あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第156話 夜を駆ける

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「わたしはギムリウスと言います。」
ギムリウスは、声と念話、両方で叫んだ。
「あなた方は何者ですか?
わたしはあなたたちを『試し』たいのです。受けてくれますよね!?」

「なんなのだ、試しって。」
ミランが、ルトを見上げてきいた。
「神獣・・・やら、真祖やら古竜やら、有限寿命者よりも上位の存在が、ひとを果たして友として語れるものかどうかを判断するためのテスト、です、かね。
わかりやすく言うと。」
「あまりわかりやすくないっ」
ミランの可憐な抗議は無視された。

「ミラン、ゴウグレをひとりで相手にできます? または逃げられますか?」
「ボクは自分の家を失った。逃げるところなんかどこにもない。」

ミランは言った。

「ボクは戦う。」
「なら、手を離す。たぶんゴウグレよりもギムリウスを相手にするほうが危険だから。」
「うい」
ミランは答えた。
「じゃあ、またあとで。」

フィオリナはルトを離し、ルトはミランの手を離した。
ミランは、呪文を唱えた。
街路樹の影が持ち上がり、ミランの細い身体を飲み込んだ。

ルトは、そのまま落下し、ヨウィスの糸を窓のさんにひっかけて、風魔法を併用して、向きをかえた。
ミトラの上空は、ランゴバルドのような航空管制はされていない。フィオリナは空中で戦うことにした。
風の障壁に身体を包んだまま戦うのは、まさに以前、魔王宮でギムリウスを相手にしてときのままだった。あのときは、ギムリウスは城塞のごとき大蜘蛛の姿だった。
はたして、この度は?

「わたしの名は、ミイシア。こっちの坊やはウォルト。ランゴバルドから来た魔法学校の生徒です!」
フィオリナは、屋根の上に、変なボディスーツで立つ、ギムリウスに律儀にそう答えた。ルトが説明してくれた彼の認識阻害の魔法の効果は、ここで実名を名乗った程度では消失しない。むしろ、あとでの認識を混乱させるだけだと言う。
まったく、やっかいな魔法だった。
「かの神獣ギムリウスさまがいったいなんのご用事なのでしょう?
わたくしたちは、恐ろしいヴァルゴールの使徒に襲われていた少女を救い出し、その家に招待されたばかりです。『試し』とはなんのことでしょうか?」

「答えてくれてうれしい。」
ギムリウスは、腰に手を当てて、空のフィオリナを見上げた。
身体にぴったりとしたボディスーツのギムリウスは、少女か少年かもわからない。
「これは、わたしがあなた方を友人として認めるかどうかのテストだ。もし合格すれば、あなたたちはわたしの終生かわらぬ友となる。」

「合格しなければ?」

「今のわたしは銀級の冒険者でもあるのだ。無辜な殺戮は望まない。ましてこれは『試し』だ。死なないように充分な配慮をもっておこなう。」
「『試し』を断ったら?」
「使徒ミランの仲間として排除する。これも別に殺戮を意図とするものではないので、もしそうなら、『無駄な抵抗をしない。』ただこれだけで、生き延びる確率はかなり高くなる。」

フィオリナは、心の中で感嘆した。ギムリウスってかわいい。ちゃんと勉強して人間のことを学んでいる。
階層主たち上位存在が、人間と付き合うときのルールを人間社会のルールとすり合わせて、なんとか妥協点を見出している。

「では、試しを開始する。」

本体を呼ぶなよ、ギムリウス。フィオリナは願った。そうしたら、わたしもおまえを止めるために全力を出さなければならない。
そのあとにおこるミトラ壊滅と、西欧諸国連合対クローディア大公国の戦いに、フィオリナは心躍るものを感じた。でもそれは限りなくNGだ。平和主義の彼女の婚約者がそれを許容しないから。

ギムリウスの背面の空間が歪む。
なにかを呼ぶつもりなのだが、少なくとも城のごとき「本体」ではない。
少しフィオリナは油断していたのかもしれない。

ギムリウスの背後に現れたのは、荷車に似た箱。その一面を斜め上空に向け。そこには、白い禍々しい剣が30本ばかり切っ先を空にむけて、植わっていた。
アキルが見たら、「ロケットランチャーだ」と表現しただろう。

“あの、剣を射出する武器か ”
フィオリナは思った。
さすがに、ギムリウスは、無為無策ではなかった。
呼んだたけで、都市の一区画が壊滅する「本体」なしでは、遠距離攻撃には難ありと思っていたのだが。
さすがに工夫しているな。
だが、鋭いだけの剣では、彼女は止められない。多少の傷を負ってもいっきに接近してケリをつける。その方が街に与える損壊も少なく・・・

蒼い稲妻が世界を包んだ。
ギムリウスの立っていた建物が、吹っ飛んだ。剣の射出装置ごと、ギムリウスが崩落に巻き込まれ手、落ちていく。

「なにを!」

直接的な打撃は、フィオリナ、分析と補助、あるいは戦闘の前と後の交渉ごとを担当することが、多いルトが、フィオリナの横にふわりと浮かんだ。

「ギムリウスが撃とうとしていたのは、呪剣グリムだ。」
ルトは、いつものあいまいな笑い顔を消している。
ギムリウスに対する愛情という点では、フィオリナ以上はずだが、必要なときには情け容赦もない。
そう言うところも含めて彼女は、ルトが好きだった。
しかし。

「呪剣グリムだと?
ざっと数えて30本はあった。いくら元魔王宮の階層主といえども伝説級の武具を使い捨てする程に揃えられるのか?
大体、あれは年を経た蜘蛛の神獣の骨から削りだす・・・」

フィオリナは黙った。

「そう言うことだよ。」
ルトはお手上げといったような表情を浮かべた。
「伝説級の武具でも、ギムリウスにとっては、もっとも手近な材料でいくらでも作り出せる使い捨ての武器に過ぎない。」

瓦礫の中から、呪の骨剣が発射された。ギムリウス当人はともかく、射出装置も無事のようだった。

「じゃあ、賭けてもいいけど連射機能も、ついてるわよね。」
「誰を相手に賭ける?
ぼくも同じ意見なんだけど。」

それはかすり傷でもすさまじい激痛をもたらすのだという。
白き禍々しい骨の剣。グリム。

ルトの手をひっぱって、フィオリナは空を駆けた。
白い剣はことごとく、なにもない空間を走り抜け。そして、くるりと向きを変えると、フィオリナたちを追った。

「こっちを追いかけてくる!」
「そのようだ。さすがのギムリウスも使い捨てはもったいないと思ったのか、あとで誰かに拾われて悪用されることを考えたのか。」
「量産を検討したのか? なんで!」
「その、お金に困って。」
ルトは恥ずかしそうに言った。
「売ろうかと。」

フィオリナの剣が烈風を起こす。
まだ、剣に名はつけていない。その能力を把握してもいない。
だが、他ならぬ「魔王」リウが、彼女のために調達してくれた剣だ。

上下から殺到する骨剣が、吹き散らされる。だが、いったんは軌道をくるわされた剣たちは、ふたたび、彼らにその向きを変えた。

足元で瓦礫が吹き飛び、ギムリウスと呪剣の発射装置が姿を現した。ギムリウスはボディスーツがあちこちちぎれ飛んで、半分裸になっていたが、その肌にわずかの傷もみえない。
その白い太ももからすねにへばりついていた脚が、開いた。

フィオリナが投じた光の剣を、蜘蛛の脚だから可能な、すばやい移動でかわしながら、かついだ発射装置を三度作動させる。

白い骨の剣は、これで90本に増えた。

「キリがないぞ。」
フィオリナが呻いた。

「常闇の剣を召喚できる?」
「できるけど」
かすり傷だけでもその激痛で、相手を行動不能にさせる呪剣グリムを、烈風で吹き飛ばしながら、フィオリナは言った。
「いくらなんでもこの本数は無理だぞ。」

かまわない。

ぼくの言ったタイミングで「門」を開いて。

フィオリナは上昇に移った。骨剣の群れがそれを追う。

『今』

フィオリナが、異世界につながる「門」を開いた。
通常ならそこから吐き出される闇の剣の訪れを待たずして、白い骨剣の群れを飲み込んでいく。

沈むように。溶けていくように。
グリムは、異世界に消えた。
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