あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

二番煎じと魔女たち2

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ラザリムが凹んだのは、まさに、彼女が半年前に行った企画がそれであり、それを通じて、彼女は、カザリームの上層部と太いパイプを作ったからだ。
もともと、事務所がもっていた実力が開花しただけ、やっと正当に評価されただけと、開き直りたいが、飛躍のキッカケになったのが、「真の踊る道化師は誰だ!?」というイベントなのは間違いなかった。

「まあ、人気のある企画に、二番煎じは、よくあることかと思います。」
という、ドロシーの言葉に、ラザリムは、少し頬を緩めた。
「でも、いまの段階で、大して話題にもならないところをみると、あまり関わりあわないほうがいいのでは?
『栄光の盾』を名乗れば、これ幸いとそいつらが、食いついてくるのは、目に見えています。」

「それはいい!」
ロウランは、手を叩いて笑った。
「また、スタジアムを借り切って、興行でもうってやるといい。ボッと出の『踊る道化師』であれだけ盛り上がったんだ。『栄光の盾』ならもっと参加したがるパーティも増えるだろう。」

ロウランとしては、単にからかったつもりであったが、ラザリムは真剣に考え込んだ。
スタジアムの借り賃、入場料、宣伝費、もろもろ。
ドゥルノ・アゴンたちに、ラザリムは、「悪役」をやらせるつもりだった。強大な力をもち、目的のためなら手段を選ばない、極悪非道な冒険者。そこにヘイトを集める意味で、あえてかつての勇者パーティの名前を名乗らせてみようかとも考えたのだか、いい。

これはいい。

「真の××トーナメント」は、しばらくたったいまになって、その内容が再評価されつつあった。
「真の」踊る道化師として、カザリームにデビューしたリウたちは、依頼アイテムを迷宮主ごと持ち帰ったり、階層主を退治する任務で、その階層主を配下に組み入れたりと、常識外の活躍を続けている。

ならば、彼らが「真の踊る道化師トーナメント」で、戦った相手もまんざら、相手が弱すぎたわけだではなく、リウが強すぎたのだ。

いまなら。
同じ趣向で同じ興行主が、似たような興行をうてば、それは二番煎じは二番煎じであっても、大いに盛り上がることは期待できる。

そして、それはドゥルノ・アゴンをリーダーとする「栄光の盾」のデビュー戦として、格好の宣伝になるのだ。

あとは、そうだな。

小柄な美少女は、ドロシーの手を握りしめた。目が怖いくらいにキラキラしていた。

「よし! やるよ。やろう!ドロシー。」
「は、いやなに、やるって、なにをです?」
「『真の栄光の盾』トーナメントだよっ!」
「は、はあ、」

たしかに自分は止めるようなことを言ったはずだよなあ、と思いながら、ドロシーは曖昧に頷いた。

「おまえだって、自分の男がいつまでもくすぶっていられるのも、いやだろう?
派手にデビュー戦をかまそうじゃないか!
もちろん、賞金も用意する。」

ドロシーは、天井を見上げて、ため息をついた。

そうなのだ。

もともとは、「最悪の形で裏切ってやるため」に、ドゥルノ・アゴンに身体を任せたドロシーなのだが、彼に勝利したあともなんとなく、その関係はまだ続いていたりするのだ。
もちろん、マシューと婚約した状態のままで、である。

我ながら、貞操観念どこいった、と思うドロシーなのだが、実際に体の関係をもったのはドゥルノ・アゴンしかいないので、まあ、成人に達した女性としては、普通なのではないか、と自分に言い聞かせている。

「わかりました。」

お好きにどうぞ、の意味でそう答えたドロシーだったが、ラザリムは満面の笑みを浮かべて、握った手をぶんぶんと振った。

「よし! そうと決まればまずは、参加チームを当たってくれ。いくらなんでも場末の闘技場で、セコセコ八百長してるやつらだけじゃあ、力不足だ。」
「ち、ちょっと、わたしはかんけいな…」

「もちろん! 共同開催者として利益は山分けだ。ちなみにおまえたちのトーナメントのときは、賞金そのた掛かって経費を除いて、ざっとこのくらい稼げた。」

グラスのコースターに走らせた数字は、、ドロシーが想像してものと二桁違った。

わずかなためらい。それを見逃がすようなラザリムでもなかった。

「実際、おまえ抜きでは上手くいくものも、出来なくなるような気がしててな。おまえは冒険者としても一流だし、事務や数字もわかる。交渉もできる。頼む。おまえしかいないんだ。おまえの力ありきの企画なんだ。なんとか力を貸してくれ。」

真面目にこつこつやるけど、たいした才能がない。
陰気な顔で、いるだけで周りが暗くなる。
猫背の痩せっぽちであれを欲しがる男はいないだろう。

そんな言葉を聞き慣れて育ったドロシーは、褒められるのにめちゃめちゃに弱いのだ。

「わ、わかりました。お手伝いします。」

ありがとありがと、そう言いながら、目までウルませるラザリムを、冷たい目で見ながらロウランは思った。

いまのドゥルノ・アゴンたちなら、わたしでも勝てるはず。これは…わたしも出場してやるか!

「いいか、まずはドゥルノ・アゴンのパーティと互角にやりあえるパーティを探してくれ。出来れば、そのパーティが参加することで西域全体から注目されるようなパーティがいいが、いくらなんでもそこまでは図々しい頼みか。」

確かに、図々しい。だが、ドロシーには心当たりがあった。

「わかりました。とっておきのパーティを用意します。」
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