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第29話 揺らぐ信念、光の下の真実
しおりを挟む「……一旦、引こう」
ルークのその一言で、玉座の間を出た一行は、王宮から城下町へと足を運んでいた。
◆
城壁の内側に広がる神聖国家《ルミナシア王都・セレスティア》――
そこは、魔女が君臨する国家とは思えないほどに、平和で、整った街だった。
石畳の広場では子どもたちが楽しそうに遊び、大道芸人に拍手が飛び交い、
商人の屋台からは焼き菓子の香ばしい匂いが流れてくる。
「……なんか、普通に豊かよね」
クラリスがパンをかじりながらぽつりと漏らす。
「人々の顔が、穏やかです」
フィオナも小さく頷く。
ミレイアは、道を行く巡礼者たちの姿をじっと見つめながら、
「信仰……というより、“信頼”に近いわね、あれは」
と、真面目な口調で言った。
セフィナは表情を変えず歩いていたが、その観察眼はどこか冷静に、正確に街を把握していた。
◆
一行はやがて、城下の裏通りへと足を踏み入れた。
路地裏。建物の隙間。物流の影となる区域――
だが、そこにも“貧しさ”の影はなかった。
痩せた子どもも、腐った果物も、物乞いもいない。
「まさか……裏道まで整備されてるなんて……」
ジークが目を丸くする。
ルークは、道の脇に咲いた小さな花を見つけて、足を止めた。
(……俺は、何を“倒そう”としていたんだ?)
思えば、これまで出会ってきた魔女たち――
ミレイアも、クラリスも、グレイアも、リィナも、セフィナも。
誰一人として、人間を無差別に殺したり、蹂躙したりしてはいなかった。
(たしかに、彼女たちは“力”を持っていた。
だが、それは暴虐ではなく……大陸の“均衡”そのものだったのかもしれない)
「……魔女は“悪”だと……思い込んでいたのは、俺のほうだった……」
◆
その夜。
一行は城下の宿を借りて、一部屋を囲んで夕食をとっていた。
焚き火のような静かな明かり。落ち着いた調度品。外は静かに夜風が吹いている。
「ねぇ、ルーク。なんか、難しい顔してる」
リィナがぽすっと彼の膝に頭を乗せてきた。
ルークは彼女の頭をそっと押し返しながら、顔を上げた。
「……みんなに、改めて聞きたい」
五人の魔女――ミレイア、クラリス、グレイア、リィナ、セフィナが、次々に顔を上げる。
「俺は、ずっと“魔女=悪”だと思ってた。……でも、違った。
お前たちは、別に人間を滅ぼそうとしてたわけじゃない。
ただ、その大陸の“役目”を担って生きてきた……それだけなんじゃないかって」
ミレイアが、静かに目を伏せる。
「私たちの存在は、“災い”として語られてきた。
けれど、少なくとも私は“治める”ために力を使っていたつもりよ」
クラリスが軽く肩をすくめる。「人間ってすぐ決めつけるからね。火が熱いからって、全部悪者呼ばわりされても困るわ」
グレイアは母のような優しさで言う。「私は、ただ“この地の子”を守りたかっただけ。
その結果が“魔女”と呼ばれても、それは……私にとって誇りだったわ」
リィナは少し考えてから、小さく呟いた。
「うーん……あたし、風で遊んでただけなんだけど……でも、怖がられてたのかなぁ……?」
セフィナはほんの少しだけ、口元をゆるめて言った。
「あなたがそれに“気づけた”のなら、ここにいる価値はある。
そしてその“気づき”こそが、勇者の第一歩よ」
ルークは、改めて深く頷いた。
「ありがとう。俺は……もう一度、自分の“正義”を見つめ直してみる」
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