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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道
第157話 ギムリウスの解決法
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「ゴウグレ!!」
ミランの攻撃は、影に溶け込み、影の中から、影を刃物とする。
ゴウグレは、蜘蛛糸を駆使して、瓦礫から巨人を組み上げた。
影の刃物は物理的な防御をほとんど無効化できるものの、膨大な質量に対しては効果が薄い。
対して、ゴウグレも巨人も影に溶けたミランを捉えることはできなかった。
「ミラン、おまえがアライアス侯爵家のご子息を誘拐し、誤った儀式に使おうとしたのはすでに明白である!」
「使おうとした、というか、使った。心臓をエグって裁断にその血を捧げた。」
「・・・・残念だが、彼は命を落としてはいない。おまえが現場を去ったあとに、駆けつけたギムリウスさまに命を繋がれた!」
「ヴァルゴールさまより指示された儀式は、身分ある人間の心臓を奪い、流れる血を裁断に注ぐことだ!
ちゃんとルール通りに行っている!」
「・・・すでに、ルールは変更されているっ!」
「そんな噂は信じない!」
「ミトラの使徒にも連絡は届いているはずだ。集会には出ないのか!?」
「誰が出るか! 人間キライ!」
ゴウグレ自身もまた、ヴァルゴールの使徒であり、しかも人間ではなく、神獣ギムリウスさまに作られた存在だった。
だが、それでも思う。
こいつは、困ったやつだな。
「それから、ゴウグレ。」
直接身体に喰らえば、両断されることは間違いない。影の刃はゴウグレの造った瓦礫の巨人の右足をついてに切断した。
倒れる巨人の前に、影からはいでたミランは、頭を下げた。
「ごめん。」
「・・・・」
「誕生日のプレゼント。ちゃんと中を見ないで怒ってしまった。自分の出した糸で作ったペンダントは充分、非人間的だった。ボクの好みだ。大事にしていたんだけど。」
ミランは、瓦礫の山と化した彼女のアパートを見つめて、ため息をついた。
「あれをどけて、ペンダントを探し出すのは、とても人間的な行動のような気がして、いやだ。」
「・・・・」
瓦礫の巨人が砕けた。
ゴウグレは、困ったように佇んでいた。
その彼の右腕が、影の剣で切断された。宙に舞った腕を左手がキャッチしてそのまま、傷口につける。なんどか、腕をふって無事を確認する。
「うん。なかなかと非人間ぶりだ。」
ミランは、寂しそうに微笑んだ。
「でも、ボクはきみとよりを戻す気はないんだ。」
いや、そういうことのために来たのではないだが。
ゴウグレは困ったこの後輩になにをいってやればいいのかわからない。
「人間の姿をしているのに、化け物なやつをふたりも見つけてしまったのだ。」
上空には、あの二人のこどもが、浮かんでいる。通常の飛翔魔法ではない。風の魔法を使って高い機動性を維持している。
そこに向かって、数十本の呪剣グリムがうちあがった。
女の方が剣を振るった。
グリムが軌道をそらされた。だが、再び切っ先を二人に向けて殺到する。
「ギムリウスさまがあの二人を試している。」
「試し、とは?」
「対等のご友人として遇してよいかの審判だ。」
「それはいったい・・・」
「単純だ。戦うだけだ。一定以上の、力を示せば彼らはギムリウスさまの友となれる。」
「示せなければ?」
「打倒される。殺すおつもりはないだろうが、ギムリウスさまの攻撃を受けて命を永らえるものが、有限寿命者で存在するのか、疑問だ。
いや・・・」
ゴウグレは、身体を震わせた。
いた、のだ。彼と、使徒アレクを圧倒した少年と拳士。ちょうど頭上で戦っている少年と同じくらいの背格好だった。
彼の創造したメイドが寄生させた蜘蛛を逆にたどって、彼を刺させたのだ。
「いたな。」
ギムリウスの打ち出した剣が、虚空にひらいた門のなかに消えていく。
「すばらしい!」
ミランが叫んだ。
「まったくもって化け物以外のなにものでもない!
ぜんぜん、人間っぽくないよ。あれはすごい。すばらしい!」
侯爵閣下は、ぼう然としている。
いや。
最初は、犯人である12使徒ミランを見事に捕らえたギムリウスとゴウグレを喜んで褒めたたえていたのだ。
だが、ミランを捕らえたわけでもなく、彼女が自主的についてきたこと、自分たちのかわりに彼女を雇わないか打診されて、怒り出し、さらに話が進むうちにそれが、かなり魅力的な案であることに気がついた。
いま、すぐにではない。
常識豊かなギムリウスは、ヴァルゴールが生贄の儀式を中止したことをミランが納得したあと、さらにランゴバルドの冒険者学校で人間としての常識を学ばせることを提案した。
冒険者資格は、一種の身分や素性のロンダリングに使われることが多い。
「元ヴァルゴールの使徒」は雇いにくかったが、冒険者学校を卒業した新人冒険者ならば、雇う余地はいくらでもあった。
まして、その冒険者が、竜人に匹敵する能力があるのなら。
いやいや、こいつは息子の命を奪おうとした奴だ。
そう思っても、侯爵家が雇わねば、どこかの誰かが雇うだけだろう。
こんなにお買い得な人材はいないのだ。
罰を与えるか?
しかし、いったん有罪にするために法廷に送り出してしまえば、刑は極形式以外にないのだ。
では、どうする?
「わたしはミトラでひとを探しています。」
ギムリウスは言った。
「ゴウグレは学校があるので帰らせますが、わたしはもうしばらくミトラに滞在しますので、ミランはわたしが監督しましょう。
幸いにご子息様は自分を誘拐した犯人の顔を知りません。つまり閣下とわたしが黙っていれば、ミランのことはわたしとわたしの新しい友人たちがうまく制御できます。」
新しい友人?
そう言えばこの謎めいた美少年が、友人のことに言及したことがあっただろうか?
いずれ紹介いたしましょう。
と、ギムリウスは侯爵に約束した。
ミトラの魔法学校に進学予定の少年と少女です。
ミランの攻撃は、影に溶け込み、影の中から、影を刃物とする。
ゴウグレは、蜘蛛糸を駆使して、瓦礫から巨人を組み上げた。
影の刃物は物理的な防御をほとんど無効化できるものの、膨大な質量に対しては効果が薄い。
対して、ゴウグレも巨人も影に溶けたミランを捉えることはできなかった。
「ミラン、おまえがアライアス侯爵家のご子息を誘拐し、誤った儀式に使おうとしたのはすでに明白である!」
「使おうとした、というか、使った。心臓をエグって裁断にその血を捧げた。」
「・・・・残念だが、彼は命を落としてはいない。おまえが現場を去ったあとに、駆けつけたギムリウスさまに命を繋がれた!」
「ヴァルゴールさまより指示された儀式は、身分ある人間の心臓を奪い、流れる血を裁断に注ぐことだ!
ちゃんとルール通りに行っている!」
「・・・すでに、ルールは変更されているっ!」
「そんな噂は信じない!」
「ミトラの使徒にも連絡は届いているはずだ。集会には出ないのか!?」
「誰が出るか! 人間キライ!」
ゴウグレ自身もまた、ヴァルゴールの使徒であり、しかも人間ではなく、神獣ギムリウスさまに作られた存在だった。
だが、それでも思う。
こいつは、困ったやつだな。
「それから、ゴウグレ。」
直接身体に喰らえば、両断されることは間違いない。影の刃はゴウグレの造った瓦礫の巨人の右足をついてに切断した。
倒れる巨人の前に、影からはいでたミランは、頭を下げた。
「ごめん。」
「・・・・」
「誕生日のプレゼント。ちゃんと中を見ないで怒ってしまった。自分の出した糸で作ったペンダントは充分、非人間的だった。ボクの好みだ。大事にしていたんだけど。」
ミランは、瓦礫の山と化した彼女のアパートを見つめて、ため息をついた。
「あれをどけて、ペンダントを探し出すのは、とても人間的な行動のような気がして、いやだ。」
「・・・・」
瓦礫の巨人が砕けた。
ゴウグレは、困ったように佇んでいた。
その彼の右腕が、影の剣で切断された。宙に舞った腕を左手がキャッチしてそのまま、傷口につける。なんどか、腕をふって無事を確認する。
「うん。なかなかと非人間ぶりだ。」
ミランは、寂しそうに微笑んだ。
「でも、ボクはきみとよりを戻す気はないんだ。」
いや、そういうことのために来たのではないだが。
ゴウグレは困ったこの後輩になにをいってやればいいのかわからない。
「人間の姿をしているのに、化け物なやつをふたりも見つけてしまったのだ。」
上空には、あの二人のこどもが、浮かんでいる。通常の飛翔魔法ではない。風の魔法を使って高い機動性を維持している。
そこに向かって、数十本の呪剣グリムがうちあがった。
女の方が剣を振るった。
グリムが軌道をそらされた。だが、再び切っ先を二人に向けて殺到する。
「ギムリウスさまがあの二人を試している。」
「試し、とは?」
「対等のご友人として遇してよいかの審判だ。」
「それはいったい・・・」
「単純だ。戦うだけだ。一定以上の、力を示せば彼らはギムリウスさまの友となれる。」
「示せなければ?」
「打倒される。殺すおつもりはないだろうが、ギムリウスさまの攻撃を受けて命を永らえるものが、有限寿命者で存在するのか、疑問だ。
いや・・・」
ゴウグレは、身体を震わせた。
いた、のだ。彼と、使徒アレクを圧倒した少年と拳士。ちょうど頭上で戦っている少年と同じくらいの背格好だった。
彼の創造したメイドが寄生させた蜘蛛を逆にたどって、彼を刺させたのだ。
「いたな。」
ギムリウスの打ち出した剣が、虚空にひらいた門のなかに消えていく。
「すばらしい!」
ミランが叫んだ。
「まったくもって化け物以外のなにものでもない!
ぜんぜん、人間っぽくないよ。あれはすごい。すばらしい!」
侯爵閣下は、ぼう然としている。
いや。
最初は、犯人である12使徒ミランを見事に捕らえたギムリウスとゴウグレを喜んで褒めたたえていたのだ。
だが、ミランを捕らえたわけでもなく、彼女が自主的についてきたこと、自分たちのかわりに彼女を雇わないか打診されて、怒り出し、さらに話が進むうちにそれが、かなり魅力的な案であることに気がついた。
いま、すぐにではない。
常識豊かなギムリウスは、ヴァルゴールが生贄の儀式を中止したことをミランが納得したあと、さらにランゴバルドの冒険者学校で人間としての常識を学ばせることを提案した。
冒険者資格は、一種の身分や素性のロンダリングに使われることが多い。
「元ヴァルゴールの使徒」は雇いにくかったが、冒険者学校を卒業した新人冒険者ならば、雇う余地はいくらでもあった。
まして、その冒険者が、竜人に匹敵する能力があるのなら。
いやいや、こいつは息子の命を奪おうとした奴だ。
そう思っても、侯爵家が雇わねば、どこかの誰かが雇うだけだろう。
こんなにお買い得な人材はいないのだ。
罰を与えるか?
しかし、いったん有罪にするために法廷に送り出してしまえば、刑は極形式以外にないのだ。
では、どうする?
「わたしはミトラでひとを探しています。」
ギムリウスは言った。
「ゴウグレは学校があるので帰らせますが、わたしはもうしばらくミトラに滞在しますので、ミランはわたしが監督しましょう。
幸いにご子息様は自分を誘拐した犯人の顔を知りません。つまり閣下とわたしが黙っていれば、ミランのことはわたしとわたしの新しい友人たちがうまく制御できます。」
新しい友人?
そう言えばこの謎めいた美少年が、友人のことに言及したことがあっただろうか?
いずれ紹介いたしましょう。
と、ギムリウスは侯爵に約束した。
ミトラの魔法学校に進学予定の少年と少女です。
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