あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第8部 残念姫の顛末

第374話 ナンバーズとユニーク

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相手は歳のいかぬまだ、少年のように見える。だがシチカもマロクも油断はしなかった。
構えただけで、その剣技の冴えがわかる。 そして、この少年、ヤイバがもし人の姿をした魔物ならば。
知性を持った魔物は、災害級と呼ばれる。

迷宮の階層主ですら、まず見かけない希少な存在だ。彼らは学ぶことが出来る。欺くことができる。約束することもそれを裏切ることもできる。
対峙するなら、銀級以上のパーティで。 それが知性のある魔物と戦う時の常識だった。

シチカは、深く息を吸う。
それと共に、全身の緊張をといていく。
体は、ゆるゆるととけていく。
災害級の魔物との対峙は、緊張感すら許されないのだ。

ヤイバは、剣をもった両腕をだらりと下げていた。
なんの構えもとろうとしない。だがそれは、まるで昔昔の剣豪と対峙しているかのような感覚をシチカに与えた。

シチカは、自らの剣を高く振り上げた。
袈裟懸けの斬撃。
なにより。速度を重視した一刀両断の構え。
そのまま、間合いのわずかに前で立ち止まる。そのタイミングで、ヤイバは1歩、踏み込んだ。さかしまに足元から跳ね上がる斬撃。相打ちならば。
相打ちならば、ダメージが互角ならばそれは魔物の勝ちである。
もっている生命力が余りにもちがうからだ。

だがシチカの狙ったのは、ヤイバの剣そのもの。
ヤイバの剣がそう動くことを予想して、後の先をとったのだ。
少年の手首を切った傷はいずれも浅い。だが、手持ちの剣を手放してしまうには十分な傷だった。
そして、返す刀で今度こそ、少年の華奢な体を袈裟懸けに。

だが。
シチカの斬撃は、ヤイバの剣が迎え撃った。彼の腰に下げられた剣。その1本が勝手に動いて、シチカの剣をはね上げたのである。

ありえぬ異常に、シチカは身を引いた。
今まで、自分がいたところを、斬撃が走る。

なんということだ。

この、少年の剣は握らずとも勝手に動いて、己を守り、また相手を攻撃する。
いや、そうではない。そうですらない。
この少年の剣は、柄に手をかけずとも、その意思に従って、自在に動くのだ。

マロクが撃った火炎弾を、ヤイバの生み出した衝撃波が相殺した。

「シチカっ!」
マロクが飛び込みざまに、拳を。肘を。膝を打ち込む。そこは剣ではなく、拳の間合い。そして、そこでの撃ち合いは拳士が一歩有利なはず。
だが、全ての、攻撃をいなされて、後退したマロクの肩、頬、脛から血が滴っていた。
そうなる、と予想していたから、それですんだのだ。
本気で打ち込んでいたら、すべてが致命傷に、なっていたかもしれない。

「シチカ!
こいつも蜘蛛の化け物だっ!」
マロクは叫んだ。
「剣に見せているのは…擬態だ。やつの剣はすべてやつ自身の脚だ!」

シチカは呻いた。
自らが剣の達人であるがゆえに、その意味がわかったのだ。
名剣の切れ味をもつ脚が都合、10本。
拳撃とかわらぬスピードで、彼らを襲う!
「その通り。」
少年は、ふたたび、だらりと両手を下げた。
「正確には、両手両足で一対ずつ使ってるわけなので、剣に擬態した脚は都合、6本ということになるよ。」
相変わらず、ヤイバの口調はノンビリしたものだった。
その理由は、シチカとマロクには分かっていた。
ヤイバは、こちらを敵と見なしていない。
仕掛けられたので応対しただけで、そもそも積極的に、排除する必要すら感じていないのだ。

「おまえはなにものだ?」
血が滲むほどに、唇をかみしめた、シチカが尋ねた。

「さっき言ったよ。」
少年は明るく答えた。
「グランダの冒険者ヤイバ。パーティ『緋色の研究会』の一員だ。」
「表で大聖堂を食っている緋色の蜘蛛との関係は?」
「ああ、それは誤解だし」
ヤイバは困ったような表情を浮かべた。
「緋色の研究、はリーダーのドルバーザの使う光輪が緋色だからそう言ってるのさ。あとは、剣士のミア=イアに、人形のテオ。」

ヤイバは、ふたりを見つめながら言った。
「ゴウグレの蜘蛛なんかに、席をあける余裕はないね。」


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