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第4部 グランダ魔道学院対抗戦
第78話 お見舞いと第二回戦への仕込み
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わたし、異世界からの勇者夏ノ目秋流が連れてこられたのは、試合会場となったスタジアムから歩いて10分ほどの「病院」だった。
病院は中庭を囲むように建てられた5階建ての建物だった。
余分な装飾などはなくって、わたしの認識の中での「ビル」みたいな四角い建物。窓にはちゃんとガラスがはまっている。
中は、ひんやりと寒く、かすかに薬品の匂いがした。
廊下には、点々と明かりが灯っている。
熱を感じない白い明かりだ。
ルトの話では、まだこの街に電気による灯りは普及していないそうだから、たぶん魔法によるものなんだろう。
異世界でも「病院」は「病院」なのだな。
ちょっと安心した。
何やら、奇怪な魔法陣に、患者を閉じ込めて、周りを半裸の男女が呪文を唱えながらぐるぐる回っていたらどうしようと思ったのだ。
さすがにエレベーターはなかった。
三階まで階段であがると、ネイア先生と看護師さんが出迎えてくれた。
「とりあえずの処置は終わってます。」
ネイア先生は、ロウさまには必ず敬語で話す。ロウさまは自分で「真祖」という特別な吸血鬼なのだそうだ。
傍らの看護師さんは、頷いて、笑顔を見せた。
ちょっと仇っぽい感じの美人さんだ。背はネイア先生より少し低いけど、おっぱいの盛り上がりは負けてない。
ネイア先生もけっこう、おっきいので、つまりは巨・・・さんだ。
「少しならしゃべれます。お見舞いしていきます?」
わたしたちは、病室にはいった。
ここも、わたしの認識にある「病室」とは大差ない。
一人部屋らしく、中に間仕切りはない。
ベッドの上のドロシーさんは、動けないまでもちゃんと意識があって、わたしたちに気がついて、微笑んだ。
さすがに顔色はよくない。
「強くなったね、ドロシー。」
エミリアが言った。
「ははは・・・褒められちゃった。」
力なくドロシーは笑った。
「わたしから見ても、あれは化け物だった。よく食い下がったよ。冒険者学校に入学するまでは、戦ったこともなかった女の子が。」
ロウさまが妙な顔をしてるのを見て、エミリアが「なに?」と言った。
「エ・・・エミリアが・・・しゃべった。」
影が薄くて悪かったねっ!と、美少女は唇を尖らせた。
「だいたい、上古の昔から延々と続く盗賊団の副頭目で、可憐な美少女で、しかも棒術の達人のわたしがこんなにまで活躍できないなんて、どうなってるのよ!」
「え? エミリアが副頭目だったの?」
「なんで首領の『紅玉の瞳』であるあんたが知らないのよっ!」
なんかいいなあ。
わたしは、異世界人でしかも「異能者」だし、ロウさんとネイア先生は吸血鬼。エミリアさんは現役の盗賊団で、ドロシーさんは無自覚浮気女だけど、いいわ。こういう空気。
「第二試合は、明後日だそうですね。」
看護師さんは、ドロシーさんの傍らに置かれた光る球をチェックしながら、愛想よく言った。
「え? そうなの?」
エミリアの返答に、看護師さんはタイミングよくこけた。
なんだか、ドロシーさんにつながった管をブチッと引きちぎってる。
「あ、大丈夫です。これもうとってもいいやつなので・・・」
そこまで渾身の演技はいらない。
「出場するのはエミリアさん、あなたですよ。」
「え?わたし・・・のこと、知ってる?」
「わたし王立学院の学生で、魔道院に治癒魔法の研修にきてます。
いろいろと情報はいってくるんです。」
看護師さんは、胸をそびやかすようにして、笑った。
うむむ。女性同士でそこを自慢してくるか?
「出場者より、くわしいって・・・」
ロウさまがちょっと悔しそうに言った。
「そんなことはないです。」
看護師さんは、もう一度、球の明滅を確認して、よしっと、言った。一応、ちゃんと仕事はしているようだ。
痛みはありますか?
痛みを和らげる術式は、使えます。
あとは時間の経過でよくなりますからね。明日は、身体を起こしてみましょう。
「ほかに情報があったら、教えてよ、看護師さん。」
エミリアはそう尋ねたが、看護師は無視した。
「・・・・美人の看護師さん・・」
「はい!」
つま先でくるっと回って、看護師はエミリアに顔を近づけた。
「ほかの情報ですか?
例えば、リヨンがまたワガママを言い出して、対抗戦にでないと言い出したこととか、ですかね?」
「リヨンって・・・出場予定の銀級冒険者でしょ。いろいろ悪い噂のある『燭乱天使』のメンバーよね。
でも戦いなら、あのチームでも五本の指にはいるはず。
で、かわりに誰がでるの?
それとも、わたしの不戦勝?」
「そんなことしたら、盛り上がらないって!」
看護師さんが袋から取り出したのは、『対決!魔道院VS冒険者学校』というタイトルの冊子。しかもタイトルの脇にVOL1、だと?
ぱらりとページを捲ると。
写真でこそないが、微細なフルカラーのイラストで、わたしの顔がのっている。
なんだか、ちょっと首をかしげて、片手をあごに、片手でこちらを指さして決めポーズ。
書かれた文字は、もちろんこの世界のものだが、ちゃんと読めた。
「異世界からの来訪者。アキル・ナツノメ。」
パラリ。とページが捲られる。
ショートの髪に、悪戯な笑みをうがべた少女のイラスト。上半身は裸で、胸を手で隠している。顔の半分が入れ墨のような模様で覆われているが、かわいらしい顔立ちの女の子だ。
「万能の戦闘者。カンバスのリヨン。」
そのページの端が少し切れている。
そこを看護師さんが、ペリリと剥がす。
リヨンのイラストの下から。
イラストに描かれた女は、不敵な笑みを浮かべていた。こちらも上半身は裸だった。腕組みをして、あごをひきこちらを睨みつけている。
まるで、冊子を開く看護師さんのような表情で。
「三丁目の悪夢。リア・クローディア。」
「どうも。」
看護師さんは婉然と笑った。
「ウィルニアとは縁があってね。断り切れなかったのさ。
わたしは、元勇者パーティ『愚者の盾』。リア・クローディア。三丁目がどうこうした二つ名はあまり気に入ってないのでね。
そう呼びいやつは、それなりの覚悟をしてもらうよ。」
病院は中庭を囲むように建てられた5階建ての建物だった。
余分な装飾などはなくって、わたしの認識の中での「ビル」みたいな四角い建物。窓にはちゃんとガラスがはまっている。
中は、ひんやりと寒く、かすかに薬品の匂いがした。
廊下には、点々と明かりが灯っている。
熱を感じない白い明かりだ。
ルトの話では、まだこの街に電気による灯りは普及していないそうだから、たぶん魔法によるものなんだろう。
異世界でも「病院」は「病院」なのだな。
ちょっと安心した。
何やら、奇怪な魔法陣に、患者を閉じ込めて、周りを半裸の男女が呪文を唱えながらぐるぐる回っていたらどうしようと思ったのだ。
さすがにエレベーターはなかった。
三階まで階段であがると、ネイア先生と看護師さんが出迎えてくれた。
「とりあえずの処置は終わってます。」
ネイア先生は、ロウさまには必ず敬語で話す。ロウさまは自分で「真祖」という特別な吸血鬼なのだそうだ。
傍らの看護師さんは、頷いて、笑顔を見せた。
ちょっと仇っぽい感じの美人さんだ。背はネイア先生より少し低いけど、おっぱいの盛り上がりは負けてない。
ネイア先生もけっこう、おっきいので、つまりは巨・・・さんだ。
「少しならしゃべれます。お見舞いしていきます?」
わたしたちは、病室にはいった。
ここも、わたしの認識にある「病室」とは大差ない。
一人部屋らしく、中に間仕切りはない。
ベッドの上のドロシーさんは、動けないまでもちゃんと意識があって、わたしたちに気がついて、微笑んだ。
さすがに顔色はよくない。
「強くなったね、ドロシー。」
エミリアが言った。
「ははは・・・褒められちゃった。」
力なくドロシーは笑った。
「わたしから見ても、あれは化け物だった。よく食い下がったよ。冒険者学校に入学するまでは、戦ったこともなかった女の子が。」
ロウさまが妙な顔をしてるのを見て、エミリアが「なに?」と言った。
「エ・・・エミリアが・・・しゃべった。」
影が薄くて悪かったねっ!と、美少女は唇を尖らせた。
「だいたい、上古の昔から延々と続く盗賊団の副頭目で、可憐な美少女で、しかも棒術の達人のわたしがこんなにまで活躍できないなんて、どうなってるのよ!」
「え? エミリアが副頭目だったの?」
「なんで首領の『紅玉の瞳』であるあんたが知らないのよっ!」
なんかいいなあ。
わたしは、異世界人でしかも「異能者」だし、ロウさんとネイア先生は吸血鬼。エミリアさんは現役の盗賊団で、ドロシーさんは無自覚浮気女だけど、いいわ。こういう空気。
「第二試合は、明後日だそうですね。」
看護師さんは、ドロシーさんの傍らに置かれた光る球をチェックしながら、愛想よく言った。
「え? そうなの?」
エミリアの返答に、看護師さんはタイミングよくこけた。
なんだか、ドロシーさんにつながった管をブチッと引きちぎってる。
「あ、大丈夫です。これもうとってもいいやつなので・・・」
そこまで渾身の演技はいらない。
「出場するのはエミリアさん、あなたですよ。」
「え?わたし・・・のこと、知ってる?」
「わたし王立学院の学生で、魔道院に治癒魔法の研修にきてます。
いろいろと情報はいってくるんです。」
看護師さんは、胸をそびやかすようにして、笑った。
うむむ。女性同士でそこを自慢してくるか?
「出場者より、くわしいって・・・」
ロウさまがちょっと悔しそうに言った。
「そんなことはないです。」
看護師さんは、もう一度、球の明滅を確認して、よしっと、言った。一応、ちゃんと仕事はしているようだ。
痛みはありますか?
痛みを和らげる術式は、使えます。
あとは時間の経過でよくなりますからね。明日は、身体を起こしてみましょう。
「ほかに情報があったら、教えてよ、看護師さん。」
エミリアはそう尋ねたが、看護師は無視した。
「・・・・美人の看護師さん・・」
「はい!」
つま先でくるっと回って、看護師はエミリアに顔を近づけた。
「ほかの情報ですか?
例えば、リヨンがまたワガママを言い出して、対抗戦にでないと言い出したこととか、ですかね?」
「リヨンって・・・出場予定の銀級冒険者でしょ。いろいろ悪い噂のある『燭乱天使』のメンバーよね。
でも戦いなら、あのチームでも五本の指にはいるはず。
で、かわりに誰がでるの?
それとも、わたしの不戦勝?」
「そんなことしたら、盛り上がらないって!」
看護師さんが袋から取り出したのは、『対決!魔道院VS冒険者学校』というタイトルの冊子。しかもタイトルの脇にVOL1、だと?
ぱらりとページを捲ると。
写真でこそないが、微細なフルカラーのイラストで、わたしの顔がのっている。
なんだか、ちょっと首をかしげて、片手をあごに、片手でこちらを指さして決めポーズ。
書かれた文字は、もちろんこの世界のものだが、ちゃんと読めた。
「異世界からの来訪者。アキル・ナツノメ。」
パラリ。とページが捲られる。
ショートの髪に、悪戯な笑みをうがべた少女のイラスト。上半身は裸で、胸を手で隠している。顔の半分が入れ墨のような模様で覆われているが、かわいらしい顔立ちの女の子だ。
「万能の戦闘者。カンバスのリヨン。」
そのページの端が少し切れている。
そこを看護師さんが、ペリリと剥がす。
リヨンのイラストの下から。
イラストに描かれた女は、不敵な笑みを浮かべていた。こちらも上半身は裸だった。腕組みをして、あごをひきこちらを睨みつけている。
まるで、冊子を開く看護師さんのような表情で。
「三丁目の悪夢。リア・クローディア。」
「どうも。」
看護師さんは婉然と笑った。
「ウィルニアとは縁があってね。断り切れなかったのさ。
わたしは、元勇者パーティ『愚者の盾』。リア・クローディア。三丁目がどうこうした二つ名はあまり気に入ってないのでね。
そう呼びいやつは、それなりの覚悟をしてもらうよ。」
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