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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第335話 超越者の意志
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グルジエンの作り出す異界は、基本的には岩山の世界である。
平地はあるが、岩がゴロゴロしているばかりで、暮らすには、どうだろう。
グルジエンが元いた世界をモデルにしたものだから、人間には確かに住みにくいかもしれない。
互いに回復魔法を掛け合って、ルトとフィオリナは体を起こした。
その様子は、本当に仲睦まじく見え、グルジエンを当惑させる。怪我の原因を作ったのはお互いなのに。
「ぼくは、昨日、ロウ=リンドといたんだ。」
ルトは言った。
「フィオリナはなかなか帰ってこないし、ラウレスもなんだか、歌の練習とかで集められたんで、一緒にごはんを食べた。」
そ、それで!?
とフィオリナが体を乗り出す。
「いや、話をしただけだってば! 節操のない魔王リウ殿と一緒にするな、ロウは」
「真祖の吸血鬼。」
「そういえば、そうだけど。」
とルトは首を傾げた。
「吸血衝動は、元々従属種を作るときに弱点として課すペナルティ見たいなものだから、ロウにはそんなものはないんだろう。
で、きみとの結婚話になった。
リウたちが、随分と熱心に、参列者を募ってくれてるのを、ちょっと文句を言ったんだ。
そうしたら、実は彼女も、ぼくらの結婚を心配してるって。
その理由が、『星が読めない』からなんだそうだ。」
「何それ?」
フィオリナは不満げに言った。
「もう一回、首でも切られたいのかな? そんなくだらない理由にもならない理由で。」
「そればかりじゃなくて、アキルもアウデリアさんも似たような理由で、反対らしい。」
「似たような理由?」
「あの二人は、今は、人の身ではあるけれど、『運命』とやらがある程度、見えるんだそうだ。」
「なによ。わたしたちが一緒になると、世界でも破滅するっていうの?」
ルトは、黙った。
少し考えてから言葉を紡ぐ。
「ぼくもフィオリナも少なくとも今は、ただの有限寿命者だ。有限寿命者には必ず運命がついてくるらしい。それは決して克服できないものではないのだけれど。」
ルトは、そこまで言ってまた、黙った。
二人の回復魔法は、体に対するもので、衣服は、戦闘でボロボロになったままだ。
見方によってはエロティックなはずだが、お互い全く意に介さない。
「奴らが、つまり神様と真祖様がいうには、ぼくらが今、結婚してしまうと運命がなくなるんだそうだ。」
「なんだか、さっぱり。」
とフィオリナが言った。鼻に皺を寄せているのが猫が怒ったように見える。
「なければどうだっていうの?」
「そうだな。例えば、ランゴバルドの街だ。機械馬の引く馬車は、お互いに衝突したり、人間に当たったりすれば大惨事になるスピードで走り回っている。
いくら注意していても道が交差する場所など、ルールを決めておかねばどうしようもない。
そのために信号機が作られ、道のどちら側を進むかも綿密に決められている。道によっては一方にしか進めない路地もある。
そこで、一台の馬車だけが、ルールを無視しようとする。
被害はその一台の馬車だけで済むと思うだろうか。」
「なるほど。」
フィオリナの不愉快そうな顔は、変わらないが、それでも一応は頷いた。
「つまり、彼らの言う『運命』って言うのは、世界が運行するためのルールみたいなものなのね。
わたしたちの結婚がそれを壊す、と。」
「まあ、ロウの言うことだから、とその時は、軽く聞き流したんだけど。
アウデリアさんは虫の居所が悪かっただけかもしれないし、アキルも、まあちょっとアレなので。
でも少なくとも、有限寿命者ではない三人が三人ともに同じ意見だということはわかった。
一方で、ぼくらの結婚に賛成、または反対をしていないのは、ドロシー、オルガ、グルジエン、まあ、普通の人間と言い切ってしまうには、過ぎた力を持ってるものもいるが、一応は、人間の範疇だ。
そこで、一見ぼくらの結婚を、積極的に後押ししてるかに見えてた、リウまでが実は結婚反対だと言うと・・・」
「その場合、ギムリウスとアモンは、あれも立派な超越者よ?」
「ギムリウスはそもそも『結婚』がなんなのかわかっていない。ぼくらが何か面白そうなイベントをやるので喜んで、協力しているだけだ。アモンたち古竜は全員がその」
ルトは、頷いた。
「『超越者』か。うまい言い方だね。使わせてもらう。古竜は全員が超越者だ。だから、元々運命なんてものにコントロールされないことに慣れている。プラス、竜には結婚という制度がない。子育てのために一時的に、番が一緒に暮らすことはあるみたいだけど、その永続性は全く考慮されていない。
アモンは、ぼくらの『結婚』もそんなものだと考えている節がある。」
「わかった。というか、彼らの言いたいことはわかった。
けど、どうするの?
なんだかその・・・」
フィオリナは、空を睨んだ。たぶん、睨まれたのは『運命』と称する神が、あるいは世界が定めたルールそのものだと思う。
「そいつの思うがままにされるのは気に入らない。わたしは、わたしたちは、わたしたちの意志で決めて、わたしたちの意志で動く。」
「まずは、ぼくの不確かな推論をもう少し、裏をとってみようと思う。」
ルトは、立ち上がった。
「ぼくらの関係者で、超越者と言えるのは、後は、ウィルニアだ。ご招待がてら、彼の意見を聞いてみようと思う。それまでは」
「はいはい。」
フィオリナは、両手を上げた。ボロ布と化した服の下から、胸が露わになった。
「それまでは大人しくしてろってことね?」
「いや、ミュラ先輩も来てるし、大人しくするのは無理だろ。」
ルトはやや冷たく言った。
「ただ、リウとの間に子どもでも作られたら、運命よりも前に、世界が破滅するかもしれないから気をつけて。」
「わたしとリウの子どもが世界を滅ぼすっていうこと?」
「ぼくが世界を滅ぼしにかかるかもしれないってこと。ぼくだって、嫉妬することはあるんだ。」
フィオリナは、極上のワインと間違えて泥水でも飲んだような顔をした。
「グルジエン!」
はいはい。
と、すっかり肝を冷やした美しくて(メイドとしては)無能な、絶魔法士は、フィオリナの前に膝まずいた。
いかが致しましょう。古竜どもの首でもあげてきましょうか?
「着替え持ってない? これじゃ、外に出られない。」
そんなところだけ、今更常識ぶるなよ、とグルジエンは、心の中で毒づいた。
平地はあるが、岩がゴロゴロしているばかりで、暮らすには、どうだろう。
グルジエンが元いた世界をモデルにしたものだから、人間には確かに住みにくいかもしれない。
互いに回復魔法を掛け合って、ルトとフィオリナは体を起こした。
その様子は、本当に仲睦まじく見え、グルジエンを当惑させる。怪我の原因を作ったのはお互いなのに。
「ぼくは、昨日、ロウ=リンドといたんだ。」
ルトは言った。
「フィオリナはなかなか帰ってこないし、ラウレスもなんだか、歌の練習とかで集められたんで、一緒にごはんを食べた。」
そ、それで!?
とフィオリナが体を乗り出す。
「いや、話をしただけだってば! 節操のない魔王リウ殿と一緒にするな、ロウは」
「真祖の吸血鬼。」
「そういえば、そうだけど。」
とルトは首を傾げた。
「吸血衝動は、元々従属種を作るときに弱点として課すペナルティ見たいなものだから、ロウにはそんなものはないんだろう。
で、きみとの結婚話になった。
リウたちが、随分と熱心に、参列者を募ってくれてるのを、ちょっと文句を言ったんだ。
そうしたら、実は彼女も、ぼくらの結婚を心配してるって。
その理由が、『星が読めない』からなんだそうだ。」
「何それ?」
フィオリナは不満げに言った。
「もう一回、首でも切られたいのかな? そんなくだらない理由にもならない理由で。」
「そればかりじゃなくて、アキルもアウデリアさんも似たような理由で、反対らしい。」
「似たような理由?」
「あの二人は、今は、人の身ではあるけれど、『運命』とやらがある程度、見えるんだそうだ。」
「なによ。わたしたちが一緒になると、世界でも破滅するっていうの?」
ルトは、黙った。
少し考えてから言葉を紡ぐ。
「ぼくもフィオリナも少なくとも今は、ただの有限寿命者だ。有限寿命者には必ず運命がついてくるらしい。それは決して克服できないものではないのだけれど。」
ルトは、そこまで言ってまた、黙った。
二人の回復魔法は、体に対するもので、衣服は、戦闘でボロボロになったままだ。
見方によってはエロティックなはずだが、お互い全く意に介さない。
「奴らが、つまり神様と真祖様がいうには、ぼくらが今、結婚してしまうと運命がなくなるんだそうだ。」
「なんだか、さっぱり。」
とフィオリナが言った。鼻に皺を寄せているのが猫が怒ったように見える。
「なければどうだっていうの?」
「そうだな。例えば、ランゴバルドの街だ。機械馬の引く馬車は、お互いに衝突したり、人間に当たったりすれば大惨事になるスピードで走り回っている。
いくら注意していても道が交差する場所など、ルールを決めておかねばどうしようもない。
そのために信号機が作られ、道のどちら側を進むかも綿密に決められている。道によっては一方にしか進めない路地もある。
そこで、一台の馬車だけが、ルールを無視しようとする。
被害はその一台の馬車だけで済むと思うだろうか。」
「なるほど。」
フィオリナの不愉快そうな顔は、変わらないが、それでも一応は頷いた。
「つまり、彼らの言う『運命』って言うのは、世界が運行するためのルールみたいなものなのね。
わたしたちの結婚がそれを壊す、と。」
「まあ、ロウの言うことだから、とその時は、軽く聞き流したんだけど。
アウデリアさんは虫の居所が悪かっただけかもしれないし、アキルも、まあちょっとアレなので。
でも少なくとも、有限寿命者ではない三人が三人ともに同じ意見だということはわかった。
一方で、ぼくらの結婚に賛成、または反対をしていないのは、ドロシー、オルガ、グルジエン、まあ、普通の人間と言い切ってしまうには、過ぎた力を持ってるものもいるが、一応は、人間の範疇だ。
そこで、一見ぼくらの結婚を、積極的に後押ししてるかに見えてた、リウまでが実は結婚反対だと言うと・・・」
「その場合、ギムリウスとアモンは、あれも立派な超越者よ?」
「ギムリウスはそもそも『結婚』がなんなのかわかっていない。ぼくらが何か面白そうなイベントをやるので喜んで、協力しているだけだ。アモンたち古竜は全員がその」
ルトは、頷いた。
「『超越者』か。うまい言い方だね。使わせてもらう。古竜は全員が超越者だ。だから、元々運命なんてものにコントロールされないことに慣れている。プラス、竜には結婚という制度がない。子育てのために一時的に、番が一緒に暮らすことはあるみたいだけど、その永続性は全く考慮されていない。
アモンは、ぼくらの『結婚』もそんなものだと考えている節がある。」
「わかった。というか、彼らの言いたいことはわかった。
けど、どうするの?
なんだかその・・・」
フィオリナは、空を睨んだ。たぶん、睨まれたのは『運命』と称する神が、あるいは世界が定めたルールそのものだと思う。
「そいつの思うがままにされるのは気に入らない。わたしは、わたしたちは、わたしたちの意志で決めて、わたしたちの意志で動く。」
「まずは、ぼくの不確かな推論をもう少し、裏をとってみようと思う。」
ルトは、立ち上がった。
「ぼくらの関係者で、超越者と言えるのは、後は、ウィルニアだ。ご招待がてら、彼の意見を聞いてみようと思う。それまでは」
「はいはい。」
フィオリナは、両手を上げた。ボロ布と化した服の下から、胸が露わになった。
「それまでは大人しくしてろってことね?」
「いや、ミュラ先輩も来てるし、大人しくするのは無理だろ。」
ルトはやや冷たく言った。
「ただ、リウとの間に子どもでも作られたら、運命よりも前に、世界が破滅するかもしれないから気をつけて。」
「わたしとリウの子どもが世界を滅ぼすっていうこと?」
「ぼくが世界を滅ぼしにかかるかもしれないってこと。ぼくだって、嫉妬することはあるんだ。」
フィオリナは、極上のワインと間違えて泥水でも飲んだような顔をした。
「グルジエン!」
はいはい。
と、すっかり肝を冷やした美しくて(メイドとしては)無能な、絶魔法士は、フィオリナの前に膝まずいた。
いかが致しましょう。古竜どもの首でもあげてきましょうか?
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