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第4部 グランダ魔道学院対抗戦
第103話 負けない戦い
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ドロシーは、白いドレスを身にまとっている。
ギムリウスのスーツは、一度全部ほどいてエミリアのために仕立て直してしまったので、急遽、購入したワンピースタイプのドレスだ。
オーダーではないので、彼女の好みからすると肌を出し過ぎのようだ。
どうも、買いによった店の店主が、“銀雷の魔女”のファンらしく、彼女はふだんから肌を露出するスタイルをしているのだと思い込んで、おすすめしてくれたドレスが、この淡雪のような生地のドレスなのだ。
ドロシーの白い滑らかな肌によく似合っている。
「さあて、このゲームははじめてというドロシーさん。
いかがですか、このゲームの雰囲気は?」
「コマを使った立体型のボードゲームだときいています。実際のプレイを見るのははじめてです。」
「さて、さきほど、ヨウィスさんから説明があったように、このゲームには必ず、第三勢力が存在します。
しかし、初期の状態では、それは表示されません。」
「あ、ルールス先生の陣営から、光る点が飛んでいきましたね。」
ドロシーはよく見ている。
「あれは、索敵ユニットだ。」
ヨウィスが答えた。
「まずは、敵の位置を確認する。それ自体に攻撃力をもたせたり、防御力をたかめたり、移動速度をあげたりすれば、その分、生産のコストがあがる。
見た限り・・・とくに特徴のない索敵兵のようだ。」
「なるほど。」
ドロシーは考え込んだ。
「ルールス先生の動きは、セオリー通りとのことですか。対して、ウィルニア学院長はまったく動きがありません。」
「索敵にむかったユニットが索敵されて、動きを察知されることがある。」
ヨウィスが言った。
「ならば、守備を固めて自分の陣に閉じこもれば? 相手からくる索敵ユニットをつぶしながら、すこしずつ、陣形
を移動させるの。」
それは、このゲームの弱点ともいえる。
守る側が基本的に有利なのだ。
ひたすら守っていれば、相手は攻めきることは難しい。
このゲームにはユニットの「生産」と「進化」という概念はあるが、それはお互い様だ。
同じ時間をかければ、自分が強くなる分、相手も強くなる。
「そこで、第三勢力グリムドが問題となってくるわけ・・・か。」
ドロシーのつぶやきは正しい。
第三勢力がどのようなものか。
規模は、強度は、獰猛さは?
なにか特殊なユニットは装備しているのか。
だから、初期の索敵行動は相手側の陣営や進行状況の確認ではなく、第三勢力グリムドの出現位置を確認することにある。
「ウィルニア学院長はなにをしてるんでしょう?
グリムドへの索敵ならば、共同で行ったほうが、効果は高いと想います。」
「ドロシーは、このゲームに才能がありそうだな。」
ぼくはからかった。
「次は、グリムドをマスターしに古竜の都にでも留学するかい?」
ルールス先生の索敵兵は、革の鎧に身を包んだ軽装歩兵として、観客の脳裏には投影されている。
先行するその一体の首に、矢が突き刺さった。
うめきをあげてくずれおちる索敵兵。
その瞬間、ウィルニアの陣営から、攻撃魔法がとんだ。
それは、灼熱した岩の固まり、櫓ほどもあるそれがいくつも飛んだ。
「ウィルニア学院長は、『なにもせず』にあれだけを用意してたんですね・・・」
ドロシーの頭は相変わらず明晰だ。
そう、ウィルニアは陣も動かさず、槍兵も弓兵も騎兵も用意せず、索敵兵もださず、「その」攻撃だけを用意していた。
見えぬなにかが、悲鳴をあげて消滅していく。
グリムドの勢力は、鬼の顔をした重層の鎧兵。集中した陣形を組んだ大部隊が、灼熱の大岩に潰されて消滅していく。
「そうだな。相手が『どう』うごくかも予想しての大魔法の準備だ。ルールス先生ならばセオリー通り、堅実に索敵をしてくれるだろう、と予想して自分は、ルールス陣営と第三勢力がぶつかったところに大攻撃を叩き込むことだけを考えた。」
「自分が先に見つかることは?」
「見つかりにくい布陣をひくことは可能だし、そこは賭けだ。」
ぼくたちの会話は、そのまま、場内に中継されている。
そのまま解説にさせてもらっているつもりだ。
「おそらくウィルニア学院長は、もう陣を移動させている。次の接触がおきる場所、おきるタイミングを探してまた今の魔法を叩き込む。あの攻撃に耐えられるユニットは、生産できないし、部隊を大きくしなければ逃げることも見つかりにくくすることも用意だ。」
「そんな戦いかたもあるんですか?」
「ないよ。」
ぼくはきっぱり言った。
「基本的に、戦うためのユニット、工作のためのユイットを生産して、陣を強化し、同様な行動をとる相手陣営、第三陣営を牽制しながら支配地を広げていく。本格的な戦いは支配地同士が接触してから起こる。
最初から逃げに徹して、要所要所で極大魔法でダメージを与えてもそれで勝利に結びつくことはありえない。
「勝てないですよね、それは。たしかに嫌がらせにはなりますけど。」
ドロシーも言った。
「・・・ああ、ひょっとして」
「なにか気がついたの?」
「最初から、負けなければいい、そう思って戦っているのではないんでしょうか?」
ギムリウスのスーツは、一度全部ほどいてエミリアのために仕立て直してしまったので、急遽、購入したワンピースタイプのドレスだ。
オーダーではないので、彼女の好みからすると肌を出し過ぎのようだ。
どうも、買いによった店の店主が、“銀雷の魔女”のファンらしく、彼女はふだんから肌を露出するスタイルをしているのだと思い込んで、おすすめしてくれたドレスが、この淡雪のような生地のドレスなのだ。
ドロシーの白い滑らかな肌によく似合っている。
「さあて、このゲームははじめてというドロシーさん。
いかがですか、このゲームの雰囲気は?」
「コマを使った立体型のボードゲームだときいています。実際のプレイを見るのははじめてです。」
「さて、さきほど、ヨウィスさんから説明があったように、このゲームには必ず、第三勢力が存在します。
しかし、初期の状態では、それは表示されません。」
「あ、ルールス先生の陣営から、光る点が飛んでいきましたね。」
ドロシーはよく見ている。
「あれは、索敵ユニットだ。」
ヨウィスが答えた。
「まずは、敵の位置を確認する。それ自体に攻撃力をもたせたり、防御力をたかめたり、移動速度をあげたりすれば、その分、生産のコストがあがる。
見た限り・・・とくに特徴のない索敵兵のようだ。」
「なるほど。」
ドロシーは考え込んだ。
「ルールス先生の動きは、セオリー通りとのことですか。対して、ウィルニア学院長はまったく動きがありません。」
「索敵にむかったユニットが索敵されて、動きを察知されることがある。」
ヨウィスが言った。
「ならば、守備を固めて自分の陣に閉じこもれば? 相手からくる索敵ユニットをつぶしながら、すこしずつ、陣形
を移動させるの。」
それは、このゲームの弱点ともいえる。
守る側が基本的に有利なのだ。
ひたすら守っていれば、相手は攻めきることは難しい。
このゲームにはユニットの「生産」と「進化」という概念はあるが、それはお互い様だ。
同じ時間をかければ、自分が強くなる分、相手も強くなる。
「そこで、第三勢力グリムドが問題となってくるわけ・・・か。」
ドロシーのつぶやきは正しい。
第三勢力がどのようなものか。
規模は、強度は、獰猛さは?
なにか特殊なユニットは装備しているのか。
だから、初期の索敵行動は相手側の陣営や進行状況の確認ではなく、第三勢力グリムドの出現位置を確認することにある。
「ウィルニア学院長はなにをしてるんでしょう?
グリムドへの索敵ならば、共同で行ったほうが、効果は高いと想います。」
「ドロシーは、このゲームに才能がありそうだな。」
ぼくはからかった。
「次は、グリムドをマスターしに古竜の都にでも留学するかい?」
ルールス先生の索敵兵は、革の鎧に身を包んだ軽装歩兵として、観客の脳裏には投影されている。
先行するその一体の首に、矢が突き刺さった。
うめきをあげてくずれおちる索敵兵。
その瞬間、ウィルニアの陣営から、攻撃魔法がとんだ。
それは、灼熱した岩の固まり、櫓ほどもあるそれがいくつも飛んだ。
「ウィルニア学院長は、『なにもせず』にあれだけを用意してたんですね・・・」
ドロシーの頭は相変わらず明晰だ。
そう、ウィルニアは陣も動かさず、槍兵も弓兵も騎兵も用意せず、索敵兵もださず、「その」攻撃だけを用意していた。
見えぬなにかが、悲鳴をあげて消滅していく。
グリムドの勢力は、鬼の顔をした重層の鎧兵。集中した陣形を組んだ大部隊が、灼熱の大岩に潰されて消滅していく。
「そうだな。相手が『どう』うごくかも予想しての大魔法の準備だ。ルールス先生ならばセオリー通り、堅実に索敵をしてくれるだろう、と予想して自分は、ルールス陣営と第三勢力がぶつかったところに大攻撃を叩き込むことだけを考えた。」
「自分が先に見つかることは?」
「見つかりにくい布陣をひくことは可能だし、そこは賭けだ。」
ぼくたちの会話は、そのまま、場内に中継されている。
そのまま解説にさせてもらっているつもりだ。
「おそらくウィルニア学院長は、もう陣を移動させている。次の接触がおきる場所、おきるタイミングを探してまた今の魔法を叩き込む。あの攻撃に耐えられるユニットは、生産できないし、部隊を大きくしなければ逃げることも見つかりにくくすることも用意だ。」
「そんな戦いかたもあるんですか?」
「ないよ。」
ぼくはきっぱり言った。
「基本的に、戦うためのユニット、工作のためのユイットを生産して、陣を強化し、同様な行動をとる相手陣営、第三陣営を牽制しながら支配地を広げていく。本格的な戦いは支配地同士が接触してから起こる。
最初から逃げに徹して、要所要所で極大魔法でダメージを与えてもそれで勝利に結びつくことはありえない。
「勝てないですよね、それは。たしかに嫌がらせにはなりますけど。」
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