あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

第一試合開始!

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「ルトくんとは会えたのですか?」

と、シャーリーは主人に尋ねた。

「ダメだ。連絡が取れない。」
ウィルニアは機嫌が悪い。

シャーリーが驚いたことに、ウィルニアは、ルトとフィオリナ、リウをめぐる一件については、本当に反省しているようなのだ。
このしょっちゅう、ふざけたことをしている男が、しみじみと、「謝り方を忘れてしまった」とぼやいていた。

やることなす事、さえなく。
普段なら、必ず面白がっって介入するに決まっているジウル・ボルテックの「魔道拳法研究会」の件も、スルーしてしまっている。

「世界の声」の一件など、ここでおまえが出なくてどうする、とシャーリーなどは、思ったのだが、相変わらず、第六層と魔道院の執務室を行ったり来たりするだけである。

やる気があるのかないのか、以前に運動不足が心配になるような日々が、半年以上続いていた。

リウから、『鏡』の貸与をお願いされた時には、踊りあがって喜んだ。
さらに、ルトが試合の実況を頼みたがっていると知ると、狂喜乱舞した。

「これで仲直りできるぞっ!」

どこかのお子ちゃまだろうか。
と、シャーリーは思った。
そりゃあ、チャンスではあるけれど、このまま、なんとなく、元の鞘に収まるには、ウィルニアの裏切りは酷すぎた。しかも、ルトに対しても、リウとフィオリナに対しても、である。

「まあ、いい。」
と、この稀代の魔法使いは呟くのである。
なにが、まあいいものかと、シャーリーは言いたくなるのだが、言の葉と一緒に瘴気でも出しそうで黙っていた。

「見てろ! わたしは、やれる限りのパフォーマンスを発揮してやる!
見て驚け! 聞いておののけ!
これが、上古の昔より、人類の叡智の化身たる賢者ウィルニアだっ!」

ウィルニアは、魔道回路に魔力を流した。
これで、カザリーム最大のスタジアムの映像は、カザリーム各所に、ミトラに、ランゴバルドに、グランダに。
設置された映像装置に、「放映」されるはずだった。


--------------------------


ミトラの最大の劇場は、満席だった。
貴賓席に座ったガルフィート伯爵は、その娘「剣聖」カテリアを、懸命になだめている。
なんだかんだで、愛娘には甘々なガルフィート閣下は、またも!勇者クロノに置き去りにされたカテリアのために、この貴賓席をなんとか確保したのだ。

「クロノ!」 
カテリアは、爪を噛みながらそう繰り返している。
どうも、クロノは、出奔まえに、踊る道化師のドロシーと関係をもったらしい。
そのことに、カテリアは苛立ち、困惑し、怒っている。
ドロシーは、容姿もさることながら、「踊る道化師」の一員だ。クロノが、寝所にひっぱりこんだり、こまれたりしているその他大勢の貴族のバカ娘とは格が違うのだ。
場合によっては。
ミトラでの貴族の生活も『勇者』の名声も、カテリア自身も。平気で捨てていける。踊る道化師は、それに充分値する存在であり、今回、教皇庁がクロノを強く叱責すれば、当然彼はそうするだろう。

その隣りに座っているのは、アライアス候爵とその一人息子。そして、今日は小姓姿の可愛らしい少年は、そう見えるだけで、名をギムリウスという。

「本当に、あの巨大な壁に動く絵が表示されるというのか?」
アライアスに問われて、ギムリウスは頷いた。

アライアス候爵の方針はもう決まっている。
兄である枢機卿にも働きかけて、クロノの出奔はなかったことにする。
『栄光の盾』トーナメントへの出場は、教皇庁が内々に勇者に打診したものであり、その罪を問うことはない。
ならば、あとはせめて優勝して欲しかった。

ギムリウスは、自分の髪を弄ぶおぼっちゃまの手をそっと、握ってやりながら、アライアスに言った。
「ウィルニアの鏡です。」
「踊る道化師には、上古の大賢者の技術を伝えているものがいるというのか?」

伝えているもなにも、ウィルニア自身の作品だったし、それが使われているということは、リウは、ウィルニアを許したのだろうか。

「もとももは通信機として開発したものだと、きいてます。」
ギムリウスは、あまり嘘が上手ではなかった。
「冒険者学校との対抗戦が、好評でしたので、今回も採用することになったのでしょう。しかし、設置だけならともかく、運用となると、ウィルニアがいないとうまく行かないかと思います。」
「なるほど。」

ギムリウスが、その祖となった神獣の名を受け継いだように、ウィルニアもその知識と技を受け継ぐものは、ウィルニアの名を名乗るのだろうか、

「高度な魔法技術、あるいは強大な魔力そのものが必要ということなのだな。」
「違いますよ。」
ギムリウスは、容赦なく言った。
こういうところの人情の機微は、神獣にはわからない。
「こんな面白そうなことに、ウィルニアが首をつっこまないわけはないのです。リウやルトから止められているならともかく、『鏡』の設置を依頼されたのなら、呼ばれなくてもやってきます。」

それはどういう、とアライアスが、言いかけたときに、前の前の壁が光った。

次の瞬間に、巨大な壁に(アキルがいたら『スクリーン』とかなんとかもうちょっと適切な表現をとったのだろうか)光が点った。
巨大な映像。
写ったのは、まだ若い男性だ。なかなかハンサムではあるが、愛想良い笑顔はやや軽率な印象を受ける。大昔の学者がきるようなトーガを身につけていた。
画像は鮮明で、そのサイズを除けば、まるで目に前に、その人がいるかのようだ。

会場はざわめきにつつまれた。
宝珠をつかった魔法での通信、さらには、魔法を使った映像や音声の拡大。そういったものは、珍しい代物ではあったが、そういうものが「ある」ことを知らない者は、西域にはいない。
だが、それにしても目の前の画像は、ちらついたり、ぼやけたところはまるきりなかった。

続いて話始めてた声もまた、鮮明で、目の前で普通に話されているようだった。

「あーーーーっ、遠距離の『放映』は久しぶりだ。映像は届いてるな。音声も。
さて、カザリームの皆さん、遠くは、ランゴバルドまたはミトラのもとにもこの動画は届いていると思う。グランダ魔道院の諸君も、これは見るだけで単位がとれるからぜひ参加してほしい。」

「ご主人さま。」
傍らに座る清楚な美女が、そっと指摘した。
「まずは自己紹介です。」

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