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第9部 道化師と世界の声
真なる女神を崇めるもの
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シャーリーは、普段は、それはそれは美しい。もともとの自分の姿だというのだか、若干は「盛っている」のではないかと、ウィルニアは踏んでいる。
で、機嫌が悪い時は、いまの彼女の実態でもある巨大な黒いスケルトンの姿を顕にするのだ。
2メトルを超える身の丈を、二つにたたむようにして、下からウィルニアを睨め付ける。
それは、たいそう恐ろしいもので、気の弱いものなら、失神しただろうし、ある程度、鍛えた勇気のあるものなら、戦おうとしただろう。
平然としていられるのは、ウィルニアとルトくらいのものである。
リウは、何をやってんだか、と言わんばかりに、肘掛けつきの椅子に、どこっかり腰を据えていたが、シャーリーの凶気に反応した、彼の武具が勝手に動き出そうとするのを、止めるのに精一杯だった。
「やりすぎですっ!」
シャーリーは、そう言ったが、舌も声帯もない骸骨の身体でよく、喋れるものだ。
そう思ったウィルニアは、シャーリーを褒めた。ウィルニアは別に、周りの人間に対して、特に残虐でも無ければ、暴力的でもない。
よいところに気がつけば、積極的に褒めたりもする。たいていは、的外れで相手をいっそう、苛立たせたりするのだが。
「やりすぎってなにが。」
ウィルニアは、身につけたトーガがみるみるどす黒く変色していくのを、困ったように見守りながら、そう言った。
「いや、でもヨウィスのあれは、間違いなく反則だよ!?
いくら彼女が、ぼくの大事な秘書だからって、いやだからこそ、見逃したり、簡単な注意だけで、試合を続行したら問題だと思うんだ。」
「結果、『愚者の盾』は3人になりました。」
「ゲームバランスとしては、それくらいでちょうどいいんじゃないか?
クロノもボルテックも『階層主の試し』を終えた強者だよ。
あ、そういえば、あの面子で『階層主の試し』を追えてないのは、ドロシー嬢だけだね。これはどこがで機会を設ける必要があるな。
ねえ、シャーリー、誰が適任かな。
ロウとギムリウスは、ドロシーにべったりすぎるし、アモンは面倒くさがるだろう? 魔王宮からオロア老師にでもお出かけいただくかね?」
「あなたの言ってることは、ひと言も間違っていませんが、言うべき場所を間違えています。」
シャーリーは、いつの間にか十体以上に増殖している。
眼球を失った眼窩の奥に、ちろちろと鬼火が、燃えていた。
「『真なる女神の盾』が、5対 3で破れたら、そんな負け方をしたら、あの教団はもう存続できなくなります!」
「別にそれはどうでもいいんじゃないか?」
「“わたし”を信仰してる教団ですよ。」
「向こうが勝手に、きみを神さまに祭りあげただけだ。別にどうでもいいだろう?」
「でも、その、なんか」
骸骨の姿がブレて、清楚な修道女が姿を現した。
「かわいそ、過ぎません?」
「おまえはルトかっ!」
ウィルニアは、数少ない友人の名前を出して突っ込んだ。
確かにルトならそうするだろう。
例えば、彼が客席にいたら、荒れた試合場の整地をどうするかで、気を病んでいたはずた。
そういうところが、彼にはある。
しかし、シャーリーまで、その影響を受けているとは!
「まあ、みててごらん。きみには悪いけど、あの教団はもう終わりだ。」
---------------------------
カハラは全てを呪う。
育った銀灰皇国を。産んた母親を。父親を。
父は、銀灰皇国の貴族だったそうだ。
母は、カハラの目から見ても美しかったし、聖光教会の異端の分派である彼女たちに、なにがしかの利用価値を見出したのだろう。十日に一度は、彼女達の暮らす家を尋ねてきていたし、金銭的な援助もあったようだ。
だが、それは信仰に目覚めたカハラには、穢れた行為に思われた。
「真なる女神」として、かつての聖女シャーリーを崇める異端の集団は、教皇庁の手を逃れ、西域では唯一、聖光教の力の及ばぬ銀灰皇国に逃れた。
二百年!!
このまま、ここで朽ちるのか。
そんな年齢でもないのに、カハラはそう決め込んだ。
ここで、育ち、適当な男との間に子を産まされ、次代に「真なる女神」の物語を紡いでいく。
カハラは、母親から教団の主導権を奪い取った。母は元より、そんなものに関心はなかったし、カハラは血統的に正当な後継者だったから、これはうまくいった。
銀灰を出る!
カハラは、みなに号令をかけたが、反応は薄かった。
もはや、先祖代々、この地で暮らしている。
暮らし向きは、楽とは言い難い。耕作には向かない山岳地帯が大半の銀灰皇国では、人口そのものが少なく、魔力をもたないものは、そもそも人間関係扱いもされなかった。
だが、何代もここで暮らせば、それはそれで慣れる。
いまさら、ここを出てどうしろ、と?
迫害をうけながら、諸国を彷徨いながら、布教を続けろ、と。
しかし、数少ない信者たちから、それでカハラが嫌われたか、というとそうでもない。
聖職者が、出来もしない理想を説くのはよくあること。
ありがたい教えは、心の隅にしまって、信者たちは、翌日からもそれぞれの稼業に精を出した。
そんな空回りの日々の中。
「血の聖者」サノスから、カザリームでの「栄光の盾」の名をかけたトーナメントの情報が流れてきたのだ。
で、機嫌が悪い時は、いまの彼女の実態でもある巨大な黒いスケルトンの姿を顕にするのだ。
2メトルを超える身の丈を、二つにたたむようにして、下からウィルニアを睨め付ける。
それは、たいそう恐ろしいもので、気の弱いものなら、失神しただろうし、ある程度、鍛えた勇気のあるものなら、戦おうとしただろう。
平然としていられるのは、ウィルニアとルトくらいのものである。
リウは、何をやってんだか、と言わんばかりに、肘掛けつきの椅子に、どこっかり腰を据えていたが、シャーリーの凶気に反応した、彼の武具が勝手に動き出そうとするのを、止めるのに精一杯だった。
「やりすぎですっ!」
シャーリーは、そう言ったが、舌も声帯もない骸骨の身体でよく、喋れるものだ。
そう思ったウィルニアは、シャーリーを褒めた。ウィルニアは別に、周りの人間に対して、特に残虐でも無ければ、暴力的でもない。
よいところに気がつけば、積極的に褒めたりもする。たいていは、的外れで相手をいっそう、苛立たせたりするのだが。
「やりすぎってなにが。」
ウィルニアは、身につけたトーガがみるみるどす黒く変色していくのを、困ったように見守りながら、そう言った。
「いや、でもヨウィスのあれは、間違いなく反則だよ!?
いくら彼女が、ぼくの大事な秘書だからって、いやだからこそ、見逃したり、簡単な注意だけで、試合を続行したら問題だと思うんだ。」
「結果、『愚者の盾』は3人になりました。」
「ゲームバランスとしては、それくらいでちょうどいいんじゃないか?
クロノもボルテックも『階層主の試し』を終えた強者だよ。
あ、そういえば、あの面子で『階層主の試し』を追えてないのは、ドロシー嬢だけだね。これはどこがで機会を設ける必要があるな。
ねえ、シャーリー、誰が適任かな。
ロウとギムリウスは、ドロシーにべったりすぎるし、アモンは面倒くさがるだろう? 魔王宮からオロア老師にでもお出かけいただくかね?」
「あなたの言ってることは、ひと言も間違っていませんが、言うべき場所を間違えています。」
シャーリーは、いつの間にか十体以上に増殖している。
眼球を失った眼窩の奥に、ちろちろと鬼火が、燃えていた。
「『真なる女神の盾』が、5対 3で破れたら、そんな負け方をしたら、あの教団はもう存続できなくなります!」
「別にそれはどうでもいいんじゃないか?」
「“わたし”を信仰してる教団ですよ。」
「向こうが勝手に、きみを神さまに祭りあげただけだ。別にどうでもいいだろう?」
「でも、その、なんか」
骸骨の姿がブレて、清楚な修道女が姿を現した。
「かわいそ、過ぎません?」
「おまえはルトかっ!」
ウィルニアは、数少ない友人の名前を出して突っ込んだ。
確かにルトならそうするだろう。
例えば、彼が客席にいたら、荒れた試合場の整地をどうするかで、気を病んでいたはずた。
そういうところが、彼にはある。
しかし、シャーリーまで、その影響を受けているとは!
「まあ、みててごらん。きみには悪いけど、あの教団はもう終わりだ。」
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カハラは全てを呪う。
育った銀灰皇国を。産んた母親を。父親を。
父は、銀灰皇国の貴族だったそうだ。
母は、カハラの目から見ても美しかったし、聖光教会の異端の分派である彼女たちに、なにがしかの利用価値を見出したのだろう。十日に一度は、彼女達の暮らす家を尋ねてきていたし、金銭的な援助もあったようだ。
だが、それは信仰に目覚めたカハラには、穢れた行為に思われた。
「真なる女神」として、かつての聖女シャーリーを崇める異端の集団は、教皇庁の手を逃れ、西域では唯一、聖光教の力の及ばぬ銀灰皇国に逃れた。
二百年!!
このまま、ここで朽ちるのか。
そんな年齢でもないのに、カハラはそう決め込んだ。
ここで、育ち、適当な男との間に子を産まされ、次代に「真なる女神」の物語を紡いでいく。
カハラは、母親から教団の主導権を奪い取った。母は元より、そんなものに関心はなかったし、カハラは血統的に正当な後継者だったから、これはうまくいった。
銀灰を出る!
カハラは、みなに号令をかけたが、反応は薄かった。
もはや、先祖代々、この地で暮らしている。
暮らし向きは、楽とは言い難い。耕作には向かない山岳地帯が大半の銀灰皇国では、人口そのものが少なく、魔力をもたないものは、そもそも人間関係扱いもされなかった。
だが、何代もここで暮らせば、それはそれで慣れる。
いまさら、ここを出てどうしろ、と?
迫害をうけながら、諸国を彷徨いながら、布教を続けろ、と。
しかし、数少ない信者たちから、それでカハラが嫌われたか、というとそうでもない。
聖職者が、出来もしない理想を説くのはよくあること。
ありがたい教えは、心の隅にしまって、信者たちは、翌日からもそれぞれの稼業に精を出した。
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