あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり

第272話 乱入

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ギウリークは動いた。
実はすでに貴族でも外交部でもなくなっていた人物の酒に酔った上での発言をもとに、条約の破棄が行われたことははなはだ遺憾であり、関係各者は一時拘束のうえ、詳細な事情を確認する。
アライアス侯爵とガルフィート伯爵からの連絡をうけて、ギウリークはそのように動いた。

カルフィートが知ったら、自ら剣を抜いてでも止めたであろうが、不幸にも彼は、パーティーの運営にかかりきりだった。

ということで、ルトたちが問題の多いダンスを(パートナーはフィオリナにチェンジして、なぜか彼は女性のステップを踏まされていた。リウはアモンと踊っていたが、最初のルト×フィオリナ以上に組手っぽいものになったので、周りは戦々恐々としていた。)踊っていた間に、ギウリークは、兵装を整えた一個小隊を送り込んできたのである。

もちろん。
これは、ガルフィート伯爵が護衛のために配置した兵によって止められた。
竜人の集団はともかく、同じ人間同士ならば、ガルフィート家の衛士たちは充分に優秀であったし、伯爵への忠誠心も伯爵家の衛士であることへの誇りもあった。
開始時刻も定めぬパーティーだったのでそのうちに、次から次へと高位の貴族や街の商会の会頭たちがやってきて、正面玄関は収拾がつかない状態になった。

そこに教皇庁の直属兵が到着した。
たれ込んだのは、ザフィルド伯爵だった。
先に、クローディアにくだらぬ問答を仕掛けた挙句に、魔王宮へのギウリークの一切の権益を失わせた、あのザフィルト伯である。
全ての責任、おそらく彼自身にも責任のないルールス暗殺計画まで一切合切の責任を取らされそうになった彼は、教皇庁の異端審問部に、親族がいることを頼りにクローディア大公を異端者として申告したのである。

さて、別世界とは異なり、この世界での異端審問部はたいして力のある部門ではなかった。
もともと、複数の「神」が同時に存在する世界である。

聖光教だけは、自らの名も無き神を唯一神とし、それ以外のすべての神を「力が強い精霊」として、他の神を信仰するものを「異端」としていた。
当然ながら、それほど強い態度に出られるわけもない。
おそらく、聖光教を信じるもので1度もほかの神の祠に参ったことのないものは、ミトラでも少なかっただろう。
十日ごとの安息日に必ず、教会で祈りを捧げる信徒でも、秋の収穫祭では豊穣の女神イスナに花を捧げて収穫を祝うし、試験の前には学業の神ミレトスネトストに、子が産まれれば幸運と健康の神ザザイレヤに。
それぞれの神殿を訪れて喜捨を行い、祈りを捧げるのだ。

我らの邪神、異世界勇者アキルことヴァルゴールも例外では無い。
神殿、と呼べる規模のものだけで、三つ、あった。
実際に生贄を捧げるものは少なく、まして人間を捧げようとするのもは皆無だった。
ミトラは12使徒アスタロトとミランの「贄場」であったが、人を生贄に捧げるようなとち狂った使徒と一般信徒は詣でる場所からして別物だったのである。

結局のところ、異端審問局は教皇庁直属の暴力装置として存在している。それだけなら、かなりタチの悪い存在だっただろうが、この街には冒険者ギルドや各有力貴族の私兵、様々な犯罪組織、謎めいた「仕掛け屋」と呼ばれる殺し屋たちなど、暴力装置には事欠かなかった。
異端審問局は、ある程度有力ではあるが、そのような暴力装置のひとつに過ぎなかったのである。

一体、この日のギウリークになんの悪魔がとりついていたのだろう。
戦闘に耐えうる局員を総動員した異端審問局の手勢は百を超えていた。
もはや小規模の戦である。
結果としては・・・
これを読んでいる我々は、「踊る道化師」が何者で何が出来るかは、よく知っているわけであり、戦闘になれば異端審問局のもの達がどうなるかはよくわかっているのだが、実際には戦闘すら起きなかった。

彼らとほぼ同時に到着したのが、聖女ミラ=イアだったためであり、彼女のひと睨みで、全員が震え上がって退散することになったからだ。

聖女が本当の聖女ミラ=イアの生まれ変わりであることを知るものは数少ないが、彼女が皇女リリーラであることを知らないものは皆無である。

教会内での地位も。
世俗的な身分も。
とても、太刀打ちできるものではなかったのである。

局長は(彼はザフィルト伯爵の傍系であり、教会内でも多額の資金援助をうけていた。)勇気を振り絞って、リリーラに話しかけた。
「しかし、ザフィルト伯爵より、正式な申し出があったのです。」
顔面蒼白で脂汗をしたたらせていたが、なにもせずに帰ったときの主家からの叱責もまた怖かった。
「簡単な訊問だけ。時間は取らせません。」
「誰を?」
「クローディア大公夫妻と各国の使節たちです。それに鉄道公社の局長。引退しロデニウム家を追われた前公爵とその連れの冒険者ども。」

斧神を、異端審問にかけるのか?
とリリーラは呆れた。
しかし、異端審問局の局長の目は血走り、得物は半ば鞘から抜かれている。

「ほいっ」
気の抜けた気合とともに、局長の剣は鞘の内から両断された。

「クロノ!」

リリーラが叫んだ。
「間に合ったの?
カテリアから昨晩から連絡が付かないって言われてて。」

「ひとりで修行をしたくてね!」

ああ、夜の修行のほうね。
と、ある意味、クロノを発見した聖女はつぶやいた。
腰を抜かして震えている異端審問局の局長に、優しくて怖い笑みを浮かべると、その臀を力任せに蹴りあげた。
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