あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり

第278.5話 古竜マーティスの厄日

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「ルト殿。」
ご老公は、困ったように言った。
「これは、ギウリーク内部の問題であって、しかもどうやら」
チラリと、政敵を見やった。
「どうもギウリークとしては、珍しく教皇庁ですら足をひっぱらない案件のようだ。」
「なにを言う!」
クオール枢機卿も、負けずに食ってかかった。
「グランダへの威圧外交は、外交部が勝手二やったことだ。ラウレス殿の解任は遡って取り消しとなっている。
つまり、法的にはラウレス殿は、今も昔も聖竜師団の顧問のままだ。」

ルトはラウレスの顔を見た。馴染みの黒竜は明らかに困っている。
自身は断りたいのだが、それでギウリークの竜人部隊が瓦解してしまうのも、悪いと思っているのだろう。
「わたしにわざわざ頼まなくても、後任がいたではないですか。たしか閃光竜のマーティスが」

「ちょっと、まったぁああ!」
そこへ、当のマーティスが駆け込んできた。怜悧な美貌が印象的な女性の姿を取っていたが、青い目は血走り、濁ってあまり見栄えがいいとは言えなかった。

「クオールよ、わたしはラウレスを告発するぞ。」
「藪から棒に如何されました、マーティス殿。」

聖竜師団を招いた食事会の席上で、マーティスは、ラスレスを愚弄しようとしてしっぺ返しを食って、そのまま姿をくらましていたのだ。

「こ、こいつは、神竜姫リアモンドさまの鱗を2枚ももっていたのだ!」
マーティスは、枢機卿の襟首をつかんだ。細身の女性に見えても古竜の怪力だ。老枢機卿の顔がみるみるどす黒く変色していく。
「わかるかっ!」マーティスは叫んだ。「東域に伝わった神竜の鱗、このミトラ大聖堂の鱗、そしてランゴバルド博物館の鱗を強奪し、手中に納めようとした犯人がこの駄竜なのだ。」

枢機卿は口をパクパクさせたが、自分の推理によったマーティスは、相手が瀕死にあることも気が付かなかった。

これでは、誤解を正すまでもなく相手が死んでしまう。
ルトはため息をついた。あまり、刃物は持ち出したくなかったが、仕方ない。
魔術による疑似竜鱗で、むこうの防御を相殺してやればなんとかなるだろう。
だが、彼が行動を起こすまもなく、クローディア家の侍女の制服にを身につけた女性の手が、胸ぐらを掴んだ古竜の腕をそっとつがんだ。
古竜の力に人間の女性が対抗出来るはずもない。
だが、古竜の腕はやすやすと引き剥がされた。

マーティスは化け物を見るような目で、フィオリナを眺めた。

「変な動きをすると腕を落とすよ。」
グルジエンが包丁を鳴らす。

「こ、これは」
ご老公や、蹲ってぜいぜいと息をつく枢機卿、何事かと集まった列席者の全員からの冷たい視線をあびて、さすがにマーティスはたじろいだ。
「すまぬ、クオール、いささか力が入りすぎて」
それから、フィオリナを振り向いた。
「手を離せ、下賎の輩が!」

マーティスは、クオールを殺そうとした訳では無い。本人の弁明通り、つい力が入りすぎただけだった。 
つまり、本気で力を込めているわけでは、決してなかった。

古竜のひと睨み。それで人間などは抵抗の意志を失う。
だが、この人間は静かにマーティスを見返しただけだった。
「離せっ!」
マーティスは、指先に竜爪を出現させた。

一応は、弁護しておく。マーティスは殺意は全くない。ただ、この馬鹿力の女をちょっと脅すだけのつもりだった。
フィオリナは、すっとマーティスの手首を離した。そして、改めて中指だけをにぎって。

そのままへし折った。

列席者たちは「竜の悲鳴」という世にも珍しいものを耳にすることになった。

「治せ。」
フィオリナにも悪気はない。折れた指くらいすみやかに治癒できるだろうと思っていたまでだ。
さっきまで「踊って」いたグルジエンの回復力が異常な部類だったのでつい誤解した部分もある。
だが、もともと強固な防御力をもつ生き物のなかには、そもそも傷つくことがないため「治癒」という概念すら薄いものもいる。

マーティスはまさにそのタイプだったらしい。
折られた指を抱えてうずくまったその額に、苦痛の脂汗がにじんでいた。


こんなところで、キレられてもかなわないので、ルトは治癒魔法を発動させた。
点滅する淡い光がマーティスの手を包む。

「き、きさまっ‥ラウレスの稚児か。こんなことをしたくらいでごまかされると」

フィオリナが、にっこり笑いながら、マーティスの手をとる。
蒼白になったマーティスが押し黙った。

「おーい、ラウレス、追加の注文はいいか?」

竜王の牙のリーダー、リイウーは酒瓶を片手に、陽気に叫けんだ。
「り、竜王の牙」
マーティスの顔がパッと明るくなった。飛び上がるようにして、道化服のリイウーに駆け寄る。
「よくぞ、お越し下さいました。わたしはいま、神竜の鱗を独り占めしようとするラウレスを糾弾しているところに、このメイドの格好をした悪魔に邪魔をされ‥」

ペチン。
虚空から現れた尻尾がマーティスを叩き潰した。

「なに? 聖竜? そんなことは後回しにして、なにか焼いてくれないか、ラウレス。」

自慢の特殊戦力の顧問の依頼を「そんなこと」呼ばわりされたクオール枢機卿は、今度は怒りで顔をどす黒く変色させたが、ご老公の“ガルフィートが頼んだ古竜じゃ”という耳打ちに目を白黒させて、黙り込んだ。

依頼を受けたラウレスは、喜んでハンバーグをこねる作業に戻った。
ルトもそっちを手伝おうと、あとを追った。
その彼らを追うように、ご老公が声をかけた。

「ラウレス殿! ルト殿!
なにとぞ、聖竜師団の顧問をっ!」
「ご自身がご無理でしたら、なにとぞ、お知り合いの古竜を紹介いただけませんでしょうか?」
クオール枢機卿も会場に現れたときの尊大さはカケラもなく、平身低頭せんばかりだ。

「だったら、わたしを」
「マーティス殿はお黙り下さい。」

ルトは足を止め、ちょっと考えた。

「フィオリナ、どう思う?」

乱暴ものの美しい婚約者殿は、ああ、と首を傾げた。

「恩を売っておいてもよいかと思う。」
「わかった。ならご老公。わたしたちの知己の竜をご紹介しましょう。」

“まさか、アモンじゃないだろうな? 彼女がうんと言うとは思えないぞ。”
フィオリナとルトは素早く指文字を交わしている。

“会場のどこかにレクスがいる。あれを紹介してやれ。”
“あれは『神鎧竜』だぞ。”
“そうだよ、ギウリークも聖光教のいうこともきかない竜が、聖竜師団の最高顧問につくんだ。愉快だろ。”
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