アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月

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Ⅲ いざ、王城へ! 嫌われるぞ!

②※

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 翌日。カロール王子殿下から朝食のお誘いがきた。避けて通れないことだ。

身支度を整えて王家専用ダイニングへ案内してもらう。リンはすれ違う全ての使用人に会釈をし、姿勢よく完璧な姿で移動した。

使用人の中には頬を染めて振り返って見てくる者やリンに見惚れる者もいた。良い反応だ、とリンは満足する。
(僕は高飛車で完璧で、嫌なオメガだろう?)
そう心で呟く。

「こちらでございます。カロール殿下は席についておられます」
「分かりました。ありがとう」

教えてくれたハカルに小さく礼を言うと、頬を染めたハカルが頭を下げる。

「失礼します。遅れて申し訳ありません」
一礼をしてダイニングに入る。室内には昨日嗅いだ良い匂いが漂う。心臓がドクリと鳴る香りだ。何のお香だろうかと考える。ぜひ教えて欲しいとリンは思った。

「昨日の今日で、急に誘って迷惑だったかな?」
低く柔らかい声。ゾクリとするリンの背筋。

頭をあげて椅子に座っている人を見た。ハニーブロンドの髪。エメラルドの瞳。優しい目元の美丈夫。身体が大きい。神話の中の神様のようだ。光り輝いて見える。

これ、きっとカロール王子殿下、のはず。初めて見るアルファだからかリンは雰囲気に威圧されて立ちすくんでしまった。するとカロール殿下が席を立ちリンの傍に来る。フワリと匂いが濃くなる。

「大丈夫? 席まで案内するよ」
リンの背中に手を添える殿下。並ぶと殿下の背の高さが分かった。百六十二センチのリンがカロール殿下の胸に包み込まれてしまう。百九十センチは身長があるだろう。すごい存在感だ。

リンをエスコートする手が大きい。逞しい身体を直に感じて心臓がバクバク鳴る。
「さ、座って」
声がかけられて殿下を見上げる。

近くで見ると綺麗な緑の瞳に吸い寄せられそうになる。もっと匂いを嗅ぎたい。もっと強く抱きしめてほしい。そんな欲望がリンの心に沸き上がる。リンはカロール殿下をじっと見つめた。

「愛らしい、ね。すごく、綺麗だ」
殿下の口から零れる言葉。ニコリと微笑まれて、はっと我に返る。

「あ、大変申し訳ありません。ありがとうございます」
エスコートしていただいた礼をどうにか伝えてリンは席に着いた。

顔が熱い。一体どうしたのだろう。これがアルファの力なのだろうか。チラリと見ると正面の席で侍従に指示を出している殿下が目に入る。その仕草だけでリンの心臓の音が速くなる。

「リン、食べられないものはある? 飲み物はどうする?」
声をかけられて心臓がドキッとする。リンの事を、呼んだ。綺麗な低い声がリンの名を呼んだ。恥ずかしい様な妙な感覚がリンの心に芽生える。

この心臓のドキドキを隠さなくてはいけないとリンは必死になった。平静を装い深呼吸してカロール殿下に微笑む。

「ありがとうございます。食べられないものはありません。すべて殿下に合わせます」
正面のカロール殿下がリンを見て嬉しそうに頬を染める。

「リンはとても美しいね」
また褒めてもらえた。嬉しいけれど、その心の内がバレないようにリンは頭を下げる。

「恐れ入ります。殿下にお褒めいただけて光栄です」
当たり障りなく過ごして、早く自室に戻りたいとリンは思った。自分の変な心が理解できなくてリンは戸惑っていた。

「リン、今日の予定は?」
「特にありません」

「では、後ほど庭園を案内しよう。城内庭園には鳥が住んでいるよ。フクロウとか、ね。昼間の寝ている姿が見られるかもしれないよ」

殿下の言葉に、リンは昨夜の可愛い大フクロウを思い出した。やっぱり王城にフクロウが居るのだ。もう一度会いたい。

「ぜひ、よろしくお願いします」
「では食後にリンの部屋に迎えにいくね」

本日の約束をして、すごく長く感じた朝食が終わった。食後に自室に戻ってリンは『ワガママ』を実行し忘れたと反省した。

 朝食を思い返して、カロール殿下は悪いアルファじゃないかもしれないとリンは思った。



「リン、部屋から見える部分は中庭の一部だよ。こちらに林を作っている。野鳥が巣をつくっているのはこの木々だ」
約束通りにリンを迎えに来たカロール殿下と散歩をしている。
「陽が強いのに木陰は気もちいいですね。小鳥のさえずりが伯爵邸を思い出します」

王城はメチャメチャ広い。そびえたつ主城だけでなく、宮殿が敷地内にいくつも建っている。兵舎もあれば牛舎や鳥舎などあらゆるものがある。この中庭も敷地内のほんの一部。馬を走らせる馬庭もある。

「ほら、危ない。足元に気を付けて」
さりげなくリンの背中を支えるカロール殿下。その優しさと良い匂いにリンの心臓がドキリと鳴る。

「ありがとう、ございます」
心の動揺がバレないように祈りながらリンは当たり障りのない対応を心がける。

「大人数で入ると林に住む鳥たちが驚くかな。付きの者は東屋で休憩の準備を。ここからはリンと俺の二人で散歩する」

リンの肩を抱いたまま侍女たちにカロール殿下が指示を出す。
「かしこまりました」
ついてきていた侍女と護衛が一気に距離を置いて静止する。彼らを残してカロール殿下は歩みを進める。

「リン。これで二人きりだ」
リンの肩を抱いたまま歩くカロール殿下。相変わらず良い匂いの香をまとっている。

「一人で、歩けます」
これ以上密着すると心臓が破裂しそうで、リンは柔らかくカロール殿下のエスコートを断る。残念そうにリンを解放するカロール殿下。一人で歩けることに一安心したとき。

「わぁっ」
カロール殿下との距離に気を取られ過ぎてリンは木の根に躓いた。転ぶ、と思ったがリンは大きな身体に抱き留められていた。

「びっくりしたぁ。リン、怪我は? 足は大丈夫?」
リンを抱き留めたまま殿下が荒い息を吐く。殿下の身体に抱きしめられて、荒い息も全てがリンに伝わってくる。

心臓がドキドキと鳴りだす。セレスとは経験したことのない胸の高鳴り。転びそうになった驚きと抱き留められている現実にリンの脳が混乱する。手が、震える。その震えが殿下に伝わる。

「うん。怖かったね。一緒に居たのに怖い思いをさせてゴメンね。あぁ、リン。良い匂いだ。俺が手を離したからいけなかった。こうして腕の中に入れておけば良かったのだ」

リンの頭に言葉を注ぐようにカロール殿下が話す。キラキラと木漏れ日が綺麗な中で、カロール殿下の腕から抜け出せなくて、リンは殿下を見上げる。

そのまま、カロール殿下の綺麗な顔が近づく。リンは顔をそむけることが出来なかった。遠慮がちに触れる唇。高鳴るリンの心臓の音。気持ち良くて抵抗が出来ない。脳がしびれたように思考停止している。

自然と誘うようにリンが口を開けていた。リンの中に深く入り込むカロール殿下の舌。身体も頭も大きな力で押さえられて動けない。

強烈なアルファフェロモンに当てられて目の前がグラグラ揺れる。アルファの唾液は痺れるほど甘美だ。身体の力が抜ける。

そのまま木に押さえつけられてシャツを裂かれる。リンの肌に噛みつかれる。「いたぁ! 痛い!」と何度も声に出した。痛みに頭がクリアになる。理性が戻ると恐怖に足が震えた。涙が止まらなかった。

リンの性器を手淫して「可愛い。俺のオメガだ。俺だけのオメガだ」と繰り返す殿下が怖かった。圧倒的な力の差に震え、それでも反応する自分の身体が分からなくて、リンは泣いた。泣いて悲鳴をあげた。

「リン様! きゃぁ、カロール殿下!」
「殿下、正気になってください! このような場所で、なりません!」

駆け付けた侍女と護衛が殿下に声をかける。すぐにリンとカロール殿下の周囲に目隠しの布が張られる。だけどリンから殿下を離してくれる人はいない。

「なんで! 誰か、助けて!」
リンが必死で叫んでも、この行為を止めようと動く者はいない。

「早く殿下をお隠しして!」「殿下を見せてはなりません!」そんな周囲の声だけが聞こえてくる。明らかに襲われているリンを誰もが無視する。ショックで悲しくてリンは涙が止まらなかった。

城勤めの人たちはカロール殿下だけを守る人たちなのだと痛感する。貪るようにリンに襲い掛かるカロール殿下を泣きながら抱きしめる。どうにか暴走を止めなくてはいけない。リンの素肌に舌を這わせ、時折血が出るほど噛む殿下。痛みに顔をしかめてリンは必死で訴える。

「カロール、様。やめて。痛くて、苦しい。もう、やめ、て」
目隠しの布向こうに人が居る。恥ずかしい部分をさらけ出して、こんな場所で襲われる辛さで頭が割れそうに痛い。

アルファフェロモンに抗ってカロール殿下をたった一人で止めなくてはいけなくてリンの心が震える。リンは泣きながら殿下の両頬を手で包み込む。リンを貪る殿下の動きが弱まる。カロール殿下の顔をリンに向けさせる。

「カロー、ル様。もう、おやめ、ください。もう、やめて。お願いします。もう、これ以上は、しないで」

目を合わせて泣きながら訴える。カロール殿下の目に理性の光が戻るのが見えた。青ざめていく殿下の顔。驚愕の表情。

「え? あぁ、嘘、嘘だ! こんな、あぁ、リン。どうしよう。大切に、大切にしようと思ったのに。こんな、こんな……」

(あぁ、もう大丈夫だ)
そう思いながらリンは意識を手放した。
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