あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第7部 駆け出し冒険者と姫君

第319話 銀雷の魔女、怒る

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銀灰皇国『死』侯爵アザンは自分が窮地に追い込まれたことは自覚していた。
だが、諦めるような状況ではない。

彼の作った擬似アンデッドは、信じらない方法で無効化されつつある。
こちらに向けて移動中の大群は、全て彼の意識からは切り離された。
直接、操っていた冒険者の意識も、あの美貌の吸血鬼の牙が喉笛に入り込んだ瞬間に、消失した。
これは、アザンの方から切り離したのだ。

そうでなければ、あの冒険者の意識を通じて、彼の方が侵食されていただろう。
真相であることは眉唾としても、恐ろしく長い年月を生きた恐ろしい吸血鬼なのは間違いない。
そしてまた。
目の前の、褐色の肌をもつ吸血鬼も同様な方法で、彼の軍団を蹴散らしていく。

こんな方法で、術が破られるとは、想像だにしていなかったアザンであったが、これは彼を責めるのは酷だろう。
たまたま、敵対するものの中に、強大なおそらくは爵位もちの吸血鬼が複数いることなど、誰が想像するだろうか。

アザンの目の前には、闇姫がいた。それともう1人、同じくらい恐ろしい匂いのするオンナと。
そして、さきの真祖と名乗った吸血鬼を含むチームもまもなくここに到着するだろう。

だが、アザンは絶望はしていない。
とにかく、ここを離脱すればよいのだ。捲土重来はあらためて考えよう。

闇姫たちは、目の前だった。褐色の肌の吸血鬼はさらに近い。だがアザン二もっと近いものがいた。
彼を保護しようと抱きしめてくれた女だった。

おそらく、戦いの経験はないのだろう。
なにが、どうなったかわからないまま、彼をしっかりと抱きしめている。

アザンは、彼女の顔を覗き込んだ。 アザンが相手を支配する方法は複数あったが、一番、効果にすぐれているのは、目を合わせることだった。
ヤザンは、たしか空色をしていたはずの、その女の目を覗き込もうとして、失敗した。
女の眼球のあるべきところには、うずまく光の玉があった。

それは、それ自体が強大な魔力をもち、アザンの力を朝日の前の星のようにせ消し去った。

「あ、」
アザンの喉に、ささやかに牙が付き合った。絶望よりも早く、アザンの意識はロウ=リンドに忠誠と愛情を違うように塗り替えられていった。

「ひどい損害だよ。」
ルトは顔を顰めている。
「被害者はざっと三百人。自分を生けるる死者と勘違いして、怪我をしないわけはないんだ。多少の怪我ならほぼ全員、骨折も含めて病院出手当手が必要そうなのは、50はいるよ。」

そこまで、「被害」にカウントすべきかどうかは、フィオリナには疑問だった。
このままいけば、街の守備隊は、このアザンとかいう魔導師のことなどなにも考えず、一見アンデッドに見えるその犠牲者たちを討伐していただろう。
そうなれば、ちょっとは寝覚めが悪いがそうなる前に、処置できたんだから、そこは喜ぼうぜ、と思うフィオリナだった。

「これで最後かな?」
と、ルトはオルガにきいた。
「たぶんな。他の競合がいるときには、絶対にしかけぬ、男だし。」
「はい、ワレでこたび、銀灰からきた闇姫討伐隊は最後です。」

オルガにかわって、アザンがはきはきと答えた。
能力にも記憶にも、まったく左右していない。ただ。その価値観だけがかわったのだ。ロウが頭を撫でてやると、アザンはトロリとした目で気持ちが良さそうに目をつぶった。

気味悪そうに、ルールスはヤザンの小さな体を地面におろす。
「壊れた建物もけっこうあるよ。」

ルトが、あちこち、破損した壁や窓、凹んだ街路などを、チェックしてるのを、ドロシーは、優しく蹴っ飛ばした。

「な、な。な、なにっ!」
「ワザとか本気かは分かりませんけど、探してる相手が目の前にいる状況から逃げるのはよくないと思います。」

「い、いやその」

「とりあえず負傷者の救助は、わたしたちでやりますから」
ドロシーは、ウインクしてみせた。 
「お二人はお好きなように。」


本当に。
ルトは、フィオリナと、二人きりにさせられた。

お世話焼きの真祖も、あの少年侯爵の襟首をつかんで、飛んでいってしまうし。

「ええっと」
ルトは、フィオリナに言った。
「とりあえず話そうよ。」


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