あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

真の解説王

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「ええっと!」
勝利者インタビュー、とやらにぼくは、呼ばれている。

ウィルニアとシャーリーのいるのは、ぼくらの控えスペースとして用意された円盤より、一回り大きい。

なにやら、チカチカに光る機材がいろいろと置かれている。
ウィルニアの「鏡」だけで、大小約20枚。
いろんな角度から、場内や各パーティの控える円盤、はては、客席まで様々な「絵」を映し出していた。

「いやあ、激戦でしたね!
戦ってみて感想はいかがですか?」

シャーリーはにこやかに、ぼくにそう問いかけるのであるが、その姿は嫋やかな聖女の姿を失い、真っ黒な骸骨と化している。

直に見たら、それだけで気を失う程度の代物だが、ウィルニアの「配信」技術を通すとどうなのだろう。
観客にとっては、案外、これは劇場で演劇を見るようなものであり、シャーリーの姿が変わるのも、一種の早変わりのようなものだと思われているのかもしれない。

「ええっと、そうですね・・・」
ぼくは、下手なインタビューになんと答えていいのか、わからずに、口ごもった。
「とても強い相手でした。とにかく、気持ちだけは、負けないように、とそれだけを意識して。あと、パーティのみんながの応援が背中を押してくれました。」
「まさに、パーティみんなでつかんだり勝利というわけでしょうか?」
「そのとおりです!」
王立学院のときの、クラス対抗戦を思い出しながら、ぼくはめいっぱい、いい笑顔で頷いた。

実際には、グルジエンが見ていてくれたかどうか、ということろで、アシットとベータは、手当に行ったままだし、フィオリナは、信徒第一号と守護聖獣たちに、神殿に彼女の像をいくつ飾るか、その衣装をどうするかで詰められていて、それどころではなかった。

神殿を、オールべに建てるところまでは、もはや困った信徒たちの中では、既成事実となってしまっており、議論の余地もなかってのである。

「ところで、ランス選手のことですが」

それを聞く!?

「絶精霊王。そう名乗っていたようですが。上古以来、人類文明とは、途絶した精霊が再び、その姿を人類の前に現した。その意味をどうお考えでしょうか?」
「そこらへんは、鉄道公社にお尋ねください。」
「鉄道公社は、これまでも、いわゆる『八大列強』に次ぐ、まったく新しいタイプの勢力となるのでは?と推測されてきました。」

シャーリーは、感慨深げに語ってくれるんだけど、何百年か迷宮暮らしのくせに、政治情勢の把握の具合は、たいしたものだな。
ウィルニアが、政治の世界にはまったく無関心なのに比べると、シャーリーは国際情勢とか、そっちのほうに振り切っているようにさえ、思えた。

ウィルニアが暮らしていたころの、国家や組織は、カザリームや『紅玉の瞳』など、ごく少数しか残っていないのに対し、シャーリーは元々、聖光協会の聖女で、ギウリークの皇族だっただけのことはある。

もっとも地下迷宮に落とされて、生き延びる(?)ために、アンデッドとなった彼女が、どの程度ギウリークと教皇庁に好意が残っているのかは、言うまでも無いが。

「ですが、各国が特記戦力として養成している超常部隊、ギウリークの『聖竜師団』、ランゴバルドの『聖櫃の守護者』、銀灰皇国の『悪夢』に比べても、『絶士』は、頭一つ、抜きん出ているように思えます。通常戦力は、結局は数の勝負になりますが、これも戦力の集中に『鉄道』という手段を無制限で使える鉄道公社が有利です。その保安部が抱える『絶士』とじっさいに戦ったあなたさま。
『絶士』が、いかほどの者なのか、あなたにお伺いしたのです。」

しまった!
ぼくは、心のなかで舌打ちした。ぼくの「認識阻害」は、さすがに自分の使い魔には、効きが悪いのだ。
シャーリーは、ぼくが「認識阻害」を使っていることまで、汲み取って、名前を呼びはしないが、少なくともその質問は、見ず知らずの魔法士見習いルウエン少年にするものではないだろう。

「ランスが『精霊王』または精霊につながるものであったのは、間違いなさそうですか?」

「それについては、わたしも興味がある!」
好奇心と探究心が子猫なみのウィルニアまで、割り込んできた。
「そもそも意志を通わせることのできる『精霊』などは、昔でも希少だった。そもそもテリトリーを巡って、人間と争う必要もなかった精霊は、知性をもつ上位種、魔物でいうところの災害級の出現そのものが、ありえないことと、されていた。
あのランスとかいう『絶士』のもつエネルギーは未知のものだ。」

「話がそれすぎです。」
ぼくは抗議した。
「ここは、国際情勢や精霊の存在について、議論する場所では有りません。」

「そういえばそうだ。」
ウィルニアは、咳払いをして、口調をかえた。
「さあ! 激戦の末に『真・栄光の盾』に勝利をもたらしたルウエンくんにきいてみよう!
ランス選手が最初に使った積層魔法陣を砲身にして、発射した魔法を相殺したのは、きみの魔法だったが、あれは古竜のブレスを再現したものだね?
理論としては、わかるが、あんな無茶をするものは、わたしの友人でひとりしか知らない。なぜなら、人の身にそなえる魔力では、あれを作動させることはとてもかなわないからだ。
きみは、人類史上、ブレスを再現した二人目の魔導師ということになる。
しかも、だね。ランスの積層魔法陣からのエネルギーの99.8%を相殺した制御の正確さは、たぶん、友人であるルトに匹敵する。」

「いや、それは」
さすがにぼくは抗議した。
「99・998%は相殺したはずだ!」

「残余エネルギーによる爆風をふせいだのはわたしの障壁だ。99.8・・・・いや正確には99.915・・・・」
「99,996!」
「確かに、障壁への圧力には差異があった。平均値から推察するに、99.931はあったかもしれない。しかし・・・」
「99.994!」

「何を不毛な会話をしている。」
解説席の、そして会場に備え付けられた巨大な「鏡」すべて、ひとりの少年の姿がうつった。

観客席から、女の子たちの、きゃあという悲鳴があがった。
もちろん、うれしい方の悲鳴だった。
ドロシーからの報告では、リウはカザリームでは、有名な舞台役者がそうであるような人気があるらしい。

たまにはぼくも美少年といってもらえるのだが、本当の美少年というのは、彼のようなのを言うんだろう。
柔らかな和毛につつまれた可愛らしい猛獣は、それが猛獣であることの猛々しさを見せつけるような笑いを、浮かべながら、会場を、そして西域各所に設置された「鏡」の前の観衆に呼び掛けた。 

「カザリーム以外の者には、はじめてお目にかかると思う。オレは、『踊る道化師』カザリーム分遣隊隊長のリウ。
ミトラでご覧いただいている方には、オレの双子の妹がお世話になったかもしれない。」

あのな、リウ。
あんたは、千年前に世界を滅ぼしかけた魔王なんだけどなあ。
いくらなんでもそれが、そのまま生きてたらまずいから、ミトラじゃ、魔王宮攻略中の冒険者が、魔王宮に取り残され、その子孫だってことに無理やりしたよなあ。ちょっと女の子に化けたりして。
それを反古にして、女の子バージョンのリウを双子の妹ってことにして?

でも、まあ、これはぼくもちょくちょくやってしまうのだが。
説明は奇想天外なほうが、納得させやすいのだ。
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