93 / 574
第4部 グランダ魔道学院対抗戦
第79話 演出する者たち
しおりを挟む
治癒魔法については、ドロシーはあまり詳しくない。
それこそ、おとぎ話やさまざまな英雄譚の中では、戦いの最中に、死に瀕した(あるいは死んだ)主人公やその恋人、呪文や祈りで仲間が奇跡の回復を見せたりするシーンはお約束だったが、現実にはそれは起こらない。
というか、似たようなことはできる。
切れた腕を生やすことは出来ても、それが元通りに動くとは限らない。
死んだ人間が蘇ったら、それは本当に元のそいつなのか? 医学、神学、魔法学の出した答えはグレーである。
なので、人は出来るだけ、死なないように戦うし、腕は切断して一から作り直すのではなくて、治療して使えるようにすることを目指す。
エミリアたちが帰ってだいぶ時間がたった。
翌々日の試合相手の看護師に、看病してもらうのは、不安だったが仕方ない。
一応、仕事はちゃんとしてくれていた。手も足も動かない。と言うより、首から下の感覚がまるでないのだが、これは、わざとやっているそうだ。
動こうと思えば、苦痛になるだけだし、骨がズレれば回復は遅くなるから。
と、リアさんは言った。
少しだけ、話をした。
おもにドロシーが、自分の話しをしたのだ。
魔法を学んでいたが、主筋の子爵家のお家騒動に巻き込まれて、勘当されたバカ息子ともども冒険者学校に放り込まれたこと。
そこで、ルト、という少年と知り合っていろいろ面倒を見てもらってること。
(実はこのとき、ドロシーの命の危険はこの日MAXだったのだが、本人は当然知らない)
リアは、へえ、ルトが、ねえ。
とだけ呟いた。
リアが立ち去った後は一人にされた。
部屋の明かりは落とされて、傍の宝珠がゆっくりと点滅を続けるだけ。
眠るべき。なのだろうが、眠れなかった。
あのジウルという男のことが心から離れない。
あれは。
人間だ。ロウさまのように最初から人外のものではない。でもその力は、ロウさまをも凌駕していたようにドロシーには感じられた。
ジウルに、抱きしめられた、壊されたとき。
体が砕ける。今までの自分を形作ってづくいたものが、崩壊していく中で感じたもの。
ドロシーは、性的な意味での歓喜の絶頂をまだ知らない。
だが、ジウルとの行為に感じた苦痛の果てにあったものが、あるいは、それなのではないか。
何者も恐れぬ太い笑み。
「いい女じゃないか」
そう囁いてくれたその声。
思い出すだけで、身動きひとつできないドロシーの体の中で熱いものが蠢いていく。
それは、彼女が彼を女として受け入れる準備なのだろう。
ああ、口の中がカラカラだ。
誰かーーーー。
「よお。」
目の前にたった今、妄想に耽っていたその顔があった。
身に着けているのは、短いそでの白いシャツ。ボタンが無造作に外されていて、逞しい胸の筋肉と彼女を敗北に追いやった太い腕は半ば剥き出しになっている。
そのまま、点滅を続ける宝珠を見やって、ふむふむと頷いた。
「経過は悪くない、が。もっと鍛えねえとな。
この程度ですんだのは、あの銀のスーツのおかげだぜ。あれがなければ、人間の形を留めておけなかった。」
「負けた相手にずいぶんなこと言いますね。」
「へえ。いい顔で笑うじゃねえか。」
ジウルは、ドロシーの額を触り、頬を撫ぜ、そのまま掌は、触れるか触れないかの微妙な距離を保って、のどを、肩を、胸を、お腹を、腰回りを撫でていく。
触れた感触はなく。ただ手のひらの温かみだけが。ドロシーの肌に残った。
「順調、だな。
ベッドから起き上がれるまではざっと10日だ。対抗戦の間は、ここで我慢するんだな。
ハルト、いやルトのやつは、ウィルニアに殺到する苦情を裁いてる最中で動きがとれん。
なので、ちょいと俺がかわりに様子を見にきた、と言う訳だ。」
「お医者さまの心得もあるんですね。」
「よく見てやがるな。
まあ、俺のことはルトに聞いてくれ。話していいと思えば話すだろう。
なにかいるものはあるか?」
「そうですね。」
ドロシーは、舌で唇を舐めた。
「喉、が渇きました。」
「水は飲ませても大丈夫だ、用意する。」
ジウルのかざした手のひらに、水のボールが生まれた。
「少し冷たいな。体温くらいに温めるか。」
「そうではなくて。」
ドロシーは、口を開いた。舌を突き出すようにして。
「あなたから直接ください、ジウルさん。」
男と女の視線が絡み合った。
そして、互いが互いを欲していること。
それだけを確認した。
一瞬の沈黙の後、ジウルは、しかし、楽しそうに笑った。
「なるほど。
ルトが苦戦するわけだ。
ひとつ提案をくれてやる。
おまえ…
俺の弟子にならないか?」
それこそ、おとぎ話やさまざまな英雄譚の中では、戦いの最中に、死に瀕した(あるいは死んだ)主人公やその恋人、呪文や祈りで仲間が奇跡の回復を見せたりするシーンはお約束だったが、現実にはそれは起こらない。
というか、似たようなことはできる。
切れた腕を生やすことは出来ても、それが元通りに動くとは限らない。
死んだ人間が蘇ったら、それは本当に元のそいつなのか? 医学、神学、魔法学の出した答えはグレーである。
なので、人は出来るだけ、死なないように戦うし、腕は切断して一から作り直すのではなくて、治療して使えるようにすることを目指す。
エミリアたちが帰ってだいぶ時間がたった。
翌々日の試合相手の看護師に、看病してもらうのは、不安だったが仕方ない。
一応、仕事はちゃんとしてくれていた。手も足も動かない。と言うより、首から下の感覚がまるでないのだが、これは、わざとやっているそうだ。
動こうと思えば、苦痛になるだけだし、骨がズレれば回復は遅くなるから。
と、リアさんは言った。
少しだけ、話をした。
おもにドロシーが、自分の話しをしたのだ。
魔法を学んでいたが、主筋の子爵家のお家騒動に巻き込まれて、勘当されたバカ息子ともども冒険者学校に放り込まれたこと。
そこで、ルト、という少年と知り合っていろいろ面倒を見てもらってること。
(実はこのとき、ドロシーの命の危険はこの日MAXだったのだが、本人は当然知らない)
リアは、へえ、ルトが、ねえ。
とだけ呟いた。
リアが立ち去った後は一人にされた。
部屋の明かりは落とされて、傍の宝珠がゆっくりと点滅を続けるだけ。
眠るべき。なのだろうが、眠れなかった。
あのジウルという男のことが心から離れない。
あれは。
人間だ。ロウさまのように最初から人外のものではない。でもその力は、ロウさまをも凌駕していたようにドロシーには感じられた。
ジウルに、抱きしめられた、壊されたとき。
体が砕ける。今までの自分を形作ってづくいたものが、崩壊していく中で感じたもの。
ドロシーは、性的な意味での歓喜の絶頂をまだ知らない。
だが、ジウルとの行為に感じた苦痛の果てにあったものが、あるいは、それなのではないか。
何者も恐れぬ太い笑み。
「いい女じゃないか」
そう囁いてくれたその声。
思い出すだけで、身動きひとつできないドロシーの体の中で熱いものが蠢いていく。
それは、彼女が彼を女として受け入れる準備なのだろう。
ああ、口の中がカラカラだ。
誰かーーーー。
「よお。」
目の前にたった今、妄想に耽っていたその顔があった。
身に着けているのは、短いそでの白いシャツ。ボタンが無造作に外されていて、逞しい胸の筋肉と彼女を敗北に追いやった太い腕は半ば剥き出しになっている。
そのまま、点滅を続ける宝珠を見やって、ふむふむと頷いた。
「経過は悪くない、が。もっと鍛えねえとな。
この程度ですんだのは、あの銀のスーツのおかげだぜ。あれがなければ、人間の形を留めておけなかった。」
「負けた相手にずいぶんなこと言いますね。」
「へえ。いい顔で笑うじゃねえか。」
ジウルは、ドロシーの額を触り、頬を撫ぜ、そのまま掌は、触れるか触れないかの微妙な距離を保って、のどを、肩を、胸を、お腹を、腰回りを撫でていく。
触れた感触はなく。ただ手のひらの温かみだけが。ドロシーの肌に残った。
「順調、だな。
ベッドから起き上がれるまではざっと10日だ。対抗戦の間は、ここで我慢するんだな。
ハルト、いやルトのやつは、ウィルニアに殺到する苦情を裁いてる最中で動きがとれん。
なので、ちょいと俺がかわりに様子を見にきた、と言う訳だ。」
「お医者さまの心得もあるんですね。」
「よく見てやがるな。
まあ、俺のことはルトに聞いてくれ。話していいと思えば話すだろう。
なにかいるものはあるか?」
「そうですね。」
ドロシーは、舌で唇を舐めた。
「喉、が渇きました。」
「水は飲ませても大丈夫だ、用意する。」
ジウルのかざした手のひらに、水のボールが生まれた。
「少し冷たいな。体温くらいに温めるか。」
「そうではなくて。」
ドロシーは、口を開いた。舌を突き出すようにして。
「あなたから直接ください、ジウルさん。」
男と女の視線が絡み合った。
そして、互いが互いを欲していること。
それだけを確認した。
一瞬の沈黙の後、ジウルは、しかし、楽しそうに笑った。
「なるほど。
ルトが苦戦するわけだ。
ひとつ提案をくれてやる。
おまえ…
俺の弟子にならないか?」
16
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる