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第9部 道化師と世界の声
賢者の到着
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格好が古風な以外は、何の変哲もない青年で。
冒険者には、見えない。貴族にも見えない。もちろん、戦士にも騎士にも見えない。
呆れたことに、魔導師にすら見えなかった。
では。なにか?と言われれば、「学者」という大きな枠でくくることは出来ただろう。
ただ、判断に困るとすれば、彼が若い教師なのか、学生か、それくらいのものだった。
若者は、視線の集中に、戸惑ったように、一同を見回した。
そうしながらも、お付きの侍女が差し出したケーキを、ばくりと口に入れている。
「ぼくは、確かに『踊る道化師』の何人かとは友人でもあるし、彼らに対しては協力を惜しまない関係にある。」
口に、ケーキを頬張ったまま、いくぶんともごもごしながら、彼は言った。
「だが、ぼくは道化師ではないよ。あくまでもオブザーバー程度だ。」
「誰だ、おまえは?」
カハラは、もう剣の柄に手をかけている。
これは必ずしも彼女が戦闘的な性格である、からではない。
この面子のなかでは、彼女が一番、普通の人間に近かった。つまり、刺されれば、血が出るし、悪くすればそれだけで死んでしまう。
そして、人間は魂を分割したりする器用な技はもっていないので、死んだら復活はとても難しい。
ならば、先制攻撃によって先に、相手を倒すしかない。
青年は、カハラを無視した。無視することで、挑発したのかもしれない。
神速の踏み込みからの斬撃は、巨大なデスサイズによって、受け止められた。
青年の傍らで給仕をしていた侍女の細腕が、それを握っていた。
「彼女は、シャーリーという。」
カハラの一撃を食い止めたときの、衝撃で、フードは吹き飛んでいる。
まるで、聖女のように優しく、また整った顔で、シャーリーは微笑んだ。
「ウィルニア。今の『誰だ?』は、あなたに対しての問いですよ。」
「なにを言ってる。」
青年は、もごもごと抗議した。
「話が、ぼくのことに、なったので、そこで声をかけたんだ。話の流れからも、いまさら自己紹介の必要は無いに決まってる。」
「それで理解が、可能なのはあなたのお友達の、リウさまかルトくんくらいだと思いますよ。」
「賢者ウィルニア殿!」
一番先に、われに帰ったのは、アシットだった。
彼は、カハラに剣を引くよう頼むと、すばやくその足元に跪いた。
眼の前の優男が、本物のウィルニアか、あるいはその転生かなにかか、はたまたそう名乗るだけの痴れ者か。は、さて置くとして。
この事態を収拾するには、この男を利用するしかなさそうだと、悟ったのだ。
カハラは神妙な顔で、おとなしく剣をひいた。
刀身まで黒い、見たこともない古代文字を彫りつけた剣は、ひとまず鞘に収まった。
「これはご丁寧に。カザリームのアシット・クロムウェル。」
ウィルニアの挨拶は、ややそっけなかったが、アシットの顔がほころんだ。地名のあとに、名前をつけて呼ばれるのは、その地名を代表するものとして、認められたことになる。
彼が、ほんとうに賢者ウィルニア、あるいはその膨大な知識につながるものであるならば、これは大変に光栄なことをだった。
「わたしをご存知なのですか、賢者ウィルニア。」
「聞いていますよ。いろいろと妙な性癖をもっているようだが、それが見事の魔道の修練に昇華させている。当代の西域・中原を代表する魔導師のひとりに、間違いないでしょう。今回は、わたしの友人であるフィオリナとともに戦ってくれるそうですね。」
妙な性癖、は気になった。取り敢えず、アシットの中では、まだ彼の行動は、それなりに正当化されていた。
まだ、十歳そこそこだったフィオリナを愛しいと思い、告白してふられ、替わりに彼女をモデルに作られた魔道人形を持ち出した。そのあと、7年以上の長きにわたって、人間としてフィロリナ人形を育て、彼女を正式に伴侶にするつもりでいたところで、リウに取られた。
「きさまが、本物の賢者ウィルニアだということを証明してみせよ。」
ダウ=ギルは。構わずに、ウィルニアに詰めろようとした。
シャーリーが割って入ろうとしたが、カハラがそこにさらに小柄な体をねじ込んだ。
「邪魔をするのか、小娘。」
「むろんだ。この方は、愚帝と彼に支配された教皇庁によって、アンデッドへ作り替えられて、宮廷地下の迷宮に放逐された聖女シャーリーさまだ。
わが、『真なる女神』が地上における神の代弁者として、崇めるお方だ。」
冒険者には、見えない。貴族にも見えない。もちろん、戦士にも騎士にも見えない。
呆れたことに、魔導師にすら見えなかった。
では。なにか?と言われれば、「学者」という大きな枠でくくることは出来ただろう。
ただ、判断に困るとすれば、彼が若い教師なのか、学生か、それくらいのものだった。
若者は、視線の集中に、戸惑ったように、一同を見回した。
そうしながらも、お付きの侍女が差し出したケーキを、ばくりと口に入れている。
「ぼくは、確かに『踊る道化師』の何人かとは友人でもあるし、彼らに対しては協力を惜しまない関係にある。」
口に、ケーキを頬張ったまま、いくぶんともごもごしながら、彼は言った。
「だが、ぼくは道化師ではないよ。あくまでもオブザーバー程度だ。」
「誰だ、おまえは?」
カハラは、もう剣の柄に手をかけている。
これは必ずしも彼女が戦闘的な性格である、からではない。
この面子のなかでは、彼女が一番、普通の人間に近かった。つまり、刺されれば、血が出るし、悪くすればそれだけで死んでしまう。
そして、人間は魂を分割したりする器用な技はもっていないので、死んだら復活はとても難しい。
ならば、先制攻撃によって先に、相手を倒すしかない。
青年は、カハラを無視した。無視することで、挑発したのかもしれない。
神速の踏み込みからの斬撃は、巨大なデスサイズによって、受け止められた。
青年の傍らで給仕をしていた侍女の細腕が、それを握っていた。
「彼女は、シャーリーという。」
カハラの一撃を食い止めたときの、衝撃で、フードは吹き飛んでいる。
まるで、聖女のように優しく、また整った顔で、シャーリーは微笑んだ。
「ウィルニア。今の『誰だ?』は、あなたに対しての問いですよ。」
「なにを言ってる。」
青年は、もごもごと抗議した。
「話が、ぼくのことに、なったので、そこで声をかけたんだ。話の流れからも、いまさら自己紹介の必要は無いに決まってる。」
「それで理解が、可能なのはあなたのお友達の、リウさまかルトくんくらいだと思いますよ。」
「賢者ウィルニア殿!」
一番先に、われに帰ったのは、アシットだった。
彼は、カハラに剣を引くよう頼むと、すばやくその足元に跪いた。
眼の前の優男が、本物のウィルニアか、あるいはその転生かなにかか、はたまたそう名乗るだけの痴れ者か。は、さて置くとして。
この事態を収拾するには、この男を利用するしかなさそうだと、悟ったのだ。
カハラは神妙な顔で、おとなしく剣をひいた。
刀身まで黒い、見たこともない古代文字を彫りつけた剣は、ひとまず鞘に収まった。
「これはご丁寧に。カザリームのアシット・クロムウェル。」
ウィルニアの挨拶は、ややそっけなかったが、アシットの顔がほころんだ。地名のあとに、名前をつけて呼ばれるのは、その地名を代表するものとして、認められたことになる。
彼が、ほんとうに賢者ウィルニア、あるいはその膨大な知識につながるものであるならば、これは大変に光栄なことをだった。
「わたしをご存知なのですか、賢者ウィルニア。」
「聞いていますよ。いろいろと妙な性癖をもっているようだが、それが見事の魔道の修練に昇華させている。当代の西域・中原を代表する魔導師のひとりに、間違いないでしょう。今回は、わたしの友人であるフィオリナとともに戦ってくれるそうですね。」
妙な性癖、は気になった。取り敢えず、アシットの中では、まだ彼の行動は、それなりに正当化されていた。
まだ、十歳そこそこだったフィオリナを愛しいと思い、告白してふられ、替わりに彼女をモデルに作られた魔道人形を持ち出した。そのあと、7年以上の長きにわたって、人間としてフィロリナ人形を育て、彼女を正式に伴侶にするつもりでいたところで、リウに取られた。
「きさまが、本物の賢者ウィルニアだということを証明してみせよ。」
ダウ=ギルは。構わずに、ウィルニアに詰めろようとした。
シャーリーが割って入ろうとしたが、カハラがそこにさらに小柄な体をねじ込んだ。
「邪魔をするのか、小娘。」
「むろんだ。この方は、愚帝と彼に支配された教皇庁によって、アンデッドへ作り替えられて、宮廷地下の迷宮に放逐された聖女シャーリーさまだ。
わが、『真なる女神』が地上における神の代弁者として、崇めるお方だ。」
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