あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
118 / 574
第4部 グランダ魔道学院対抗戦

第104話 ランゴバルドへの帰還

しおりを挟む
対抗戦は、ランゴバルド冒険者学校の、2勝3敗1分で終わった。

ウィルニアは、ドロシーが指摘した通り、逃げに徹した。ルールス軍は第3勢力たるグリムド軍と正面からやり合い消耗しつつもこれを圧倒しかけた。かれの極大魔法は、ルールス軍、グリムド軍をとわずにまるで自然災害のように、猛威をふるい続け、ルールス軍、おそらくはグリムド軍からの懸命の索敵にもかかわらず、ついにその本陣を掴ませなかったのである。
結局、魔力の枯渇による、ゲームの続行が不可能になり結果は引き分け。

会場は、ぼくらの実況でかなり盛り上がったが、はたしてこれは最適解だったのだろうか。

ウィルニアがとった戦術は「グリムド」というゲーム自体を終わりにしかねない戦法だった。




最終日に配られたパンフレットのポスターは、ウィルニア自身だった。
ワンドを構え(彼が実際にその手の補助魔法具を使っているのをみたことはなかったが)ニカッと笑っている。




ぼくらは、フィオリナの退院を待つ間、街を食べ歩き、お土産を買い漁り、ザザリの山荘で魚釣りを楽しんだり、一方でクローディア大公やボルテック卿、ウィルニアと今後のグランダについてのあれこれを相談したりした。
ドロシーは、ボルテックから呆れるほどのトレーニングメニューを渡されて、ほとんど空いている時間はなかった。
二人きりで会う時間は少しだけあったので、前にルールス先生からもらった紙袋を、先生からの餞別だと言って渡しておいた。


旅立ちの日は、晴れていた。

ルールス先生は、あの分厚い眼鏡をはずしている。光を放つ「真実の目」のかわりに、淡い空色のきれいな瞳がはいっていた。
「ウィルニアのおかげでな。」
と、これは素直にうれしそうにルールス先生は言った。
「真実の瞳は使うときだけ、出せばいいらしい。そこらへんが一族の中で失伝していた。真実の目を受け継いでしまうと、いろいろ日常生活に制限がかかることが多くてな。助かった。」
ネイア先生は、相変わらずのボロだ。ヨウィスにズタズタにされたのをわざわざ繕っている。
エミリアは、ロウを捕まえて文句を言っている。
例のパンフレットのポスターに登場したのを叱られているのだ。たしかに盗賊組織の首領はふつう、ポスターには登場しない。(除く、指名手配)
アキルは、あれからなにやら、考え込んでいる。
一度、「ずっとこの世界にいるとしたら」という前提で相談をうけた。
「冒険者になって世界をまわりたい。」と言うので「それはおすすめだ。」と答えたら、にっこりと笑って
「それならルトのパーティに入れてくれる?」

考えとく。

とだけ言ってぼくは笑った。

フィオリナは待ち合わせ場所。グランダから小一時間ほど歩いた丘の上に、一番最期に現れた。
仮面に、体にぴったりしたボディスーツ。白を基調に金のラインをあしらったスーツ。マントで体を多少は隠しているものの。

「残念仮面・・・」

「それを最初に言い出したのは、ルトか?アキルか?」

「あ、えーとどうだったかな?」
「たぶん、一緒だ。」

黒竜ラウレスくんが降りてくる。
試合が終わったあと、彼はランゴバルドにトンボ帰りして、鉄板を焼いていた。
“しばらくは、これ一本でいきたいと思うんだが”

と、遠距離念話用の水晶球のなかで、彼はけっこう幸せそうな顔でそう言っていた。
まあ、本人がいいならそれでいいのだろうと思う。

途中、山脈を越える辺りで、黒雲が湧き上がり、中で閃光と爆音が響いた。ラウレスが唸り声をあげた。
先だって、グランダ、ランゴバルドを往復させたときに痛い目にあわされた嵐龍だ、と彼は念話でぼくに告げた。
かまわない、やっちまえ!
とぼくは答えた。

近づいてみると、嵐竜は、飛竜を駆る冒険者と戦闘の真っ最中だった。

ラウレスの巨体をみて、ギョッとしたようだったが、人と古竜が思わぬ場所で遭遇したときの共通のサイン、剣も盾、を空に描いてみせると、念話で話しかけてきた。

「これなるは黄金級冒険者『 竜を駆る 』ウルクレイド。幾多の町や村を焼き払った暴虐なる嵐竜を討伐しております。
高貴なる古竜様に、なにとぞ、助太刀をお願い申し上げます。」

言われるまでもなく。

真っ先に飛び出したのはフィオリナだ。
飛翔の魔法の替りに、竜巻状の風に体を包んでしまうのが、フィオリナ流だ。
光の剣を3連射。
嵐竜の首、胴体、尻尾に命中。
肉片が飛び散るが、致命傷にはならない。
お返しのプレスは、ぼくの魔法陣が吸収、そのまま嵐竜にお返ししようかと思ったが、丁度、ロウが放った真紅の切断鎌に「のせる」ことにした。

ブレスの威力を足された紅の鎌は、グンと大きさと勢いを増して、嵐竜を脳天から真っ二つに切り裂いた。
地面へと落下を始めた肉塊を、ラウレスのプレスが、焼き尽くした。



山の中腹、やや斜面がなだらかになったところに、降りると、ウルクレイドさんは、改めてぼくらに深々と頭を下げた。
ラウレスは、とっとと人間に姿をかえている。
これはひとつには場所の問題があるのだろう。
険しい山の中であり、あまり平地といえる場所は広くない。そこを大半、ウルクレイドさんの竜が場所を占めてしまっている。
代々受け継がれてきたという飛竜は、ラウレスに怯えきっていて、ちょっとかわいそうだった。懸命にウルクレイドさんのたくましい身体の後ろに身をかくそうとするのだが、そもそも人間と竜では身体のサイズが違う。

深く感謝しながらも、ちょっとだけ、ウルクレイドさんが不満そうなのは、ラウレスが嵐竜の身体をほとんど焼き尽くしてしまったからだ。本当ならばそこから、価値のある素材がしこたま取れて、ひょっとすると依頼料よりも多い金額がたんまり懐にはいったはずである。

「あらためて、挨拶させていただく。わたしは黄金級の冒険者ウルクレイド、失礼ですがあなた方は・・・」

ぼくらを順番に見ていたその目が、ネイア先生にとまる。

「ま、まさか、ランゴバルド冒険者学校のネイア先生ですかっ!」
「覚えておるよ、ウルクレイド。」
ネイア先生は、ゆったりと笑った。
「黄金級になったそうだな。活躍はよく耳にするよ。」

「ネイア先生!」
感激の面持ちで、ウルクレイドさんはネイア先生の手を握りしめる。
「・・・ということは、そちらは、まさかルールス校長先生、ですか。
・・・メガネをはずした顔をはじめて拝見いたしました。おきれいな目をしていらっしゃる。」

ふん。
と、ルールス先生が鼻をならしたが、なんのことはない。

照れている。

「残りのみなさんは・・・・」

「うちの学校の現役生どもだな。」
ルールス先生は言った。
「こっちの巻き毛の坊やが『黒竜』ラウレス、それを使役してるのがそっちのルト坊や、その隣りが真祖吸血鬼のロウ=リンド、ちっこいのが棒術の達人エミリア、へんな仮面のやつがは、グランダ魔道院からの交換留学生で残念仮面という。」

ウルクレイドさんは、複雑な顔をした。
それはそうだろう。たしかにフィオリナのいまの格好は、けっこう残念ではあるが、竜巻状の風に身を包みながら、光の剣を三連射して、嵐竜を圧倒したのを目の当たりにしてしている。
そして、嵐竜のブレスをぼくが展開した魔法陣で吸収したこと。
ロウの赤い光が、嵐竜を両断したこと。
ラウレスのブレスが、その身体を焼き尽くしたことも。

「別に隠すことでもない。
グランダの魔道院との対抗戦に行った、その帰り道だ。へんな仮面以外は竜も含めて、対抗戦のメンバーだな。」

「ああ、あの賢者ウィルニアが新しく学長に就任したとかいう・・・」
ウルクレイドさんは、頷いた。
「・・・しかし、学校対抗戦に、古竜を出陣させるなど、古今東西、聞いたこともありませんな。」

「なんのことはない。それでも負けたからな。」

「はい?」
ウルクレイドさんは目を白黒させた。
「古竜に真祖吸血鬼のいるメンバーがいて対抗戦に負ける?・・・いや御冗談でしょう。」

「残念ながら御冗談ではない。
2勝3敗1分け。よく頑張ってくれたが負け越しだな。」

「そんな馬鹿な。」ウルクレイドさんの顔が青ざめている。「相手はなにを出してきたんです? 『魔王』ですか?」

「決まっているだろう。」
ルールス先生は、肩をすくめみせた。
「賢者ウィルニアだ、よ。」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...