あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第7部 駆け出し冒険者と姫君

第318話 最後のひとり

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一度にこれだけの人数を意のままに操るものだとすれば、それは確かに恐ろしい術である。
アザンの、術の影響下に置かれたものは、自分を「死者」だと思い込み、アザンの意のままに動くのだ。

「自分はすでに死んでいる」と思うから、通常の催眠ではありえないような、怪力を震い、通常は禁忌によってぜったいに行わないような殺人や自己を痛めつけるような行動も厭わない。
さらに、周りのものは「屍人に噛まれた」という精神的なショックにより、アザンの術にかかりやすい状態にある。

一つの都市に対するテロ活動としては、これに勝るものはないかもしれない。
戦場にうまく投入すれば、敵を同士討ちさせることができるかもしれない。そのまま、軍を瓦解させてしまうことも可能であろう。

だが、一個人の暗殺、という面にとってみれば果たしてどうなのか。

まず、不要な犠牲者がとんでもなく増えるだろう。
敵対もしていない他国の街で、アザンの術を行えばその国の損害はいかなるものになるか。
さらに、目標がオルガのように卓越した戦闘力を持っていたならば、せいぜい下級のアンデッド程度の能力しか持たないアザンの傀儡では仕止めきれない可能性が高いのだ。

「恐れられている、というよりも嫌がられてるんだと思いますね。」
と、ルトは結論付けた。
「自分は死んだ、と思い込まされているので、普通の人間ならリミッターがかかる力も平気でふるってしまいます。結果は自分の骨折や筋肉の断裂ですね。
あと、『自分がもう死んでいる』と思い込むことによる健康被害もあるかもしれません。
そもそも、水も食べ物も摂取しないわけですからほっておいたら、ほんとに死んじゃいます。」

「見抜いたのは見事だ。だが、それをどうやって破る!?」
アザンに操られた冒険者は、喚いた。
「我の『死者』はいくらでも増大する。一人二人は倒せても何百何千の『死者』は殺せまい。殺しきれまい。それが本当にアンデッドではなく、我の支配下に置かれた罪もない人々だと、おまえが理解しているのならなおさら、だ。」

「ああ、残念!」
ルトは、からかうように手をヒラヒラと振った。
「オルガは、そういうことに一番無頓着でしょう。
それに、幸いにぼくの仲間には、真祖の吸血鬼がいます。彼女の魅了なら、あなたの催眠をより強力に上書きできるでしょうね。
そうだ。もともと『自分はもう死んでいる』と思わされてる人たちには、『自分は吸血鬼になった』というのは、簡単に思い込みやすいことかしれません。」

実際に。
ロウは、一応サングラスと口元を覆うストールは外したが、とくになにかの術を使ったようには見えなかった。
二言三言、話しかける。
視線を合わせる。

それだけで、自分が「死んでいる」と思い込まされた人々は、ばたばたと倒れ、そのまま眠りに移行した。

「なにをするっ!」
冒険者に取り憑いたアザンは、叫んだが、その前に立ったロウは、やかましい、とだけ言って、そののど首に牙を立てた。




「わぁぁああっ」
保護した子どもが、急に泣き出したので、ルールスは慌てて少年をしっかりと抱きしめた。
母性的とは、とてもいえないルールスではあったが、彼を守ってやらねば、という本能が反射的に働いたのだ。

目の前には、殺気の固まりのようなフィオリナがいる。
その首にしがみつくようにして、オルガがいた。

「な、なんなのだ。この騒ぎはっ!」
「まったく酷いもんだな。」
フィオリナは怒りの表情のまま、同意した。
「これだけの騒ぎに、なっても
治安機構の介入はゼロだ。西域列強の首都が聞いて呆れる。」

「これは、あなたさまを狙った攻撃ですか?」
ネイアは、オルガにきいた。
フィオリナは、よほど無茶な飛び方をしたのだろう。頑健な銀杯皇国の皇位継承者は、力なくフィオリナにもたれかかっている。

「うむ。これが最後のひとりじゃろ。死侯爵アザン。」
「アンデッドを無限増殖させる攻撃か?」
ルールスが気味悪そうに尋ねた。街路のむこうから、不気味な死者の一団が迫ってくる。

「あれは、わたしとオルガだけを標的に襲うようにコントロールされている。」
「かまわん。少々、被害が出ても。」
ルールスが、子どもをしっかりと抱え込みながら言った。
「粉砕して焼き尽くせ、ネイア。」
「どうもその必要は無さそうです、ルールスさま。」

ゆっくりと。
緩慢とさえ言える動作で、殺到する死者の群れに向き直ったネイアの目は、赤光を、放っていた。

目が合ったものから、ばたばたと、倒れ、意識を失ったのかそのまま、ビクリとも動かない。
「死者の支配が効いたのか?」
とルールスが言った。
「さっきは、効かなかったと・・・」

「これは『魅了』です。」ネイアは説明した。「彼らはアンデッドではありません。魔導師の精神的支配によって動かされているだけなんです。」

「元凶は・・・」
「アイツです。」
ルールスの腕のなかの少年が身の乗り出して、オルガを指さした。
「全ての悪の元凶にして、夜に災いをもたすもの。」
「冷たいことをいうなアザン。」
オルガは、まだぜいぜいと荒い息をついていた。
「嫌われ具合ではどっちもだろうか。」

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