疎まれ魔女は、年下騎士の執愛に食み尽くされる~別れ話をしたら媚薬を盛られました~

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46.たぶん大団円

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 シルヴァンの計画では、セラとテオドールの母を中心とした女魔法使い数名が帝国で無痛分娩の技術を学ぶ予定だったが、セラはそこから外されることになった。
 セラが帝国へ渡るとなると、その間、ロズリーヌに仕える魔法使いがいなくなってしまう。また、近々結婚する予定のテオドールとも離れ離れになってしまう。そのあたりの配慮がなされたのだろう。

 テオドールの母と、彼女の旧友でもある女学長によって、帝国へ渡る人材の選出が行われ、王国における無痛分娩の普及計画がスタートした。
 女学長せんせいは当初、無痛分娩に対しては帝国医師会の見解を信じて否定的であったが、昨今は意見を変えつつあるらしかった。学長としての経験が彼女を変えていったのだろう。

 また、王室は王太子妃が無痛分娩を希望していることを正式に公表した。国民だけではなく、ロズリーヌの実家からも反対意見が寄せられたのだが、そのほとんどにシルヴァンが対応した。

 シルヴァン自ら帝国の無痛分娩推進派の魔法使いらを招き、王国民に対して安全性を説いた。そして、もしロズリーヌが生まれてきた子に一切の愛情を抱かなかったとしても、父親であるシルヴァンが二人分の愛を注ぐと演説まで行った。

 結果、王国内において男性の育児参加率が上がり、同時に虐待や育児放棄で保護される子どもの数が激減した。

***

 宮廷におけるセラの立ち位置は、以前とあまり変わらない。
 メラン伯爵家の御令息との婚約を発表したことで、表向きに『魔女』と罵られることはなくなったが、年下のおぼっちゃまを色仕掛けで篭絡しただの、顔がいい女はそれだけで得をするなど、そういった悪罵を耳にする機会が増えた。

 だがメラン伯爵家の後ろ盾を得たセラは、宮廷魔法使いの男たちに対して今まで以上に強気で挑めるようになり、たまに嫌味を返して留飲を下げたりした。

(まぁ、色仕掛けしたのも、顔がいい女なのも事実だしな~)

 そんなことを考えながら、セラは自らに与えられた部屋の掃除をしていた。

 西館の空き部屋に、王太子夫妻専属魔法使いのための執務室が作られることになったのだ。セラ専用というわけではなく、いずれ帝国から戻ってくる女魔法使いたちが使うための部屋でもある。

 机も椅子も棚も使い古しだが、上質な素材で作られており、むしろ味が出ている。
 カーテンだけは新品だが、淡い黄色の小花柄で、セラの趣味ではない。いったいどこのどいつが選んだんだか。『女性が使う部屋だから可憐な柄がいいよね』と安易な考え方をした奴がいるのだろう。

(いい部屋をもらえたのは嬉しいけど、つまり仕事が増えるってことだよなぁ……)

 大きく嘆息しながら、セラは部屋の隅に置かれた転移装置を恨めしげに眺める。オーブリーによって設置されたもので、いつ何時なんどき、彼がここへ転移してくるかわからない。

(あの赤毛チビめ。プライバシーもなにもあったもんじゃない)

 などと考えていると、さっそく装置がぼんやりと光り、仏頂面の『赤毛チビ』が姿を現した。眉根を寄せて不愉快そうにしているのは、彼にとって転移魔法が不得意分野だからだろう。おそらく、頭痛か吐き気を覚えているはずだ。

「ああ、筆頭殿。なにか御用ですか」

 表向きはにこやかに尋ねると、オーブリーはむっつりとしたままなにも答えず、小脇に抱えた本を机の上に並べた。

「これは……?」

 表紙を確認すると、分野は様々で、魔法学だけでなく、語学や歴史の本もあった。魔法学校で使われていた教科書によく似ているが……。

「帝国へ渡る必要がなくなった代わりに、お前に勉強を命じる」
「えっ」
「魔法実技に関しては才能が大きく物をいうため、力不足はやむを得ないが、せめて知識に関しては並の宮廷魔法使いと同程度のものを身につけろ。あと二十冊ほど持ってくる」
「にじゅっ」

 言葉を失うセラをよそに、オーブリーは淡々と続ける。

「それと、ロズリーヌ様専属の魔法使いを数人ばかり増やしたい。お前に人選と教育を命じる。折を見て魔法学校へ出向き、適切な人材を見繕って来い」
「あ、わ、わたし一人では不足だと……」

 動揺あらわに尋ねると、オーブリーはセラに冷たい視線を向けながら答える。

「今後、怪我や病気で長期休養を取らねばならない事態も起こりうるだろう。そういうときに備えて、最低でももう一人はロズリーヌ様のお側に仕える女魔法使いが必要だ。……それに、人が増えれば、お前の休日を増やすこともできる。新婚のときくらいは、御夫君との時間を作れ」
「あ……お気遣いありがとうございます」

 オーブリーから予想外の優しさを見せられ、セラは呆然としながらもなんとか礼を述べる。テオドールとの蜜月のことさえ考慮してくれるとは思わなかった。

(嫌味でムカつく男だが、彼が筆頭でなかったら、わたしはとうに宮廷から逃げ出していただろう)

 セラを『魔女』と見下す他の宮廷魔法使い連中とはぜんぜん違う。かといって、セラが女だからと特別扱いすることもない。いや、多少の配慮はしてくれるが、厳しく接してくれるのは非常にありがたい。

 オーブリーへ尊敬と感謝の眼差しを向けていると、なぜか大きなため息をつかれた。

「現在の女学長になってから、優秀な女生徒が増えていると聞く。慢心していると、ロズリーヌ様の側近の座を追われるぞ」
「…………」

 彼を見直したそばから、さっそく小言が始まった。

「とりあえず、今月中に模擬筆記試験を行って勉学の成果を見せてもらう。増員については、来月中にいったん報告をまとめろ。わたしも吟味する」
「ちょっ、今月中って、あと半月しか……それに来月はロズリーヌ様の公務が立て続いて……!」

 セラの抗議をさらりと受け流し、オーブリーはさらに畳みかけてくる。

「あともう一つ。前々から言おうとは思っていたが、お前はほんとうに字が汚い。もしお前が宮廷魔法使いの試験を受けたとしても、回答を見る前に筆跡で不合格だ。結婚後は手紙を書く機会も増えるだろう。婚家に恥をかかせるな」

***

(あ゛――――――っっ!! ムカつくムカつくムカつくムカつく!!!!)

 胸中でオーブリーへの怒りを大爆発させながら、セラは机に向かっていた。渡された本にひととおり目を通してから、理解の易い分野から勉強に取り組む算段だ。
 感情は乱れまくっているが、内容はなんとか頭に入ってくる。苦手分野も多々あり、学習には難儀しそうだ。

(薬学と旧帝国語はまあ大丈夫……。うへぇ、東方の魔法史まで暗記しないといけないのか……それと、都市防衛の基礎だって? 勘弁してくれ……)

 しかし、模擬試験でよい結果を出さねば、オーブリーのさらなる嫌味がセラを襲うだろう。

 とはいえ、セラを目の敵にしているわけではなく、将来を見越してのことだとわかってはいる。
 シルヴァンの計画では、いずれセラが筆頭にならなくてはならないのだから。それはいくらなんでも無謀だと思うが、帝国へ派遣した女魔法使いたちが帰ってくるまでに、セラは今まで以上に宮廷で力をつけておく必要がある。オーブリーとともに、彼女たちを守らなくてはならない。増長しきっている宮廷魔法使いの男どもから。

(でも……もうちょっと猶予をくれたっていいだろうが……っ!)

 憤然としながらふと背後をうかがうと、テオドールが長椅子に腰かけて悠然と読書をしていた。彼はセラの不在時にも家へ上がり込むようになり、ほとんど半同棲状態になっていた。

 宿舎暮らしの彼は、結婚と同時に退舎せねばならないのだが、それまでの間、嫉妬に駆られた仲間たちから与えらえる『祝福という名のイジメ』に耐えねばならないらしい。

 テオドール自身、結婚の決まった同僚たちにさんざん悪さをしてきたという。
 特に、洗濯済みの下着にカマキリを仕込むという悪戯は最高に盛り上がったらしいが、いざ自分がその立場となると、とうてい笑っていられないと震えていた。
 温和で優しい彼も、若い男の集団に混じると、ただのバカになるようだ。

(自業自得じゃないの。追い出そうかな……)

 などと考えつつ、テオドールの手元をよくよく見てみると、彼が真剣に読んでいるのはセラが勧めた歴史小説ではなかった。セラが学生時代から愛読している官能小説だった。書架の隠し棚に入れておいたはずなのだが……。

「ちょっと、なに読んでるの!」

 セラが声を荒らげると、テオドールは顔を上げてはにかんだ。

「ああすみません、読み込んだ形跡があったものですから興味をそそられて……。思いのほか過激な内容ですね。こういった行為がお好みでしたら、喜んで協力いたしますよ」
「テオドールッッッ!!」

 セラの本気の怒りを察した青年は、慌てて本を閉じて書架へ向かった。彼が手慣れた様子で隠し棚を開くところを見て、いかがわしい書籍はすべて捨てようと決意した。男性同士の性愛を描いたものは発見されていないと信じたい。

「セラ殿、セラ殿」

 手持ち無沙汰になったテオドールは、人懐っこい笑みを浮かべてセラのそばへとやってきた。セラの顔を覗き込みながら、うきうきとした声で言う。

「セラ殿、父がいくつか新居の候補を見繕ってくれたので、明日にでも見に行きませんか。あと、使用人を面接する必要があって……」

(このクソ忙しいときに!)
「使用人って住み込みでしょ? 赤の他人と暮らすのイヤなんだけど」
「でも、広い家に越したら人手が必要になりますよ」
「……じゃあ、今のままがいい」

 ぽつりと本音を漏らすと、多幸感に満ちていた青年の顔が曇る。

「セラ殿……」
「別居婚……」
「セラ殿!」

 半泣きで肩を揺すられ、セラは「あーごめんごめん」と謝り、青年の頭を撫でてやった。犬のように身をすり寄せてくる彼を見ながら、なんだか最近やたらと甘えたがりになってきたなぁと思う。

「それとセラ殿、全員の都合がなかなか合わないので延期されていますが、両親と正式に会っていただかないと。セラ殿の父君も含めて……」
「うっ」

 テオドールの母とは、魔法学校の学長室で会って話をした。小柄ながらも溌溂はつらつとした女性で、少し気圧けおされはしたが、女学長せんせいがいてくれたおかげで、緊張せず伸び伸びと会話できた。魔法使いを辞してなおその知識は潤沢で、女魔法使いとして生涯尊敬することになりそうだ。

 セラの父には、結婚報告の手紙を出した。宮廷魔法使いとして身を立てていく覚悟ができたおかげで、ようやく父と向き合う決心がついた。
 近々王都へ来てくれるそうだが、なにせ十年以上顔を合わせていないのだから、どんな顔でどんな話をすればいいのかさっぱりわからない。一人前になった自分を見せたい反面、胃が痛い。

「あと、やはり結婚式をするべきだと、祖父母が強く言っていて……」
「ううっ」
(心の底からやりたくないっ……。準備にも時間をかれちゃうし……)

「国王陛下がご一家で参列を希望されているそうですが、いっそそうしていただいた方が、宮廷内での貴女の立場も盤石になるかと……」
「うううっ」
(しゃしゃり出てくるなよ国王一家クソデカボイスファミリー!)
「もう結婚やめる!!」

 ヒステリックに叫びながら立ち上がると、すぐさま抱きすくめられ、全身から冷や汗が吹き出した。

「『逃がさない』と言いましたよね」

 低くゆったりした声が耳をくすぐる。途端、身体がカッと熱くなった。
 『媚薬ブランゲーネ』はとうに身体から抜けたが、肉体は快楽をしっかり記憶している。ゆえに、あの日と同じように囁かれると、色欲に火がついてしまうのだ。

「ご、ごめん、結婚はやめない。ちょっと魔が差しただけでぇ……」
「四日前にも同じやり取りをしたばかりですよね。なのにもう結婚の意思が揺らいでしまうなら、また改めて身体と心にわからせて差し上げた方がよさそうですね」
「ひゃっ!」

 軽々と抱き上げられて、セラは悲鳴を上げる。

「ではセラ殿、ベッドへ行きましょう」
「ちょっ、だから今は、そんなことしてる場合じゃなくて……!」
「『そんなこと』ってなんですか!」
「あーもう、降ろしてってばぁ!」

 抗議の声は、ほどなくして甘い悲鳴に変わった。
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