テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ

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第25話 静かなる滝、その奥に

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 それは、前日のことだった。


 霧の中を歩いていたリィナが、無邪気に言った。


「ねぇ、“スースー”が“ピタッ”って止まりそう!」


 ふわっとしたその言葉に、ジークは苦笑したが、ルークは違った。

 それは、確かな“予感”だと――信じていた。





 そして翌朝。

 霧が少し晴れ、風の匂いにかすかに水気が混じったころ、一行の前に現れたのは――


 轟音とともにそびえる、巨大な滝だった。


 まるで空から降ってきた川そのもののように、水が断崖を流れ落ちていた。


「……でっけぇな……」

 ジークが思わず呟いた声に、誰も反応しない。


 誰もが息を呑み、ただその光景に圧倒されていた。


 水の壁。轟音。霧と泡が舞い、視界の先は白くかすんでいる。


「ここだよ」


 リィナが、滝を指差して言った。


「セフィナは……あの奥にいる。うん、絶対いるよ」


 ルークは静かに頷く。

 確かに、魔力の気配がこの先から微かに感じ取れる。


「魔法じゃなくて、空気そのものが揺れてる。……間違いない。あの中に“空間”がある」


「けどさ……入れるの? あれ」


 ジークの言葉に、一同は我に返る。


 滝の中へ――と、言うのは簡単だった。

 だが、目の前の水量は尋常ではない。無理に突っ込めば、水圧で押し潰されてしまう。


 「私たちは、魔力を失ってる。壁を割ったり、水を操ったり……そういうのはもう無理」

 ミレイアが静かに言う。


 クラリスも腕を組んで唸る。「火でも風でもない。今の私たちじゃ、ただの一般人よ」


「たぶん……こっそり入る道があるの。でも、それが分からない……」

 リィナが寂しそうにつぶやいた。


 一同は滝の前に立ち尽くした。


 風が吹いているのか、水しぶきなのか分からない冷たいものが、頬を打つ。


 滝の奥にいる。

 確かに“誰か”が、そこにいる。


 だが、その“誰か”へ、どうすれば辿り着けるのか――


 それだけが、まるで答えのない問いのように、一行の前に立ちはだかっていた。


「……くそ、どうすりゃいい……」

 ジークが悔しげに水の流れを睨む。


 「……リィナ、何か感じるか?」


 ルークが尋ねると、リィナは小さく首を振る。


「“いる”ってことしか……もう、それだけ」


 一行は、滝の前で、ただ静かに立ち尽くした。


 目の前には、崩れ落ちる水の壁。

 その奥に“何か”があることは確かだったが、入り口は見えない。魔法も使えない。力づくではどうにもならない。


 だがそのとき――


「……おかしい」


 ルークがふと、腰の聖剣アルシエルに手をかけた。


 剣が……震えている。


 淡く、かすかに、刃が青く光を帯びているように見えた。


 「ミレイアのときも、こんな感覚があった……」


 ――魔女の“魔核”に反応し、聖剣が共鳴する。


 今、この滝の向こうにいるのは、水の魔女セフィナ。

 ならば、彼女の魔核もまた、聖剣と繋がっているはず――。


 ルークは、静かに目を閉じ、剣に意識を込めた。


 「この刃よ……その先にいる者を、示してくれ」


 光がふっと強まり、まるで“何か”に導かれるように――


 ルークは、剣を滝に向かって投げ放った。


 「っ――!!」


 放たれた刃が、滝の中心に突き刺さると、轟音が一瞬で消えた。


 ……水が、止まった。


 いや、完全に止まったわけではない。

 ただ、滝の一部が裂けるように流れを失い、“入口”のようにぽっかりと空間が開かれたのだ。


「……道ができた……!」


 ミレイアが驚いた声を上げる。


 クラリスも「マジで……? あれ、魔法でもなく、物理でもなく……剣の“共鳴”で……」と目を見張る。


「いこ!」

 リィナが勢いよく飛び出そうとし、ジークが慌てて止めた。


 「待て待て! お前はまず深呼吸!」


 そんなやり取りを背に、ルークは滝の裂け目へと、ゆっくりと足を踏み出した。





 滝の奥――そこには、ひっそりとした湖と、岩に囲まれた静寂の空間が広がっていた。


 薄い水の膜が天井から滴り、青白い光が湖面に揺れる。


 その中心。


 岩の玉座のような場所に、一人の女性が静かに腰掛けていた。


 ミディアムの青髪。

 片方の目は前髪に隠れ、もう片方の眼差しは、深い湖の底のように冷たい。


 淡い水色の衣をまとい、姿勢は優雅で、声は鋭く――


「……私の魔核を壊したのは、お前か?」


 静かに、だが明確に、ルークを見据えて問う。


 その背後――奥の岩壁には、刺さった聖剣アルシエルが、青く脈打ちながら光を放っていた。


「……あぁ。結果的には……そうなる」


 ルークが剣から目を離さずに答える。


 セフィナは一度、ふぅと小さくため息を吐いた。


 「ならば、不本意だが……“結婚してやってもいい”。」


 その言葉に――


 後ろから駆けつけてきた仲間たちは、全員一斉に固まった。


 「……え?」

 「え?」

 「えーーーっ!?」


 セフィナは表情ひとつ変えないまま、静かに続けた。


 「魔女としての誇りは、すでに失った。だが、契約の文化は、残っている。

 強き者に屈し、身も心も預けること。それが、我らの掟。……私に従わせたのは、お前だ。ならば、“妻”として仕えるのが筋だ」


 あまりにも堂々とした“逆プロポーズ”に、ルークは返す言葉を失った。


 「……こうなると思ったわ」

 ミレイアが眉をひそめ、


 「清楚系クールビューティ、来ましたね……」

 クラリスが苦笑いする。


 「ルーク様……また、増えますね」

 フィオナが祈るように目を閉じた。


 そしてリィナは、ジークの袖を引きながら、


 「新しいお姉ちゃんだ~」


 ……静寂の水の魔女は、確かに“恋の戦場”へと足を踏み入れてしまったようだった。
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