い人だな。オレの為にこんなに怒ったり、心配してくれたりして。
強引に涙をぬぐって、部長を見上げる。
「あ、あいつは、ウサギ嫌いなのに、助けて、くれようとしたんです、たぶん」
そう。
助けてくれたのだ。
なのに、こんなにも胸が苦しくて、こんなにも、辛いのは。
たぶん。
「……宇佐木くんが、私を選んでくれたらって、ずっと思ってた。だけど、こんな酷い事されても、狼谷が、良いんだね」
涙があふれて、言葉にならなかった。
部長は、優しくオレの背中をなでてくれた。
帰り道の事は、あまり覚えていない。
多分、有馬部長が家までついて来てくれたんだと思う。お礼を言えたかどうかすら、覚えていない。
部屋に入り、鍵を閉め、めげる自我に活をいれ、念のため抑制剤を飲み、シャワーを浴びた。
噛まれたうなじを念入りに洗う。
だけど、デコボコした痕に、どうしても意識がいく。
苦しい。
これは、発情期の苦しさじゃない。
あいつを傷つけてしまった、のに、どこかで喜んでいる自分がいる、罪悪感だ。
あいつに、嫌われてしまったであろう、胸の痛みのせいだ。
泣く資格なんてないのに、勝手に涙が出てきて、止まらなかった。
布団にくるまったが、眠れる気はしなかった。
発情期は強制的に終わったが、身体はだる重く、あいつの顔を見る勇気はでなかった。
オレがウサギじゃなくて、オメガでもなかったら、あのまま、仲の良い先輩後輩でいられたのに。
おれが、ウサギだったばかりに。
オレが、オメガの発情期をちゃんと管理できなかったばかりに。
あいつに、嫌な思いをさせてしまった。不本意な行為を強いてしまった。
だけど、助けてくれた。
オレに懐いてくれた狼谷を、オレも後輩として可愛がっていたつもりだった。
だけど、それ以上を、あの場では望んでしまっていた。
……いまも、たぶん。
嚙まれるなら、狼谷が良いと、思ってしまっている自分を、自覚せざるを得なくなっていた。
いくら違うと、あの発情に流されて、あの場にいたアルファが狼谷しかいなかったから、好意を抱いたと勘違いしているんだ、と言い聞かせても。
それを否定する心が、止められない。
他のアルファでは、ダメだと。
有馬部長の言葉がよみがえる。
たぶん、有馬部長じゃ、ダメなんだ。
胸の奥が痛くて、たまらない。
その痛みこそが、自分の正解だといわんばかりに。
叶う事がない、その痛みに、オレは、耐えられそうになかった。
有馬部長にだけ、しばらく来れない旨をメールで連絡した。告白を断ったような形になってしまったが、頼れるのは、部長だけだった。
部長は、何も言わず、オレを労わるメールをくれた。
こんなに優しくて良い人を、好きになれたらよかったのに。
そして、部長は狼谷の様子がおかしい、という事も教えてくれた。
……狼谷に、どういう顔をして会えば良いのかわからない。
オレは、大学を休む事にした。
ーーーーー
この後、狼谷は有馬にグーで一発殴られました。
思ったより近くで声がして、ビクッと振り向いてしまった。
「あ……」
「大丈夫でござるか、宇佐木氏」
有馬部長だった。
すごく心配そうに、オレを見ている。オレ、そんなにひどい顔してるのかな。
と、ふと、ある事に気づいた。
有馬部長から、アルファの匂いが、しない。発情期になったら、嫌でもアルファの匂いに反応してしまうはずなのに。
サーっと顔からさらに血の気が引くのがわかった。
「宇佐木氏……宇佐木くん? もしかして、何かあった? 狼谷くんと」
優しく聞いてくる部長に、今まで我慢してた涙が、流れて落ちた。優しくされると、どうしていいのかわからない。
とりあえず、ベンチに座らされられる。涙腺が壊れて戻らない。
「……ある程度、想像はつくけど。宇佐木くん、私のフェロモンわからないよね?」
コクリと頷く。
部長が、はぁー、と長い溜息を吐いた。
「今から、狼谷を連れ戻して、正座させて、謝罪させる事もできるけど、どうする?」
声が凄く真剣なので、部長が怒っている事がわかる。多分、オレの為に。
だけど、それには明確に首を横に振った。
「お、オレが、悪い、から……」
「宇佐木くんが悪いわけないだろ! 不可抗力なんだからっ。それに……私だったら、同じ草食だから、こんな荒っぽいやり方、しなくてよかったのに」
珍しく声を荒げる有馬部長。そして、力なく項垂れた。
良い人だな。オレの為にこんなに怒ったり、心配してくれたりして。
強引に涙をぬぐって、部長を見上げる。
「あ、あいつは、ウサギ嫌いなのに、助けて、くれようとしたんです、たぶん」
そう。
助けてくれたのだ。
なのに、こんなにも胸が苦しくて、こんなにも、辛いのは。
たぶん。
「……宇佐木くんが、私を選んでくれたらって、ずっと思ってた。だけど、こんな酷い事されても、狼谷が、良いんだね」
涙があふれて、言葉にならなかった。
部長は、優しくオレの背中をなでてくれた。
帰り道の事は、あまり覚えていない。
多分、有馬部長が家までついて来てくれたんだと思う。お礼を言えたかどうかすら、覚えていない。
部屋に入り、鍵を閉め、めげる自我に活をいれ、念のため抑制剤を飲み、シャワーを浴びた。
噛まれたうなじを念入りに洗う。
だけど、デコボコした痕に、どうしても意識がいく。
苦しい。
これは、発情期の苦しさじゃない。
あいつを傷つけてしまった、のに、どこかで喜んでいる自分がいる、罪悪感だ。
あいつに、嫌われてしまったであろう、胸の痛みのせいだ。
泣く資格なんてないのに、勝手に涙が出てきて、止まらなかった。
布団にくるまったが、眠れる気はしなかった。
発情期は強制的に終わったが、身体はだる重く、あいつの顔を見る勇気はでなかった。
オレがウサギじゃなくて、オメガでもなかったら、あのまま、仲の良い先輩後輩でいられたのに。
おれが、ウサギだったばかりに。
オレが、オメガの発情期をちゃんと管理できなかったばかりに。
あいつに、嫌な思いをさせてしまった。不本意な行為を強いてしまった。
だけど、助けてくれた。
オレに懐いてくれた狼谷を、オレも後輩として可愛がっていたつもりだった。
だけど、それ以上を、あの場では望んでしまっていた。
……いまも、たぶん。
嚙まれるなら、狼谷が良いと、思ってしまっている自分を、自覚せざるを得なくなっていた。
いくら違うと、あの発情に流されて、あの場にいたアルファが狼谷しかいなかったから、好意を抱いたと勘違いしているんだ、と言い聞かせても。
それを否定する心が、止められない。
他のアルファでは、ダメだと。
有馬部長の言葉がよみがえる。
たぶん、有馬部長じゃ、ダメなんだ。
胸の奥が痛くて、たまらない。
その痛みこそが、自分の正解だといわんばかりに。
叶う事がない、その痛みに、オレは、耐えられそうになかった。
有馬部長にだけ、しばらく来れない旨をメールで連絡した。告白を断ったような形になってしまったが、頼れるのは、部長だけだった。
部長は、何も言わず、オレを労わるメールをくれた。
こんなに優しくて良い人を、好きになれたらよかったのに。
そして、部長は狼谷の様子がおかしい、という事も教えてくれた。
……狼谷に、どういう顔をして会えば良いのかわからない。
オレは、大学を休む事にした。
ーーーーー
この後、狼谷は有馬にグーで一発殴られました。
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