あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第4部 グランダ魔道学院対抗戦

第80話 このままだと全敗!

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ぼくはとにかく、よく間違うのだ。
取り返しのつかなくなる直前に、なんとか気がつくんだけど、リカバリーがめちゃくちゃ大変だ。

つくづく、ぼくはリーダーには向いていないのだと思う。

最初、ぼくらは、魔道学院の寮にでも泊まらせてもらうつもりでいた。
学校対抗戦なんだから、遠方から訪れた学校の宿泊を主催者側が面倒を見る。

これはありな話だろう。
だが、国を挙げての一大イベントになってしまった今、それは具合が悪い。

王都内部のホテル他宿泊所は、これを見にきた観光客(あえて、学校関係者、という言い方もしてやらない)で満員御礼だ。
で、ぼくは例によって、主にエルマート国王陛下への脅迫を交えたコネを使って、割と中心部のいいところに廃屋となりかけた、ある貴族の屋敷をただ同然に借り受けた。
中はそれほど、荒れてはいない。調度品もそのままですぐに生活を始められる状態である。
いわゆる、曰く付き物件だったのだが、ああいう類いのアンデッドは、吸血鬼にかかると簡単に使役対象になってしまう。

ネイア先生はひと睨みで蹴散らしてしまい、後でロウに、2~3体は召使いがわりに残しておけと怒られていた。

第一試合の終わった翌日。
ぼくは、全員が揃ったところで、切り出した。

「ウィルニアにやられた。このままだと全敗になる。」

みんなはキョトンとした顔で、こちらを見ている。
このイベントは、互いの学校が名を上げるためのイベントで、いい試合さえしておけば、結果はどうでもいい。
盛り上げることが全てだ!

そうウィルニアに言われて、みんながみんな、その気でいる。

アキルなどは、昨日の夜、ロウと一緒に「特訓」と称して、試合開始直後にいかに速やかに土下座をして負けを認めるか、の練習をしていた。
相手がアウデリアだと、それが一番、自分が傷つかなくていい方法ではある。

でも、それだと、負けなのだ。

「いいか。今のところ、試合はこんな感じだ。

第一試合 負 ドロシー対ジウル・ボルテック 勝
第二試合   エミリア対リア・クローディア
第三試合   ラウレス対ラスティ
第四試合   ネイア対ヨウィス
第五試合   ロウ=リンド対ザザリ
第六試合   アキル対アウデリア

・・・・何かしないと一つも勝てないで終わる。
これでは、評判どころではなくなってしまう。」

「いくらなんでも全負けはないでしょ。」
と、ロウが、トーストにいちごジャムを山ほど乗せたのものをパクつきながら言った。
朝ご飯はしっかり食べるタイプの吸血鬼なのである。
「それは、まあ、わたしは無理だから適当にやり合ったらとっとと白旗あげるけど。」

ぼくは全員に同じ質問をした。
全員が「自分は無理だけど誰かなんとかくれるでしょ。」という回答だったので、最後の方は流石に全員が顔を見合わせていた。

「リアって子はそんなに強いの?」

唯一、ひょっとしたら勝ち目があるかもしれないエミリアが手を上げた。

「第六階層の階層主に、引き分けてる。」

ぼくの答えに、茹で卵を喉に詰まらせた。試合前から死ぬな。

「一応、ウィルニアとは、こんな取り決めになってる。対戦者をこちらが決めたら、試合形式は向こうが決める。
エミリアとリアは、武器あり、魔法ありの試合に決まっている。
ラウレスとラスティはこれから試合形式をこっちで決められる。」

「なら、まだチャンスがあるんじゃ・・・」

「考えてみた。ラスティは『竜人』という触れ込みだから、竜になっての戦いは無しとして、まともな戦いでは勝ち目がない。
まともな戦いから、ブレス対決、魔力の操作対決、腕相撲対決いろいろ考えたんだが、全く勝ち目がない。」

「そ、そこまで、圧倒的なの?」

「五百歳になるかならないかで知性を獲得した天才児だぞ。」

言われて、ラウレスがガックリとうなだれた。
「でもそれならちょうど、その前の晩、『神竜の息吹』で、鉄板焼きのご予約が入ってるから、不戦敗でいいですか?」

「ロウは、ザザリには絶対無理だよな。えーと、ネイアとヨウィスは、迷宮を使っての模擬市街戦だ。第三層から実況生中継します。
エキストラは、あそこの吸血鬼がやってくれるけど、エキストラを傷つけたら、負け確定ね。
これだとワンチャンあるか?」

「ちょっと、ちょっと、そんなあっさり無理って・・・・」

「なんだったら勝ち目がある?」

「そ、そうだな、早食い対決とか・・・」

真祖は考えることを放棄した!


「ヨウィスについて教えてください。」

まだ一応やる気のあるネイア先生が質問してきた。

「魔道院の院生で、冒険者としての実績もあると聞いています。」

「あ、わたしとひき分けてる。」とロウ。

「やああっ! むりぃぃぃいいいいいっ!」




ぼくは朝食のあと、冒険者ギルド「不死鳥の冠」に急いだ。
現在のメンバーでは話にならない。
ならば、ここは戦力強化を図るしかない。

「いらっしゃい、ルト。フィオリナなら奥にいるわよ。」

サブマスターのミュラは、機嫌よくぼくを迎えてくれた。
嫌だなあ。
つやつやしている。

「おはよう。フィオリナ。」

挨拶がちょっと他人行儀になってしまった。
今日も美しいぼくの婚約者は、眠そうな目で、めずらしくコーヒーをすすっている。
視線をこちらにむけて、笑った。
うーん、こっちはなんか精力つかいはたした感じなのだが、女性同士でもそういうものなのだろうか。
白い首元や、胸元にうっすらと赤い斑点が浮かんでいる。虫刺されじゃなければ、あれか。

キスマークか。

「頼みがあるんだ。」
「なんなりと。」

ぼくは、声をひそめた。

「・・・というわけで、このままでは、ランゴバルド冒険者学校の全敗だ。下手をすれば、ルールス分校は取り潰し
となって、『踊る道化師』は冒険者の資格をとれないまま、退校になる可能性も高い。」

「それは、自分で出て来ないリウとリアモンドが悪い。まあ、ギムリウスが『学校対抗戦』むかないはわかるとしてもだ。
しかし、いまさら、やつらに泣きつくこともできないだろうし。
策はあるのか?」

「メンバーを強化する。」

「誰を? 生半可なメンバーでは勝負にならない。」

「とっておきのメンバーだ。」

ぼくはフィオリナの形の良い耳に口を近づけた。

「うちの絶倫仮面さんをスカウトしたいんだけど?」

「あはは」
素直に照れたようにフィオリナは笑った。
「ぜんぜん寝てないんだ。あの子が寝かせてくれなくって。」

それから、しばしぼくらは、ひそひそと耳打ちをしながら、猥談を楽しんだ。
楽しんだ?
そう、いつだって、フィオリナといるのは楽しかった。

「で、さっきの相談なんだけど?」

「さすがはルトだと思う。」
フィオリナは、大きく頷いた。
「もちろん、協力する。けど、もっといい方法があるぞ。




・・・ザザリと母上を闇討ちしよう。」

この手のことはフィオリナに相談しては行けなかった・・・・


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