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第8部 残念姫の顛末
第375話 蜘蛛の武人
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シチカは、慎重に言葉を選んだ。
一刻も早く、この化け物を突破して魔方陣を破壊しなければならない。
だがどう考えても簡単にはいかなかった。
ヤイバと名乗るこの少年は、少なくとも単純な戦闘力においては二人のナンバーズを上回ったのである。
しかもいまだにその実力の片鱗すらみせていない。
「関係ないといいながら、いろいろとよく知っているようじゃないか。
ゴウグレの蜘蛛とはいったいなんのことだ?」
「ゴウグはぼくの生まれるはるか前に主のもとを去った創造物だ。
知性を強化したタイプと聞いている。独自のタイプの眷属を作り出す能力を持っている。」
「ゴウグレとやらも、また蜘蛛の魔物なのか?」
隙あらば強引にでも突破して。
マロクとシチカはそう考えていたが、ヤイバはまったくスキをみせなかった。いやスキはみせてくれていたのだが、それに乗れば、次の瞬間、斬殺死体となる。
名門ロデリウム公爵家の精鋭に、そう思わせるものがあったのである。
「ぼくらの体が蜘蛛に似ているのは、戦いに向いていたから、主上がそうして、それだけのことだよ。」
「主上とは、誰なのか?魔導師なのか?それともどこかの国の王なのか?」
「聞きたければゴウグレにきいてよ。」
「ゴウグレはどこにいるのだ?」
「質問攻めだね。」
だが、ヤイバは不快そうではない。会話を楽しんでいる。
そういえば、彼らがこの部屋にに侵入したときも本を読んでいた。
その本は。まだテーブルのうえに置かれたままだ。
タイトルはいま、グランダで流行っているのだろうか。転生したら蜘蛛のモンスターだった話しだ。明らかにこの少年が読むのにふさわしくないようだが、そういった無駄を楽しめる精神をもっているのだ。
「ゴウグレは、ランゴバルトにいるはずだ。冒険者学校に通ってる。」
「蜘蛛の化け物が、か?」
「いや、ゴウグレは、ぼく以上に人間の外見に近いはずだよ。」
ヤイバは、手を広げた。
攻撃するのか、とマロク、シチカは身構えたが、それは単に自分の体をよく見てもらおうと、しただけのようだった。
「ゴウグレには変身能力もないから。別にひとに混じって暮らすには何の問題もないはずだ。」
「なんとか、ゴウグレに連絡をとって、大聖堂の破壊をやめさせてもらえないか。」
ダメもと、でシチカは言ってみたのだが、この言葉は意外に効果があった。
「そんな風に頼むのはそちらの勝手だよ。ただ、ぼくらは主上の命令で動いているのであって、ゴウグレにもとめることはできないと思うよ。」
「ならば、その主上と話をさせてくれ。」
シチカは頼み込む。
このヤイバという少年をこれほどまでに、人間的に作ったのなら、あるいは説得が可能かもしれない。
「それは構わないと思う。うん、それが一番いいだろう。」
そう言いながらも、ヤイバがこちらを見る目は、気の毒そうだった。
「でも、主は『試し』の終わっていない有限寿命者の話なんて、まともに聞かないと思うから、まず『試し』をされると思う。
主もいまは、冒険者だから、やたらに殺さないように細心の注意は払うから、ぼくとこのまま戦うよりも生き残れる可能性は遥かに高い。」
話しをしているうちに、ヤイバは自分でも納得したようだった。
「うん、そうだ。その方がいい。もっといいのは、すでに試しが終わった者を通じて話しをしてもらうことだ。これなら、きみたちに命の危険はほとんどなくなる。」
「ありがたい。」
シチカは素直に礼をいった。
「では、我々が依頼すべき『試しの終わった』者と説得すべき主上が、誰かを教えてもらえるだろうか?」
「我が主は、神獣ギムリウス。」
この名前は、二人の精鋭を凍り付かせた。
「主に頼み事をするのなら、クローディア大公がよいだろう。主はクローディア大公に特別な恩義を感じているようだ。」
二人は視線を合わせて、頷き合った。
クローディア大公の滞在するアライアス侯爵の別邸ならば、ここからはほど近い。
そして、クローディア大公が、その主…神獣ギムリウスと連絡をつけられれば。
「あ、ありがとう、ヤイバ。」
「うむ、よき冒険者は、不必要な命のやりとりはしないものだ。」
少年も満足そうに笑った。
「しかし、きみたちの技は興味深かった。今度は体も武具も完全なときに改めて手合わせを願いたい。」
蜘蛛が進化した怪物が人間だった。
これだけでもあり得ないことないのに、それが尊敬に値する武人だということなど、ありうるのだろうか。
今度こそシチカとマロクは、敬意をもって少年に頭を下げて、脱兎の勢いでアライアスの別邸を目指した。
唯一の懸念事項は、彼らがクローディア大公と話しをし、さらに大公がギムリウスを説得している間に大聖堂が、食べ着くされてしまうのではないか、ということくらいだった。
二人が去って、数分後。
訪れた者たちは、さらにタチが悪かった。
今度は命を奪わずには終わらないな。
ヤイバは、嘆息して立ち上がった。
「やあやあ! 異世界勇者アキル参上だよ!」
これはまあ、いいとして。
「ドロシーと申します。そこをどいていただけませんか。」
「うむ、問答無用! わらわの好きな言葉なのじゃ。」
あとのお二人は明らかに先ほどの二名の上位互換だった。
一刻も早く、この化け物を突破して魔方陣を破壊しなければならない。
だがどう考えても簡単にはいかなかった。
ヤイバと名乗るこの少年は、少なくとも単純な戦闘力においては二人のナンバーズを上回ったのである。
しかもいまだにその実力の片鱗すらみせていない。
「関係ないといいながら、いろいろとよく知っているようじゃないか。
ゴウグレの蜘蛛とはいったいなんのことだ?」
「ゴウグはぼくの生まれるはるか前に主のもとを去った創造物だ。
知性を強化したタイプと聞いている。独自のタイプの眷属を作り出す能力を持っている。」
「ゴウグレとやらも、また蜘蛛の魔物なのか?」
隙あらば強引にでも突破して。
マロクとシチカはそう考えていたが、ヤイバはまったくスキをみせなかった。いやスキはみせてくれていたのだが、それに乗れば、次の瞬間、斬殺死体となる。
名門ロデリウム公爵家の精鋭に、そう思わせるものがあったのである。
「ぼくらの体が蜘蛛に似ているのは、戦いに向いていたから、主上がそうして、それだけのことだよ。」
「主上とは、誰なのか?魔導師なのか?それともどこかの国の王なのか?」
「聞きたければゴウグレにきいてよ。」
「ゴウグレはどこにいるのだ?」
「質問攻めだね。」
だが、ヤイバは不快そうではない。会話を楽しんでいる。
そういえば、彼らがこの部屋にに侵入したときも本を読んでいた。
その本は。まだテーブルのうえに置かれたままだ。
タイトルはいま、グランダで流行っているのだろうか。転生したら蜘蛛のモンスターだった話しだ。明らかにこの少年が読むのにふさわしくないようだが、そういった無駄を楽しめる精神をもっているのだ。
「ゴウグレは、ランゴバルトにいるはずだ。冒険者学校に通ってる。」
「蜘蛛の化け物が、か?」
「いや、ゴウグレは、ぼく以上に人間の外見に近いはずだよ。」
ヤイバは、手を広げた。
攻撃するのか、とマロク、シチカは身構えたが、それは単に自分の体をよく見てもらおうと、しただけのようだった。
「ゴウグレには変身能力もないから。別にひとに混じって暮らすには何の問題もないはずだ。」
「なんとか、ゴウグレに連絡をとって、大聖堂の破壊をやめさせてもらえないか。」
ダメもと、でシチカは言ってみたのだが、この言葉は意外に効果があった。
「そんな風に頼むのはそちらの勝手だよ。ただ、ぼくらは主上の命令で動いているのであって、ゴウグレにもとめることはできないと思うよ。」
「ならば、その主上と話をさせてくれ。」
シチカは頼み込む。
このヤイバという少年をこれほどまでに、人間的に作ったのなら、あるいは説得が可能かもしれない。
「それは構わないと思う。うん、それが一番いいだろう。」
そう言いながらも、ヤイバがこちらを見る目は、気の毒そうだった。
「でも、主は『試し』の終わっていない有限寿命者の話なんて、まともに聞かないと思うから、まず『試し』をされると思う。
主もいまは、冒険者だから、やたらに殺さないように細心の注意は払うから、ぼくとこのまま戦うよりも生き残れる可能性は遥かに高い。」
話しをしているうちに、ヤイバは自分でも納得したようだった。
「うん、そうだ。その方がいい。もっといいのは、すでに試しが終わった者を通じて話しをしてもらうことだ。これなら、きみたちに命の危険はほとんどなくなる。」
「ありがたい。」
シチカは素直に礼をいった。
「では、我々が依頼すべき『試しの終わった』者と説得すべき主上が、誰かを教えてもらえるだろうか?」
「我が主は、神獣ギムリウス。」
この名前は、二人の精鋭を凍り付かせた。
「主に頼み事をするのなら、クローディア大公がよいだろう。主はクローディア大公に特別な恩義を感じているようだ。」
二人は視線を合わせて、頷き合った。
クローディア大公の滞在するアライアス侯爵の別邸ならば、ここからはほど近い。
そして、クローディア大公が、その主…神獣ギムリウスと連絡をつけられれば。
「あ、ありがとう、ヤイバ。」
「うむ、よき冒険者は、不必要な命のやりとりはしないものだ。」
少年も満足そうに笑った。
「しかし、きみたちの技は興味深かった。今度は体も武具も完全なときに改めて手合わせを願いたい。」
蜘蛛が進化した怪物が人間だった。
これだけでもあり得ないことないのに、それが尊敬に値する武人だということなど、ありうるのだろうか。
今度こそシチカとマロクは、敬意をもって少年に頭を下げて、脱兎の勢いでアライアスの別邸を目指した。
唯一の懸念事項は、彼らがクローディア大公と話しをし、さらに大公がギムリウスを説得している間に大聖堂が、食べ着くされてしまうのではないか、ということくらいだった。
二人が去って、数分後。
訪れた者たちは、さらにタチが悪かった。
今度は命を奪わずには終わらないな。
ヤイバは、嘆息して立ち上がった。
「やあやあ! 異世界勇者アキル参上だよ!」
これはまあ、いいとして。
「ドロシーと申します。そこをどいていただけませんか。」
「うむ、問答無用! わらわの好きな言葉なのじゃ。」
あとのお二人は明らかに先ほどの二名の上位互換だった。
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