真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月

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Ⅲ ダイエットには運動も!

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 夏休みに入った。平日は凛太朗の家で宿題をする約束だ。

 酒井の家に行くのも考えたが、キッチンをほとんど使用していないため料理できる環境か分からずに断念した。それに勝手知ったる自分の家の方が料理しやすい。

 夏休み初日の今日は、酒井が初めて凛太朗の家に来る日だ。約束の九時半ちょうどに「ピンポーン」とインターホンが鳴った。

 すぐに凛太朗は玄関を開けた。
「おはよう! 酒井」
 待っていました、と言わんばかりの勢いになってしまった。驚いた顔の酒井を見て凛太朗はばつが悪くなった。苦笑いすると、酒井はにっこり笑ってくれた。

「おはよう。お邪魔しまぁす」
「うん、入って」
 酒井を招き入れてドアを閉めた。

「あ、これ。お菓子でも持って行けって父さんが」
 酒井が箱菓子を出してきたので笑ってしまった。
「お宅訪問か! 気にしなくて良いのに。でも、ありがとな。母さんパートに行ってるから、帰ってきたら渡すよ」

「うん。昼間は凛太朗だけなの?」
「そう。長期休みは持て余す自分の時間」

「いつもはゲーム?」
「あたり」
 軽く話をしながらリビングに案内した。

 凛太朗の家は一階にリビングダイニングがあり、二階に凛太朗の部屋がある。母が居ないのならリビングで一緒に勉強したほうが広くて快適だ。

 それに凛太朗が料理するときに目の届くところに酒井が居て欲しい。一緒に料理したら酒井が自炊できるようになるかも、と考えて凛太朗は大きく息を吐いた。火事を思い出すトラウマがあるのならコンロを使うのを見ない方が良いかもしれない。

「酒井、昼飯作る時って、火、使うけど大丈夫か?」
 重くならないように軽く聞いた。

「あぁ、料理は手伝えないかも。ちょい、震えがくる」
 明るく言うが、凛太朗から目線をはずしている酒井の様子で気持ちを察した。

「じゃ、料理中は筋トレでもしていて」
「うん。ごめん」

「ばーか、謝るなよ。よし、今日はできたての美味しさを酒井に届けるぞ!」
「シンプルにそれが楽しみだぁ」

「おい、夏休みの課題やるのがメインだからな」
 軽口を叩きながら、トイレの場所など家の中を案内してダイニングテーブルに課題を広げた。

「はぁ、多いよな」
「だよな。自主性に任せるとか言いながら、必須課題の量。ウケる」
 始めこそ文句を言いながらだが、やり始めたら一時間は集中して課題に取り組んだ。凛太朗がぐぅっと伸びをして時計を見れば十一時だった。

「酒井、一休憩するか?」
「あぁ、すげ。結構頑張ってた」

「だな。どうする? ちょいテレビつけるか?」
「あ、じゃぁ凛太朗の好きな動画見たい」

「いいね。酒井はラーメンおにぎりチャンネル知ってる?」
「お、見てる。チャレンジ動画」

「そう。それ見てると時間溶けるから好き」
 凛太朗はソファーに移動してリビングのテレ部をオンにした。
 すぐにユーチューブに切り替えて『ラーメンおにぎりチャンネル』を映す。ちょうど新しい動画がアップされていて、それを選んだ。

「お、二十時間チャレンジじゃん。これはヤバいよな」
「わかる。大人がこんなことして良いのかよって思うよな」

「生涯少年みたいな感じ?」
「あ、それ。あ~~、僕も生涯青春で良い気がする。受験とか、めんどくせ」

「生涯青春かぁ。俺は早く大人になりたいけどな。大人になって楽しみたいことが出来たから」
 酒井の意味深な言葉が引っかかる。

「楽しみたい事って?」
「ん、大切な人を自分の力で甘やかす、とか」

「はぁぁ⁉」
 思いがけない酒井の発言に凛太朗は大声を上げていた。大切な人って、酒井の好きな人のことだろうか。それとも、家族的意味合いだろうか。凛太朗の中にグルグルと考えが駆け巡った。

「凛太朗?」
 急に無言になったことを不審に思ったのか酒井が顔を覗き込んできた。間近に酒井の存在を感じて凛太朗はのけ反って慌てた。

「さ、酒井は、好きな人がいるって事?」
「あ、まぁ、うん」

 酒井が真っ赤になり、凛太朗から離れた。想像もしなかった酒井の返事に凛太朗の心臓がバクバクとうるさく響く。耳鳴りがしそうな感覚がした。

「相手、誰?」
 聴いてはいけないと思いながらも聞かずにはいられなかった。声が低くなっていたかもしれない。

「……その内、話すよ」
 酒井はゆったりと一言をこぼして、ユーチューブ画面に目線を向けた。
 その顔は耳まで赤かった。

 それほどまでに想う相手が酒井にいると考えると、凛太朗は泣きたくなった。友人として応援すべきだろう。でも、どうしても「頑張れよ」と言えなかった。

「俺は、今、こうして凛太朗と居る事が幸せ」
 画面を見たままの酒井がポツリと言った。凛太朗は真っ赤のままの酒井の横顔を見た。

(酒井には好きな人がいる。けど、今は僕と居る時間を楽しんでいるんだ。僕は、友達としては酒井の一番だ)
 そう自分に言い聞かせても、心臓が冷え込むような、ズキズキした痛みが引いてくれない。この気持ちをどうして良いのか分からず、凛太朗は席を立った。

「凛太朗?」
 酒井が不安気な声を出した。凛太朗は深呼吸して酒井に声を掛けた。

「おう、飯の準備するわ。酒井はこっちに居て」
 酒井を見ずにキッチンに向かった。

 きっと酒井は雰囲気の変わった凛太朗の態度に気が付いたかもしれない。でも凛太朗は笑顔で酒井に向き合う自信が無かった。自分の態度をフォロー出来ない。どうして自分がこんなに惨めな感情を抱いているのか分からず、唇を噛みしめた。
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