あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
238 / 574
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第219話 介入無用

しおりを挟む
クローディアは、部屋から出たところで、呼び止められた。
ロデリウムのご老公が旅の途中で道連れになったという旅芸人のひとり、リク、と呼ばれる男だった。

「キッガの部屋の鍵を拝借したい。」

クローディアは無言の笑みをもって答えた。
リクは、うろたえ、差し出した手をひっこめた。

「・・・おぬしらの生業のことは、ロデリウムのご老公からきいた。」
クローディアは、言った。
「知らなければともかく、知ってしまった以上、お主にこの鍵を渡すことの意味は理解した。ならば鍵を渡すことはできない。
そのあと、起こることがわかっている以上は、な。」

「なら、どうなさるおつもりですか? 大公陛下。」

背後に現れた女。ギンが囁いた。

「あたしらに、エステル伯爵とキッガの命を望んだのは、伯爵の前の奥方ですよ。自分が産んだ跡取り息子は変死、その真相を調べようとした矢先に、自分も刺客の手にかかって酷い最後を遂げられた。
本来ならば、貴族のお家騒動になど、首をつっこむことはないのだけれど、どうにもあの恨みは晴らしてやりたい、とそう思ったのです。」

「闇は日の当たるところに出して、正当に裁かねば晴れるまい。違うか、仕掛け屋どの?」

「闇というのはいつ、いかなるところにも存在するのですよ、陛下。」
ギンは薄く笑った。
「やつらはその闇の中にするりと身をかくしてしまう。ギウリークも鉄道公社も、己の恥ともなる裏工作は断じて認めることはありますまい。
つまり、あの二人を昼間の法廷で裁くことは無理なのです。方法はひとつです。
闇から闇に葬ること。」

「そしてどうなる。」
クローディアは目を細めた。
「鉄道公社と、ギウリーク内部の鉄道公社を支援する派閥は、予定通り、オールべを接収して鉄道公社の直轄とするだろう。真相を知るものは闇が葬った・・・・それだけを残して。」

「それはあんたがた、偉い方たちが考えればよいことです。わたしらの仕掛けはただひとつ。奴らにこれ以上、現し世で息をさせぬこと。」

ギンもリクもなんの構えをとったわけでもない。だが、クローディアには二人が戦闘態勢にはいったのが『分かった』。
それは戦士としてのカンだったのかもしれない。無意識に彼は腰を落としていた。腰にさした剣は室内の取り回しを考えた短いものだったが、充分だ。
そのクローディアの傍らを、ウォルトが通り過ぎていった。

クローディアも。
ギンもリクも。
反応できなかった。

まるで風が駆け抜けるのを人が止められないように。

「はい。」
少年の手から、鈍い鉄色に光る鍵が、ギンに渡された。
「キッガの部屋の鍵です。ぼくはあなた方が何者かしらない。キッガをどうするかは興味がない。ただ、クローディア陛下をそこにいかせることはできないので、これをあなた方に託します。」

「黒竜に乗ってきた坊やだね。」

ギンは、さぐるようにウォルトを見やった。

「ミトラに留学予定の学生で、ウォルトといいます。お見知りおきを。」

クローディアがなにかいいかける、その顔の前に、ウォルトは手をひろげた。

「鍵は、陛下が渡したのではなく、ぼくが擦りとったのです。この先、なにが起ころうと、陛下には関係のないこと。
陛下は、これから起こることのあとのことをお考えください。」

「ふん。」とギンが鼻を鳴らした。「ひとつ、借りってことにしておくよ、ウォルト坊や。」
「一応、グランダでは成人の年ですので、坊やは勘弁してください。」

ふたりの姿は廊下の薄暗がりに溶けるように消えた。

ルトは、クローディアを振り返り、にっこりと笑った。

「夜はふけております。愛しいアウデリアさまの待つ、寝室におかえりください、陛下。」

「ルト殿にそっくりで別人の少年か。」
クローディアは苦笑した。たしかに目の前の少年は彼の知己にそっくりだったが、彼の感覚はそれを「別人」だと感じた。
この感覚にクローディアは覚えがあったのだ。
「・・・殿下、ですな。」

ウォルトは仮面でもはぐように、顔をつるりとなぜた。

「ああ、認識阻害も二回目だと警戒されますか。」
「この妙な感触に覚えがあったので。」クローディアは言った。「認識阻害は充分に効いています。わたしの感覚の中では、あなたはルト、ないしはハルト王子にとてもよく似た別人、としか思えない。」

「大したものです。実際、ラウレスにもギムリウスにもエミリアにも気がつかれなかったのに!
今回の認識阻害を見破ったのは、陛下が二人目ですよ・・・・・」
ルトは、首をひねった。
「いや、陛下が一人目ですか。ヴァルゴールの現身を『一人』とカウントするのはさすがに妙な気がしますので。」

「なんのためにこんなことを!」
クローディアは娘婿になる予定の少年に抗議した。
「意味もなくやっているなら、悪趣味ですぞ。」

「ぼくと、ミイシア・・・ああ、フィオリナ姫です・・・は、ミトラに潜入中です。さんざん嫌がらせをうけたランゴバルド冒険者学校が反撃するための第一歩というわけです。
なにぶんにも大きな街ですし、グランダやクローディア大公国の外交官もいますので、ぼくらをぼくらだと認識されたくなかった。
なので『認識阻害』です。正直、今回は弊害のほうを強く感じているのですが。」

「いま、少し事情を」
と、問いかけるクローディアをルトは制した。

「今宵は、いささか血なまぐさい夜になりそうです。
ドロシーにアキル。それにミランとオルガ。それにあの黒い傭兵が動いてます。あれが、銀灰皇国のオルガ姫ならば、運命の神様は劇的な演出がさぞ、お好きなんでしょうね。
ぼくは、彼女たちを止めるつもりです。」

クローディアは、ある意味諦めた。
もともと、流血を嫌う少年だった。
その彼が介入するというのなら、殺戮は最小限に抑えられるのだろう。

「わかりました。殿下にお任せいたします。」
「殿下はやめてください。ぼくは駆け出し冒険者のルト、ですよ。」

「ひとつだけ、聞きたいのだが」
クローディアは顔をしかめた。
「その『駆け出し冒険者』というふざけた名乗りを、本当に『踊る道化師』の連中は、我慢しているのですかな?」



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...